終章 修復の始まり その6
6 『御魂石のターン5』
地下に避難していた人類は食糧難に見舞われ、人類の敵は人類、という言葉が生存者たちに植えつけられて行ったとき、ついに共食いが始まった。
残されたわずかな人類たちは飢えからの殺りくによりその数を減少させて行き、《未来の希望》という名をつけられた赤ん坊も、ある日、眠ったまま眼を覚まさなかった。嘆き、絶望する数少ないホモサピエンスたちは、かろうじてつなぎとめていた理性を崩壊させ、互いにさらなる殺し合いを始めた。武器を持たない人間たちの戦いは、醜い、ものだった。殴打、ひっかき、そして、噛みつき。血みどろの争いは、一年ほどで、終結した。
一部の昆虫と小動物が地球の支配者となって数万年後、一匹のねずみがある地点で、とつぜん狂乱した。
近くにいた仲間を襲う。襲うと言っても、喰らう訳ではなかった。それは、不思議な光景だった。
口腔から伸びる無数の管。それが相手にまとわりついて行く。奇妙なことはさらに続いた。その管を巻かれたねずみが、自由を得たあと、他のねずみを襲い出したのだ。そうやって、ネズミ算式に、連鎖は繰り返された。
地球という惑星から人間が滅びたあと、小動物たちの、新たな進化が始まろうとしていた。
つづく




