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終章 修復の始まり その1

   終章 修復の始まり


     1 『御魂(みこん)(いし)のターン』

 山そのものを修復することは不可能だったが、かろうじて原型をとどめていた《御魂石の(ほこら)》を中心にして、鏡菜たち元嫁候補の家が再建されて行った。配置こそ、東西南北とかつてを思い出させるものだったが、月葉家を守る効力は、すでに失われていた。


 蘭松亡き今、栄ひとりでは、かつての世界への抑止力はなかった。それでも、いつ戻るとも知れない彼女の能力に恐れをなして、必要以上に警戒して、国による武力制圧はない。

 それでも平穏、とは言えなかった。復興へ向けて、生き残った使用人たちが奔走している。


 一番はやく修復が完了した鏡菜の家に姿を現したのは、表情に深みを増したシュウだった。過去の経験が、彼を成長させたのだろう。


 呼び鈴を押し、返事を待たずに彼はずかずかと上がり込んだ。

 以前の丸い建物と違い、一般的な日本家屋になっていたので、シュウは迷わず居間に着くことが出来た。

 紅茶を楽しんでいた鏡菜は、勝手に上がりこんできたシュウを叱るでもなく、優しく言った。

「久しぶりだな、シュウよ。しかしどうしたのだ、そんなに慌てて」

「紅茶なんか飲んでいる場合じゃないですよ。それもこんな広い屋敷で、たったひとりで。なんで専属使用人を持たないんですか?」

「使用人はマングウで間に合っている」

「そのマングウさんはキノコさんと旅に出て、二か月以上帰ってきてないじゃないですか。もう天寿をまっとうされているんですよ」

「寂滅の門を超え――」

「わ、わ、冗談ですよ冗談! ってなんで僕は焦っているんだ?」シュウは肩で大きく息を吐いた。「まったく、本当にかわらないね。鏡菜さんだけですよ。彼の安否を心から信じているのは……」


 そこでシュウはしまった、とくちを閉ざした。しかし、鏡菜の態度に変化はない。少しだけ胸をなでおろすシュウ。


「そんなことよりなにしに来た?」

「ああそうでした。栄さんから伝令です。今すぐ、御魂石の祠まで来てほしいって」

 鏡菜はティーカップをテーブルに置き、眼を細めた。

「召集とは珍しい。何かあったのか?」

「わかりませんが、どこかウキウキしている感じでしたよ」

 鏡菜はそれを聞いて腰を上げた。

「今すぐ準備をしよう」

 鏡菜がそういう行動をとることはシュウでなくてもわかっていた。栄が楽しみにする、という言葉の意味、それは、彼が帰ってくるのではないか、と期待してしまうのだ。

 そう……あの日以来、姿を消してしまった風太郎の帰還を……。


つづく

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