第八章 ナノマシン その4
4 『蜜神 鏡菜のターン7』
煙に覆われ、まひるの姿は確認できないけれども、どこにいるのか、ボクにははっきりとわかった。落下するままに身をまかせる。これを、最後にする。その決意を込めて。下りる。
「おい、フウフウ。おぬし、何をした?」
「驚かせちゃったね、鏡菜。でも、今は話している暇はない。来るよ」
煙をかき分け、ウニのような形状の物体が上昇してきた。ナノマシンの塊だ。棘が蠢いている。だけどボクはウニの後方に移動してやり過ごす。第二弾、三弾も同じように回避する。煙が晴れ、眼の前にまひるの姿が浮かんだ。銀色の血管が皮の中から透けて見え、両眼もまた、銀色と化していた。
ナノマシンに支配された、まひる。最大の犠牲者、まひる。
鏡菜が言う。
「まひるを救うぞ」
「それなんだけど」ボクは鏡菜の顔を見た。「まひるの……いや、ナノマシンの精神内に入ろう」
「なんだと。ワタシの能力は、無機物には入れないと言ったではないか」
「大丈夫。鏡菜の能力は次のステップに進んでいるし、もうあいつは生き物だ。それに、ボクがついている。いっしょに、入ろう」
鏡菜がボクの顔を見つめ返し、しばらく黙っていたが、やがて笑顔を浮かべた。
「おぬし、変わったな……よし、わかった。未来を……自分の未来をおぬしに託そう。後悔しても、もう遅いぞ」
「しないさ」だって、勝利は確定しているんだから、という最後のほうは、詠唱が始まっていたので鏡菜には届かなかった。
《人間ごときが我にかなうものか。愚かなり!》
「勝てるんだなあ、これが」ボクは鼻で笑う。
ナノマシンが全身の毛孔からマシンを飛ばした。ウニと同じ要領で回避したとき、鏡菜の詠唱が終わった。
「寂滅の門を超え、真の生と真の死の境界を心眼もちていざ行かん。サイコ・ボム」
つづく




