表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/62

第七章 月葉戦郁 その9

     9 『月葉 戦郁のターン2』

 要地という片腕を失い、まひるはさぞかし意気消沈していることだろう、と予測していたが、違う意味で裏切られた。

 規格外の大きさの赤ん坊が天守跡に尻をついて座っている。折り曲げられた足の上に鎮座するまひる。そのくちには余裕とも取れる微笑が浮かんでいた。

 彼女を見上げる鏡菜、栄、虎乃新、シュウ、塊子、そして陽の五人。ボクが加わり六人。

 まひるの顔に光はない。どうしたのだろう。警戒していると、塊子が一歩前に出た。


「残念だったね、まひるちゃん。まさか、運魂ちゃんが改心するなんて、塊子も思ってもいなかったわ。コントロール出来るとなると、ナノマシンだけを切り刻むことが可能。まひるちゃんにとって、とてもやっかいよね」


 シュウが空を見上げながら言う。

「あいつら、度重なる失敗に警戒しているみたいだ。爆撃機が襲来するのはまだ先の話だよ」


 虎が腕を組んだ。

「邪魔するヤツは、いないということだな」


 陽=運魂が剣の先をまひるに向ける。

「雑魚は雑魚らしく、泣きわめきながら切られるといい」


「油断するなよ」鏡菜が一同の気を引き締める。「なにが飛び出してくるかわからん。みんなのちからを合わせて、一気に攻める。栄よ、サポートを!」


 攻撃に移る前にボクはあることに気づく。その伏線となったのは塊子の言葉。『運魂ちゃんが改心』だ。それによって鏡菜たちが爆破されない理由を悟った。


「運魂が、みんなの体内に巣くうナノマシンを破壊したんだね」


 何を今さら、とでも言いたげに鏡菜がボクを見る。知らなかったのはボクだけ? 

 鏡菜がさらに指示を出す。

「フウフウ、おぬしにも活躍してもらうぞ。さあ、栄よ、指示を出せ!」

 そのとき、栄の様子がおかしいことに気づいた。他の五人もまた、彼女に顔を向ける。

「ご、ごめんなさい……」

 まさか今ここで……能力消滅?

 瞬時に鏡菜が機転をきかす。

「シュウ、おぬしは栄を守れ。塊子は単独、ワタシとフウフウ、陽と虎のコンビで攻めるぞ」

 やはりそうだ。栄の能力がまた消えた。

 コクリと頷き、ボクはまひるを見上げる。


 彼女の白い髪の毛がまっすぐ下に垂れさがるのではなくて伸び、そのすべてが、座する巨大赤ちゃんの体内に吸い込まれていた。彼女のふたつの眼球が上下左右ばらばらに動き、口元はガムを噛んでいるかのようにもごもさせている。

「鏡菜さん、まひるが、なにかをしている」

 ボクの言葉に鏡菜が反応した。

「まずいぞ……」

 その刹那、まひるの両眼が発光し、口を丸く広げ、機械のようなかすれた音を発した。


「我が名は戦郁。地球を統べる者!」


 ボクは鏡菜に質問する。その答えが、謎の解明につながるかもしれない。

「鏡菜さん、彼女の能力の副作用は?」

「ナノマシンの増殖による精神障害だ」

「どういう意味?」

「ナノマシンというのは自己増殖を繰り返す。それは知っているな?」

「エネルギーが供給され続ければ、でしょ?」

「うむ。そして一個一個、すべてに人工知能が搭載されていることも知っているな?」

 ボクの推測が真実味を帯びてきた。おそらく、この考えは、間違っていないだろう。

「まひるは、どれくらいのナノマシンを、自分の体内に作り上げているのかな?」

「想像するだけで、おそろしい……」

 疑惑が確信に変わった。

 だからボクは顔を上げ、声を高らかに言った。


「お前の正体はナノマシンだな! まひるさん、負けるな。機械なんかに、支配されるな」


 巨大赤ん坊が腰を上げた。

 ウワアアアアアン

 朱に燃える山を背景に、オレンジ色の後光を背負った赤ん坊が泣く。それと同時に大地がぱちぱちと小さく()ぜる。

 陽が唸る。それをなだめる虎乃新。

 なにが起こっているのだ。


「我は戦郁郁郁郁我はまままひひる我々は、我々は、個個個個個…………………


 我は、ナノマシン。地球最大の犠牲者!」


 ピカピカ光る物質が大地を離れ、浮上して行く。小さくしたホタルのようだ。幻想的な光景を茫然と見守っていると、背後で栄がつぶやいた。

「ごめんなさい。わたしたちの、敗北です」


 光の正体がナノマシンの一粒一粒だと知ったときには、月葉家所有の山を破壊するだけの、大爆発が起こっていた。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ