第七章 月葉戦郁 その8
8 『夜追 要地のターン』
「久しぶりだな、ありがとうはどうした?」
爆発は、上空で起こっていた。要地の作り出した鏡がミサイルをはじき返し、惨劇を回避させたのだ。
今までどこに行ってたんだ、と言って、さらに近づこうとしたが、ボクと陽ははじかれた。
空中で体制を立て直し、地に降り立つ。
「結果的に鏡菜たちを救うことになったが、俺はな、風太郎、まひるのしもべなんだよ」
爆撃機が旋回し、もう一度戻ってきた。それを見てボクは要地に言う。
「目下の敵は、あの戦闘機だ。ボクたちの戦いに部外者は邪魔だろ。いっしょに、やろう」
「言われなくてもな」
陽を置いてボクは上空へ移動。要地が両手を広げ、まひるが無表情のまま巨大赤ちゃんに指示をだす。ぎゅるるると赤ちゃんの腕が伸びて爆撃機を一機破壊する。残る四機。要地が能力を発動した。見えない壁に激突して炎上する機体。残る三機。三隊編成へ変更した爆撃機だったが、何故か、一機が戦線を離脱して行った。見下ろすと栄がにっこりとしている。残る二機。ボクは冷たい機体に触れた。消滅する。生き先は太平洋の水中。
最後の一機が四発のミサイルを発射した。しまった、と焦ったところで四発のミサイルは大きく弧を描いてUターン。そこでまひるが声を上げる。
「ナノマシンが支配権を持った。ミサイルは太平洋にある母艦へロックオンした。そして――」
爆撃機が帰って行く。
「パイロットもまた、母艦で爆発する運命」
危機は去ったが、衛星などで監視は続けられているだろう。第三、第四の攻撃が来る前に、まひるをなんとかしなければならない。
ボクはすぐにまひるの元へ飛んだ。しかし、またしても見えない壁に遮られる。要地の能力を先に突破しなければ彼女に近づけない。だからターゲットを要地に変える。
大地に足をつけ飛ぶのではなくて走る。
「いくらお前でも無理だ。バイバイ」
要地が鼻で笑う。無視して走り続ける。
鏡の能力の正体はなんだ? そもそも鏡とはなんだっけ。そうだ。滑らかな平面における光の反射を利用して容姿や物の像などをうつし見る道具で世界最古の鏡はチャタル・ヒュユク遺跡から出土した黒曜石でアルノルフィーニ夫妻の肖像というゴシック様式の鏡なんてとても不思議な感じがして眼を奪われるとかそういうのはどうでもよくて今大事なのは要地の能力。
鏡なら、試したいことがある。
「予言する。お前は、まひるに指一本触れることは出来ない」
穴だらけの道を迂回しながら進み、しばらくして要地の能力に触れた。はじかれる。彼の言葉通り、まひるに接近することすら出来ない。
虎乃新同様、視認できない。どこに鏡を設置しているのか、気づいたときにはもうはじかれているのだ。
そこでボクはそうだ、と思い出す。右眼を閉じる。
出てきた出てきた。銀、プラチナ、アルミニウムらしきもので空気に幕を張っている。こいつがそうか。確認し、ボクは再び駈け出した。
「何度やっても無駄だ。俺の能力の前では、何人も、近づけない」
「そうかもしれない。でも、要地さんの能力を利用すれば、簡単に――」目前に鏡が迫ってきた。ボクは腕を伸ばし、そして、触れた。飛ばされた場所は、要地の眼と鼻の先。「――突破できる。殺しはしませんよ、安心してください」
「何故だ!」
後ずさりする要地にボクは静かに答える。
「要地さんの能力はすべてを反射させる。鏡、という言葉にすっかり騙されていました。能力である以上、普通の鏡ではないのでは、と判断した訳です。物質はただはじき返すのだけど、能力はどうだろう、と考えたのです。もしも『逆』『反対』『反転』させるのが本来のちからであれば、こうすれば、近づけるかも、と思ったんです」
要地が雄叫びをあげた。ボクはそれを無視して続ける。
「だからこうやったんです。遠くへ飛ぼう、要地さんと出来るだけ離れよう。そうすれば、すべてが逆になる」
右こぶしが飛んできた。だけどボクはそれを避けず、頬に触れた瞬間、能力を発動させた。
その刹那、要地の姿が消えた。
「引っかかったな!」
背後からの声。振り返る。要地がいやらしい笑みをもらしていた。
「俺のこぶしに鏡を張っておいたんだよ。遠くへ飛ばしたつもりだろうが、こんなにも近い。ありがとうよ」
その手があったか、べらべらとしゃべりすぎた、と反省したけど、いつの間にか接近していた陽が消してくれた。
「運魂は、能力をも、切れる」
振り下ろされた刀が要地の意識を刈る。
「そして私さまは、任意のものを、切れるようになった。新たな能力の開花。もう、誰にも負けたりはしない」
ボクは陽に笑顔を見せたが、それを無視された。まあいいや。足元に視線を落とす。
「さようなら要地さん。ベイビー・ドライブを鎮めたら、また会いましょう」
倒れ伏す要地にそう言ってボクは、思いつく場所、鳥取砂丘のど真ん中に飛ばした。
つづく




