第三章 高谷まひる その8
8 『高谷 まひるのターン3』
「まったく。俺を連れて行かないからおめおめ逃げ帰ることになったんだ」
まひるの部屋。怒りをあらわに、姿を現した要地。大きな声。
「仕方ないわよ。今回は戦いを想定していなかったんだから」
まひるは今にも泣きだしそうな表情で要地に答えた。
「その結果が、ハンコの死につながったんだよ。俺たちは戦いの真っ只中にいる。それを絶対に忘れるな」
そう言い残して要地はドアをバタンと乱暴に閉めて部屋を出て行った。
ぼうっと扉を見つめるまひる。その表情からは、すべての色が、なくなっていた。
午前五時起床。身支度に三十分。それから五分後に部屋を出て朝食を取る。二十分を費やして食事を終える。その間、誰とも会わない。部屋へ戻り外出着に着替える。
一連の流れに、一秒のずれもない。
毎日、毎日、まるでなにかに突き動かされてでもいるかのような正確さで、繰り返される。
まひるはそのことに、疑問を抱かない。
起きてからずっと、どこからか笛のような音が流れている。ピー、ピー、ピー……。
優しい、風をなでるような音。しかしその音の出処を探そうとは思わない。ただ、身を任せるだけ。
まひるは、なんの疑問も、抱かない……。
朝の日常は、無表情、のまま遂行される。
無感情のまま、遂行される。
毎日、毎日……。
一秒の、ずれもなく。
つづく