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第三章 高谷まひる その4

     4 『(つき)(のは) (さかえ)のターン2』

 ミルクの入ったネコ用の皿を落とし、栄は、その場で立ち止まったまま、動けずにいた。中庭から流れる緩やかな風に吹かれただけで、容易に倒れてしまいそうだった。ボタボタと生暖かい汗を流し、呼吸が浅い。

「ミミ、ミミ……助けて……どこにいるの」

 すると栄の影からズルズルと液体がドリュッと飛び出し、やがてそれがスーツ女の身体を形作った。

「遅くなってすみません。どうされました?」

 そう言ってミミは栄の身体をささえ、腰を下ろさせた。

「ありがとう、もう大丈夫です」そう言ったものの、身体は小刻みに震えたままだった。

「ところで、塊子の容体はどうでした?」眼を伏せたまま顔を上げる栄。

「あいかわらず精神世界をさまよっている模様でした。しばらく復帰は無理でしょう」

「そう……」

「ところで栄さま、いったい、何を視たのですか? その狼狽ぶり、未来を見て来たのでしょう?」

 栄の尋常ではない様子に不信感をおぼえ、ミミは訊ねた。このような症状は、過去に一度だけあった。


 地球の滅亡を視たとき。


 今回も、それ同等か、それ以上だと思われた。

「戦郁兄さまの死の真相を語る、風祭さんよ」

「月葉家ですら解けなかった謎を」ミミはとても信じられないといった風で、「あんなただの子どもにですか?」

 しかしその疑問は疑問にすらならないことをミミは誰よりも知っている。栄は未来で起こる真実のみを伝えるのだ。すなわち、鏡菜に選ばれた風祭風太郎という少年が、月葉家に大きくのしかかっている謎を、解くのだ。

 ミミは質問を変えた。

「真犯人は、誰なのですか?」

「ああ、ダメ! 消えていく。霧に覆われ、強風にあおられ、遠くへ、未来よりも遠くへ、未来が未来の先へ飛ばされて行く。とめて! ミミ、助けて。能力を、連れ戻して!」

 始まった、とミミは悟った。

「失う前に教えてください。災厄を免れるために、私たちはどうすればいいのですか?」

「現状にはすべて意味がある。それを、忘れないで」

 そう言い残して栄は気を失った。

 能力喪失という副作用が始まった。栄の小さな肩を抱きながら、ミミは遠くを見つめた。

 蘭松は栄と同じ能力を持っていながらも、決して手を貸そうとはしない。その意志の強さが、今日まで月葉家を存続させたちからなのだ。甘えや妥協は、いっさいない。必要とあらば、蘭松は栄を見捨てる。月葉とは、そんな、一族なのだ。

 はたして、彼女の能力を欠いた今、地球の滅亡を、私たちだけで止めることが出来るのだろうか、しかしミミに、栄の願いをかなえる自信は、微塵(みじん)もなかった。


 微塵……①こまかい塵 ②きわめて細かいこと ③ごくわずかなこと ④最後に、もない、をつけることによってわずかな可能性もない、となり、異性にそう言われてふられると最悪なこと


つづく

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