オレはスライム
オレはスライム。
名前はまだない。いや、このまま、ずっとないだろう。
どんなに頑張ろうが、オレはスライムだ。あるいは、スライム2というところか。
オレの仕事はなんだ。やっつけられることだ。それ以外にない。
もし、何かの間違いで勇者を倒してしまったらどうだ。魔王にでも褒められる?
そんなことを考えるのはスライム歴の短いただの素人だ。
オレが倒せるような勇者などレベル⒈のRPG童貞の野郎か、その隣でかん高い嬌声を上げるスカートの短い女のどちらかだ。
そんな奴らが序盤から躓いたらどうだ。その後もコントローラーを握ってくれると思うのか。そんな分けないだろう。
途中で放り投げられたゲームほど悲しいものはない。ましては、顔さえも出てくることのない魔王など。
だから、オレは逃げた。
勇者からではない。魔王からだ。
勇者は現れない。それは忘れられたゲームだから。
しかし、魔王は存在する。ぶつける所のない存在感をありありと持て余した魔王が。
オレはいつまでも存在する。たとえ見えなくても。スライムだから。やっつけられることを宿命とした存在だから。
オレは倒された。勇者からではない。魔王からだ。それも数え切れないほど。
勇者は知らないだろう。気まぐれに始まりの町の周りをうろつく魔王など。だけど、それは存在した。証人はオレだ。
信じられないほどの業火に燃やされるたびオレは思った。これは自分の役割を超えているのではないか?
だから、オレは逃げ出した。その場所から。
もちろんオレは倒された。他の場所でも。しかし、そんなことばかりではなかった。
オレに倒されるようなマヌケもいたには、いたのだ。そいつの名誉のために名前は伏せておくが。
それからのオレは賢かった。
マヌケなそいつを倒しまくって、地道なレベル上げに励んだ。
その後、オレは魔王に対峙した。
最初のフィールドをうろついていただけの魔王など地道な努力に励んだオレの敵ではなかった。
オレは始まりの町に君臨した。まるで魔王のように。
そんな時である。勇者がこのゲームのことを唐突に思い出したのは。
すでに野郎は童貞でもRPG童貞でもなくなっていたが、久しぶりにオレと戦った男はこう呟いた。
「なんだ、やっぱりクソゲーじゃないか。昔は難しそうだけど面白そうなゲームだと思っていたのに」