10話:初戦闘
街から歩き続け、ソラは森に入っていきました。
時刻は4時を過ぎていましたが、構わず進んでいきます。
この森は素材採取などの理由で人が入るため、ある程度は道ができています。ソラは道に沿ってひたすら歩き続けました。この一週間ほど、冒険者ギルドで森の情報を集め続けたため、迷うことなく進んでいきます。森の入り口周辺には兎や犬に似た魔物が生息していますが、それらを探したりはせずひたすら進んでいきました。
森の中心まで進んでも、そのペースは変わりません。そして、入り口から2キロメートル、森の深部まで残り1キロメートルほど、というところでようやく止まりました。
慣れない森の中を進んだため、時間は5時を過ぎ、足には疲労から痛みと熱がじんわりと感じ取れます。
それでもソラは、道を外れ草木の中を進んでいきました。10分ほど進み、手や顔に擦り傷を作りながらもようやく目当ての魔物を見つけました。
身長は2メートルを超え、手には先端を尖らせた槍代わりであろう木の棒を持ち、茶色の肌で、二足歩行をする豚型の魔物。オークです。それが2体いました。
オークは踏み固められてできた道を我が物顔で歩いています。それも当然で、森の浅い場所ならオークにはほとんど敵がいません。むしろ他の魔物を見つけ次第、自分たちの食料にするため狩っているくらいでした。
ソラはオークの動きをじっと息を潜めて見ていました。やがて、オークが通りすぎると、今度はオークが使った道沿いにある木を確認していきます。何十本か見た後、自分に一番都合のよさそうな木を選び登りました。ソラが選んだ基準は、自分の体重を支えられる枝があること、下から見えづらいこと、他の木の枝に飛び移れそうなこと、でした。
木に登り、枝を伝って道端の真上部分に着くと、ソラはひたすら待ち続けました。
30分もすると歩く音が聞こえ、音が鳴らないように木の枝を動かし確認してみるとオーク2匹が戻ってきていました。オークが巣に戻るため、この道をもう一度使うだろうと予想したため、ソラは待っていたのでした。もっとも、他の道を使う可能性や、別の場所に巣がある可能性も十分ありましたが、一度使った以上他のオークが通る可能性も高いと考えていました。それに、今近づいているオークが先ほどと同じ個体かどうか、ソラには見分けがつきませんでした。
ソラが隠れている木から30メートルまで近づいて来たところで魔晶石を起動させます。形状は矢の形へ。オークからは見えないように木の中で魔法の矢を維持します。
近づいてきたオークにあわせて、位置と角度を調整していきます。
オーク2匹は前後に並んでこちらに近づいてきていました。やがて1匹目が通り過ぎ、すぐに2匹目が下を通りました。
瞬間、ソラの体からは血の気が引き、寒気が襲いました。もしも失敗したらという考え、そこから殺されるイメージ。それらが頭の中をよぎり、
(…)
それら全てをねじ伏せ、魔法の矢を放ちました。
放たれた魔法の矢は垂直よりも少し斜め、80度の角度で突き進みました。時刻は5時半過ぎ、夕日が差し込んでいます。それは森の中でも変わらず、木の隙間から強い光が差していました。魔法の矢はその光に隠され、音も無くオークの前頭部に突き刺さりました。
オークは種族の性質として魔法に対する防御能力、ステータスの抵抗値が低い傾向にあります。ソラが相手にしたオークも例に漏れず低い抵抗値しか持っていませんでした。
突き刺さった魔法の矢は頭蓋骨をぶち抜き、脳を破壊、首を縦に貫き胸椎を抜けて地面に刺さりました。矢は地面に刺さると音も無く消えていきました。
オークは脳を破壊され体に命令を送ることができず、胸椎を貫かれたため神経がやられ、反射運動もできず、手足すら動かすことができませんでした。
魔法の一撃で殺されたオークは全身を脱力させます。結果、重い胴体に引っ張られるようにして、足から崩れ仰向けに倒れました。
巨体のオークが倒れることにより、重いものが落ちる音がしました。土がむき出しになっている道であったため音はほとんど地面に吸収されましたが、それでも前方にいるもう一匹のオークに聞こえる程度の音はしました。
最初、オークは倒れている仲間を見てあきれたように鼻をならし、しかし一向に起き上がる気配を見せないため近付いていきました。倒れたオークの頭からは血が大量に流れていましたが、地面に染みこむ量が多くなかなか広がりませんでした。穴の空いた前頭部が自身の頭の影に隠れて仲間のオークに見えていませんでした。
そのため、オークは最初近付いても何も感じませんでした。しかし、嗅ぎ慣れた血の匂いを感じ取ると、すぐに周囲を見回しました。
周囲を警戒しながら、オークは倒れた仲間に近付いていきます。そして頭から血を流しているところを見ると、一瞬呆然とし、すぐに駆け寄っていきました。そして、声を掛けようとしたところ、
ソラが上から放った二発目の魔法の矢が頭を貫通しました。
前頭部から貫通した魔法の矢は右胸に突き刺さり、背中から突き抜けて消えていきました。脳に損傷を受けたオークは倒れたオークに向けて手を伸ばそうとしながら倒れていきます。
後には二つの折り重なったオークの死体が残りました。
ソラはオークが倒れ動かないことを見ると、次にステータスを確認しました。そしてレベルが上がっていることを確認すると木から降りました。
レベルが上がっている以上少なくとも片方は死んでいるはずだ、と考えながら、一方が生きている可能性があるため慎重に近付いていきます。脳がなくなった以上大丈夫だとは思っていましたが。
結果的には両方とも死んでいました。
ソラは早く帰りたかったのですが、オークをこのままにしておくわけにもいかず、死体の処理を行いました。
処理と言っても難しいものでもありません。『錬金術の基礎』に書いてあった解体方法です。
まず、オークを解体する錬成陣を描いておきます。陣には大きな円を一つ描いておき、血、肉、骨、皮、装備品を生成と書いたあと、それぞれに伸びる円を描いて陣自体は完成です。
工房で事前に準備していたことですが、いつも使っている錬成陣を自分の体に移しておきます。こうすることで、どこにいても錬金術を使うことができるのですが、欠点として設置してあるときより錬金術が成功しづらくなったり、錬成したものの品質が低かったり、新しい錬成陣の記入ができないといったものがあります。ソラは右手中指の爪部分に移しており、現在そこには小さくなった錬成陣が刻まれています。
いつも通りに錬成するとオークは分解されていきました。分解されたオークは体積が大分減っています。その代わりに皮は肉片や破れているところもなく、血液は骨でできた器に入っています。肉や骨もまとまった状態になっていました。
ソラはその中から、魔物の体内にある物質、魔石だけを拾いました。魔石は魔道具の燃料にもなりますし、冒険者ギルドでは討伐証明にもなるためです。二匹分の魔石を回収すると、ソラはさっさと帰路につきます。オークの肉は倫理的、味的に食べられず、皮も大して頑丈ではなく、骨も大きいこと以外に特筆するものがないためです。ソラとしてはナイフの消耗を抑えて魔石を取り出したかったため錬成したのでした。
処理が終わるとソラはすぐに帰りました。すでに日は落ち、1時間もすれば真っ暗で身動きも取れなくなってしまうからです。
特に何も無く森を抜け、ソラは街まで戻ることができました。
行きは2時間かかりましたが、帰りは1時間15分ほどでした。
桐崎 空
LV :4(↑3)
HP :6/35(↑26)
MP :5/48(↑35)
力 :11(↑5)
敏捷 :12(↑7)
体力 :13(↑6)
魔力 :18(↑9)
抵抗 :7(↑3)
器用 :17(↑8)
スキル:【錬金術Lv4】【薬学Lv2】【採取Lv2】