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1話:プロローグ

 とある世界。とある国にある一つの都市。

 都市を囲う城壁の外に一人の女性が歩いていました。


「はぁ…」


 女性はため息を一つ吐き、都市から離れるように街道を歩いていました。

 すると、道の先、200メートルほどのところの空間が歪んだように見えました。

 はて、蜃気楼か、目の疲れかと女性が思っていると、空間がさらにねじれていきました。

 あーなんかやばいかなー、と女性は思っていましたが、空間はだんだんと戻っていき、やがては元に戻りました。…その下に一人の男の子を残して。


 この世界では魔法があるため、何か理解できないことでも、ああ魔法かな?で済んでいました。

 しかし、この女性は魔法に関して並外れた知識を持っており、自分が今まで見たことのない魔法であったため、好奇心から男の子に近づいていきました。


 女性からは男の子の年齢が10歳かもう少し低いくらいにみえました。男の子はこの世界では珍しい黒髪黒瞳でした。しかし、女性が気になったのはそのことではありません。服に隠れていない男の子の体には無数の傷がありました。上のシャツ-この世界ではあまり見ない-を「ごめんね」と言いながらめくると、やはり服の下にも腫れたあとが多く見られました。


 呼吸と心臓の動き、脈を見ることでまだ生きていると知った女性は、手持ちで一番効果の高い薬を飲ませようとしましたが、口からこぼれていきます。ならばと指に薬をつけ、口の中に入れました。

 ほんの少量であるにもかかわらず、男の子の呼吸が少し大きくなりました。さらに数度、口に指を入れ薬を飲ませ、その後頭をひざに乗せ、薬を飲ませていきました。体力が回復したためか、今度は薬を飲んでいきます。


 薬を飲み終えると、一分も経たないうちに男の子は目を覚ましました。

 体の怪我も完全になくなっていました。それでも大きな火傷のあとや傷口は完全に消えませんでしたが…。


 女性は男の子から先ほどの現象について聞こうと思って治療しましたが、怪我の様子を見て、はてさてこのまま聞いていいものなのかと思いました。

 というか、答えてくれそうにないなー、と思いました。

 仕方ないので男の子に話かけようとしましたが、この年の子にさてどうやって話したものかなー、と考えました。

 結局いい案は思い浮かばず、素直に


「こんにちは。体は大丈夫?」


と聞きました。

 男の子は焦点の合っていないような目でしたが、十秒ほどすると女性のほうに目を向けました。

 その後、男の子はじーっと女性を見るだけで他の反応を示しません。

 女性はもう一度、


「体は大丈夫?」


と聞きました。男の子はゆっくりと自分の体をみて、不思議そうにしながらも、こくりとうなずきました。

 それを見て女性は


「私はリイって言います。あなたのお名前は?」


と聞きました。男の子は


「…そら


と答えました。リイは言葉が通じることがわかり、さらに話そうとしましたが、ソラがそのまま寝てしまいました。


「どうしよう…」


 リイは困った声を出しながらも、見捨てる気にならず、出てきた都市-商業都市カルバレに戻りました。ソラを背負って。

 ソラの身長は130センチほどで小柄なリイは背負えるか不安でしたが、問題なく背負えました。それどころか、重さが15キロほどしかなく、体が骨にばかり触れているのに気付き、急いでカルバレへ戻りました。






 リイは自分の部屋のベッドにソラを寝かせました。

 怪我は治してあるので、あとは体力かと思い、食べ物を買って戻ってくるとソラは目を覚ましていました。ですが、ベッドからは動こうとせずぼぅとしているだけでした。


「ご飯があるけど食べれる?」


 リイが聞きますが、ソラは何の反応も見せません。

 とりあえずソラを起こします。ソラはされるがままなので意外に楽でした。そのまま椅子まで手を引いて、座らせました。

 次に、パンを細かくちぎり、野菜スープにつけてふやかしスプーンで口元に近づけます。食べるかと思いましたが、何の反応も見せません。

 無理やり口をあけ、スプーンを入れるとようやく食べました。

 スプーン、スープ、パンを渡し、


「食べなさい」


と言うと食べ始めました。命令口調がいいのかな?とリイは思いました。


 食事の後、リイはソラになぜ街通にいたのか、あの空間のゆがみは何なのかと聞きましたが何も答えませんでした。

 それなら、ご両親は?と聞くと、途端にソラが震え、怯えはじめました。リイは慌てて、無理しなくていい、と言いました。

 とりあえずこのまま外に放るわけにもいかないので保護することにしました。


 その後、リイはソラをトイレに行かせ、お風呂に入らせました。

 ベッドは一つしかないため、その日は一緒に寝ました。






 翌日。

 リイが起きるころにはソラも起きていました。

 朝になり、自分は着替えたけど、ソラの着替えがないことに気付きました。

 これは買わないといけないかな、と思いながら朝食を用意しました。

 パンに牛乳、サラダ、果物の朝食を摂りながら、リイはソラにもう一度尋ねました。しかし、ソラはやはり答えてくれませんでした。


 仕方ないので朝食後、リイはソラを連れて生活に必要そうなものを買い集めました。

 リイは、本来ソラは孤児院などに預けるべきだと思いましたが、自分が治療したための責任感、放り出す罪悪感、孤児院に子供を預けるという噂がたつことが嫌であったため、しばらく面倒をみることにしました。




 リイがソラの面倒をみはじめて一週間が経ちました。

 相変わらずソラは無気力で、リイが命令しないとなにもしませんでした。

 それこそ、食事も摂らないことがあるほどでしたが、毎日朝昼晩食事を摂るように命令することで、自分から食事を摂るようになりました。トイレだけは最初から自発的にいっていましたが。


 リイは一週間の生活を振り返り、このままではいけないと思いました。


(私がずっと面倒をみれるわけでもないし…。でも放り出せばこの子はそのまま死んでしまう…?)


 そこで、リイは自分が教えられる仕事を教えました。



 それが-----錬金術です。






「ソラ、出かけるよ」


 その一言でつれて来たのは冒険者ギルドでした。


「ここは冒険者ギルドっていうんだけど、わかる?」


 リイが尋ねると、ソラは首をふるふると横に振りました。


 リイは冒険者とは魔物やモンスターと呼ばれる人に害する生物の討伐や一般人では手に入れづらい薬草や鉱石などの資源を採取してくれる人、ギルドはそれらの仕事を斡旋してくれる場所と説明しました。


「ここで登録をするからね」


とリイは言いました。

 リイは迷わずに受付までいき、この子の登録を、と頼みました。

 受付の人は


「リイ、その子は…?隠し子にしては大きすぎるし…」


「私の子供なわけないでしょ!ちょっと事情があって面倒を見ているの。それで働き方を教えて自立できるようにしようかなって。」


「…事情はわからないけど、それはあなたがすることなの?それに、その子まだ10歳くらいに見えるけど冒険者として働けるの…?」


「まあ、なんというか義理みたいな感じで…。それと、冒険者は無理だけど、錬金術を教えればなんとかなるかなって。」


「あー依頼のために登録か。りょーかいりょーかい。じゃあ、君…名前は?」


「…ソラ」


「ソラ君ね。ここに名前を書いて。あと、個人登録のために血が欲しいんだけど…」


 ソラは言われるがままに『空 桐崎』と日本語で書きました。

 受付は


「あー、これ君の国の言葉?ちょっと待ってね」


と言い、リイに


「この子共通言語魔法かけたんじゃないの?」


と聞きました。


「ううん、かけてない。言葉が通じるから大丈夫だと思ってた…」


「とりあえずかけちゃうわよ?」


「お願い」


「ソラ君、ちょっと言葉がわかる…書けるようになる魔法を使うけどいいかな?」


ソラはその言葉にこくり、と頷きました。そして魔法をかけてもらい、改めて名前を記入しました。


「ごめんね、共通言語で書いてもらう決まりなの。ただ、自分の国の言葉さえわかっていれば共通言語の魔法で書けるようになるから。言葉が書けないとそこから覚えて貰うんだけどね」


 次に刃が5ミリほどのナイフが渡され、


「ちょっと指先を切って、この石に血をつけて欲しいの」


と言われました。ソラはナイフで人指し指をざっくりと切り、


「ちょっと、切り過ぎ!『ファーストエイド』!」


 回復魔法をかけられ、傷はすぐ塞がりました。出てきた血を石…カードに付いている魔石につけると血はすぅっと消えていきました。


「はい、これがあなたのギルドカードです。無くさないようにね。再発行は50000セリンになります。」


 ソラがギルドカードを受け取ると、リイはお金を払っていました。ソラがじっと見ていると、


「ああ、登録には1000セリンいるからね。これは私が出すから大丈夫よ」


と言われました。


「ありがとうマナ。この子が来たときはお願いね」


「はいはーい。」


とマナと呼ばれた受付は返事をしました。






「次は錬金術ギルドにいくわよ」


 錬金術ギルドでは製作依頼の他にも錬金術用の道具や参考書が売られている、とリイは説明しました。


「アマレットさん、この子の登録をお願いします」


「はい。あら…この子?」


「ええ、ちょっと事情がありまして…」


「ご本人の意思があれば大丈夫ですよ。ええと、お名前は?ソラさん?錬金術ギルドに入っていただけますか?」


 アマレットは少しかがみ、ソラに目線を合わせて問いかけました。ソラはこくり、と頷き、冒険者ギルドと同じように名前と血を登録しました。今度は切り過ぎることはありませんでした。






 登録後家に戻り、リイは言いました。


「いい、ソラ。これからあなたに自分で生きる方法を教えます。とりあえずの生活のために教えるだけだから、今後あなたにやりたいことがあればそちらの道に入ってかまわないわ」


 そう前置きしてからリイは錬金術の基礎と生計の立て方を教えていくのでした。




リイは自分のギルドカードを取り


「ギルドカードを見て。ここに名前とスキル、依頼の欄があるわね。スキルは手に入れると、依頼は受けるとそこに書き込まれるわ。依頼は達成するか失敗すれば消えるけど」


と説明しました。ソラも自分のカードを確認しました。スキルの欄には何も書かれていませんでした。


「あと、ギルドカードに書いてあることは必要なとき以外は隠しておくといいわ。指で2回続けて叩けば消えるわ。見たいときは魔石に3秒間指をくっつけて」


ソラはこくりと頷き、それぞれの操作をしたあと、カードの内容を全て消しました。


「さて、錬金術だけど…まずはこの本をあなたにあげるわ」


そう言って渡されたのは『錬金術の基礎』と書かれた、そのままの本でした。


「この本は本当に基本的なことしか書いてないからわかりやすいわ。それに絵も丁寧だから本物をみたときわかりやすい。基本が一番大切だからね、しっかり読んでね」


と言われ、ソラはそのまま受け取りました。ページ数は100ページほど、大きさは縦30cm横20cmほど、本は新品だったので先ほどギルドで買ったのでしょう。


「じゃあ、本を開いて。この最初のページにあるポーションの作り方を教えるわ」


本を見ながらリイは説明を続けます。


「まず、作るのに必要な素材と道具。素材は水、薬草になるミドリソウ、それとできたポーションを入れるビンね。道具は…今回はなしね。

 水は井戸から、ミドリソウは街道や近くの森に生えてる。ビンは錬金術ギルドでもらえるわ。数に制限があるけどね。

 さて…錬金術の使い方だけど…まず、ソラ用の錬成陣を作るわ。錬成陣は魔石を砂状にして自分の血を吸わせたものを使って作るの。で、これがその砂。さっき出た血を使ったから、あとは陣を書くだけよ」


 そう言ってリイは陣…というよりも、直径1メートルほどの円を描きました。

 そして、本のページをめくり、


「これがポーション製作の陣。じゃあ、ここからはあなたが描いて。素材を入れる円を描いて、その円を線…ラインで結ぶ。そして、ラインの部分に行う処理を描く。今回なら体力回復の成分を抽出を水とミドリソウのラインに、水と瓶、ミドリソウと瓶のラインに回復成分の入った水…つまり、ポーションの中身ね、これを瓶の中に入れるように、って描く。…そう、それでいいわ。あとは、陣に手を触れて魔力を流すの。やってみて」


 ソラは魔力の流し方がわからない、と言うと


「んー…じゃあ、私が上から魔力を流すから、それを感じてみて。誰でもできてる技術だから、あなたもできるわ。いくわよ?」


 そう言って、リイはソラの手に触れ、ソラの手越しに魔力を陣に流しました。すると、陣が淡く光り、素材がなくなりポーションだけが残りました。


「こんな感じよ。やってみて?」


 そう言われ、ソラは素材を配置し先ほどの感覚を思い出しながら魔力を流しました。すると、先ほどと同様にポーションが一つできました。


「そうそう、簡単でしょ?そのポーションの品質は錬金術ギルドのカードでわかるわ。自分が製作したものには自分の魔力が入っているからわかるそうよ。」


 ソラがカードを確認すると、上からポーションの絵、名称のポーション、品質、性質、詳細が書かれており、品質は60と表示されていました。


「品質が50を超えていれば錬金術ギルドの依頼で買い取ってもらえるはずよ。あとは…ああ、そうそう解析の魔法を教えるわ。これも簡単…というか錬金術ギルドのカードがあれば誰でも使えるわ」


 そう言ってリイはソラにミドリソウを持たせ、


「ミドリソウに魔力を通してみて。…うん、そう。それでカードを見て?ね、ミドリソウの詳細が書いてあるでしょ」


 確かにソラの手のカードにはミドリソウの詳細が表示されていました。


「それを使いながら外で採取するといいわ。

採取して、工房で錬金、ギルドで販売。これを繰り返してお金を稼ぐの。

この工房は引き払うつもりだったけど、あなた名義に変えて契約してきたわ。

毎月200000セリン、家賃にかかるわ。1ヶ月にかかる食費は約50000セリン。

つまりあなたは毎月250000セリン稼ぐ必要があるの。

もちろん、自分の工房を買えば、家賃はなくなるわ。でも、工房は5000万くらいはするから、今は考えなくていいと思う」


 リイはソラを見つつ、言葉を続けます。


「それと、私はしばらくの間この街を離れるわ。…そうね、1ヶ月後に一度様子を見に来るわ。そのときに自分で生活できていけるって証明してほしいの。…それで、生活費を稼げるならこのまま、稼げないなら孤児院に入ってもらうわ」


 何も言わないソラを見ながら、さらに言います。


「最悪どうにもならなかったら、マナかアマレットを頼りなさい。二人なら悪いようにはしないはずよ。もちろん、1月後には孤児院に入ってもらうけどね」


 ソラの頭を撫でつつ、30000セリンを渡しました。


「まずは先立つものがいるからこれを渡すわ。

…あなたに自立して欲しいの。大変だとは思うけど、きっとあなたのためになるわ。…じゃあ、もう行くわね」


 そう言って、リイは出て行きました。






 二日後。気になって仕方なかったリイが様子を見に来ると、ベッドから動いていないソラが見つかりました。


「ってこらー!どうなってるのー!」


 ソラは食事も摂らなかったようで、家の中には買い置きの食料等もなく、錬成陣にもうっすら埃がつもっていました。


 リイがどうしたものかと思いながらも水を飲ませ、携帯食料を食べさせました。


 すると、ソラが窓を注視しているのに気付きました。ソラが何かを気にしているのを見たことはなく、視線を追うと、窓の外には怪我をした子猫が倒れていました。


(あまりいい手ではないけど…よし)


 リイは外に出て子猫を工房に運びました。そして、ハイポーションを飲ませ怪我を治し、万能薬飲ませ病気を持っていても大丈夫なように治し、ノミをスプレーで殺し、浄化のクリスタルで雑菌を殺しました。

 そして、ソラに子猫を渡し、


「いい?あなたが面倒を見ないとこの仔は死ぬわ。親も見捨てたみたいだし。この仔を殺したくないなら、あなたは稼がなくてはいけないし、そのためにもあなたは死んだり、家でありお金を稼ぐための職場になる工房を手放せない」


 リイは玄関まで歩き、


「じゃあ、私は行くわ。今日が4月2日。お金は5月1日までに用意しなさい」


 そんな言葉を残して出て行ったのでした。


桐崎 ソラ・キリサキ

LV :1

HP :6/6

MP :2/2 

力  :2

敏捷 :3

体力 :1

魔力 :1

抵抗 :2

器用 :6


スキル:【錬金術Lv1】【薬学Lv1】

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