プロローグ
日本には、二種類の人間が存在する。
一つは誰もが知っている、ごくごく普通の平凡な人間。それぞれ個性はあるものの、ある程度で収まっている。世界各地で起こっていた紛争も終息の気配を見せ、この世界は平和だと信じ、すっかり平和ボケしきった日本人。
そしてもう一つは、変種と呼ばれ、蔑まれる人間。彼らは常軌を逸した「個性」をもつことで知られている。たとえば未来が見える。たとえば見たものを瞬間的に記憶できる。たとえば異様に頭が良い。たとえば手のひらから炎が出せる――。見た目は普通の人間と何ら変わりないが、彼らは彼らの持つ「個性」のため、差別される立場にある。
変種の存在は昔から言われており、日本が江戸時代末期に開国したころから言い伝えられている。それが日本だけなのか、世界にもいるのかは定かではないが、戦闘能力を持った変種は特別に訓練され、戦争に駆り出されていたという。
しかし変種は、その能力を思う存分発揮する前に、自分が変種であったという記憶を、その能力と共に忘れなければならない。十八歳になると彼らは、それまで自分がいた場所と記憶を捨て、新しい場所で新しい人生を始める。それは、変種対策本部が改正を加えながらも施行している法律のためである。
法律では、すべての変種に「制御チップ」というものを埋め込むことを義務化している。制御チップというのは、変種がその能力を完成させる十八歳までできる限り能力を抑え、十八歳になったとき記憶とその能力を無くして別の場所へ向かわせる機能を持つ、最先端の技術を駆使して作られたものだ。
変種は制御チップに怯え、十八歳の誕生日を心から恐れている。それでも表立った行動はできず、ただひたすら自分が変種だとばれないように祈るしかなかった……。