【第1章】第5話
綾は椅子を一つ取りだすとそこに腰かける。ちょうど有希の真正面の位置だ。鞄からお弁当を出す。有希も鞄から"昼食"を取り出す。
「もうすぐかな」鞄に付けた時計をちらっと見て綾はつぶやいた。12時半を少し過ぎたぐらいだった。
「ん、それなに?」有希の持っている"昼食"を見て綾は不思議そうに聞いてきた。
有希の昼食はパウチに入った栄養ドリンクだった。無機質に銀色のパックで外見だけ見ると何かのスポーツドリンクのように見える。シールが貼られていて名前や栄養剤の種類が書いてある。
「これがお弁当代わり。―――まだ固形物食べれないから」
「へー……どんな味?」
「これは……」シールを見る。いくつか種類があり、シールにはその味が書かれている。お世辞にも似ているとは言い難いが。
「チョコ味」シールの張ってある面を見せる。
「お昼にチョコ……他に味ないの?」微妙な顔になる。
「バナナとか、果物系が多いかな。どれも似たような味だよ。たいしておいしくもないしまずくもない」キャップを開ける。
その様子を見ていた綾もさて、といった感じにお弁当を開ける。中身はそれなりに彩られている。聞くにはほとんど残りものらしいが、それでもお弁当と聞いてイメージするような、お手本のような中身だった。
ちょうど二人で食べ始めた時、突然教室のスピーカーから軽快な音楽が流れてきた。CMで聴いたことのある、女性アーティストの曲だった。サビで始まるアップテンポのその曲がAメロに移行する間奏に入った時、少しフェードして女子生徒の声が聞こえてきた。
「みなさんこんにちは、5月10日月曜日、お昼の放送です!担当は玉野と」「浅木で」「お送りします!」
「ところでさ、いつもなら居るうちの一年生ちゃんが今日いないんだよね。お休みって初めてなんだよね。なんでだろうね。不思議だね」浅木といった方の女子生徒の声がほとんど区切ることなくいった。
「ほんとだねー、確かに珍しいよね。五月病かなー?ま、それは置いておいて。今日の一曲目はなんですか?」
「はいはい、今日の一曲目は、ドラマの主題歌にもなっているサラウンド・サウンドの"だってだって"」