表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

【第1章】第2話

 先ほどと変わらずに、視線は容赦なかった。ただでさえ、この時期に初めての登校だし、なにより車椅子という目立つものもある。居眠りをしていた生徒も、起きて有希を見つめる。後ろの方の生徒は少し腰を浮かせている人もいた。

 藤森が黒板に名前を書く。――佐伯有希。

「佐伯さんはご病気の関係で見ての通り、足が不自由で車椅子に乗っています。困ってたらみんなで助けてあげてくださいね。じゃあ、軽く挨拶してくれる?」

「佐伯有希です。……よろしくお願いします」無愛想にしたつもりだったが、外見のせいもあって病弱なかすれた声にしか聞こえなかった。

「佐伯さんの席はここね」

 藤森が指差したのは、教室入ってすぐの机だった。椅子が無いのを見ると、あらかじめ用意していたのだろう。

「ホームルーム始めるわよ。今日は――」


 長かったな、と思う。入院生活は決して楽ではなかった。有希は今までの事を思い出す。


 佐伯有希は元々、佐伯利明という名前の15歳の男性だった。"とある病気"から、男性から女性に生まれ変わった。

 高校入試の翌日、利明は倒れた。そして3か月あまりの入院生活のち、後遺症を抱えつつも、男性だった当時合格していた高校に、女子生徒として入学できることになった。


 男性時あった筋肉はなくなり、足はまだリハビリ中でまともに歩けない。視力は悪くなって、今ではメガネをかけている。元々低かった身長は変わらなかったものの、体重は5キロ近く落ちた。身長144cm、体重41kg。肌は色白になり、病弱な体になった。

 増えたものといえば、ほんの少しの胸の脂肪と髪の長さだった。女性に変わっている最中に整えたものの、姉の勧めもあり髪は腰近くまで伸ばしている。しばらくは姉が髪の手入れをしたがっていたし、なにより彼女自身も元の利明の面影が残っていないか怖かったため、伸ばしたままにしていた。

 医者から、たとえ女性になっても体は万全にならないと聞いたときに、かつてしていた演劇は諦めた。

 演劇は彼自身だった。その話を聞いた時、利明は、実質死んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ