【第2章】第2話
「話相手ぐらいなら」
カルテを書く手が止まった。
「えっ……友達は作らないって」芦屋は心底驚いた顔をしている。なんとも失礼な奴だった。
「別に人間嫌いなわけじゃないから、楽に生活するためのやり取りはするよ。それに友達ってほどじゃない。向こうが勝手に話しかけてくるだけ」
「そう……君はどう思ってるの?話しかけられるのは嫌?」
少し考える。今の現状を考えると全く誰とも話さないというのは現実的ではなかった。
「私は……嫌じゃない、けど」たどたどしく紡ぐ。
しばらく間があき、不思議に思い有希が顔を上げると、芦屋は泣きそうな顔をしていた。
「……今度はなに?」
「貴重なぼくっ娘が……」
「は?」有希の顔が引きつる。
「一人称、いつから私にしたの」
「先生が直せって言ったんじゃん……」有希は呆れて言った。
「直せだなんて言ってない。一般的な女性は『ぼく』は使わない、と言ったんだよ」しれっとして芦屋は再びカルテに戻る。
「ま、冗談は置いといて」冗談かよ。「学校で困ったことはない?まあ、ここで聞いてあげても、僕がしてあげられることはないかもだけど」この切り替えは卑怯だ、と思う。
「別にないです」
「そう。部活とか入った?」
「……いや、特にいいかな」一瞬、綾の顔が浮かんだ。
「ふーん……演劇とかはもうしないの?」
「しないんじゃなくてできないでしょ」吐き捨てるように言った。
「それはどうかな。障害者でもスポーツしてる人はいるのに?」
「高校の部活でそんなのないよ」
「文化系ならいくらでもあるでしょう。吹奏楽とか、茶道とか」
どうしても入ってほしいのか、芦屋はしつこかった。有希はイライラしながら「入る気ない」とだけ言った。




