第六話・警戒と襲撃
フレイヤ姉様の魂が拐われて、四日目
事態は動かない。
リリーの親衛隊も私の親衛隊もかなりピリピリしている。
姉の魂が拐われたことはその日の内に宮廷魔術師から王族達に伝えられ、対岸の火事でしかなかった魔族の脅威が確かに今、宮城に恐怖として伝播している
一方で、何故姉が拐われたのか、何故、私ではなかったのかと陰口を叩く人間も多く、私の近衛隊が余計ピリピリする要因を作ってくれている
良い迷惑だ。
「このまま、姉様の魂が戻らなかったらどうなる?」
【現在フレイヤの身体を宮廷魔術師達が保存して、は、いる。だが、この国の魔術師の質は随分落ち、保存が効いて一年。】
【それ以上は魂と肉体を繋ぐ糸が切れ、切れれば死へと直結する】
「あー…にしても何故姉様が拐われたのかしら?」
【魔王の嫁にでもなったのではないか?】
可能性としては中々高いだろう。というか王道という奴なのではないか?
その時、あの会場で感じた宜しくない気配を感じて肌が粟立つ
「【!】
炎樹!奏希!」
精霊と白虎達が私を守るように取り囲むのと同時に、扉外にいる近衛を呼ぶ
バンッと大きな音を立て部屋に2人が入ってくるのと同時に、窓が突然開き、外から黒いマントに身を包んだファントムのように仮面を付けた男?が侵入してきた
「お迎えにあがりました」
たんたんとした無機質な声
私は意味が分からないとファントム(仮)に何処へかと問うた
「魔王陛下の元へ
千年に一度の陛下の伴侶探し
貴女は伴侶の候補に選ばれました」
謳う様に答えるファントム(仮)
此方としては本当にいい迷惑だ。そして答えは勿論
「お断りするわ。回れ右してお帰りくださる?大体、ウチの美貌の皇女を攫ってるんだから私まで連れてかないで頂戴」
「フレイヤもまた、候補者
貴女も、候補者」
頑ななファントム(仮)を半眼で睨めば私のイラつきを感じ取った白虎と黒虎が本性の像並みの巨躯に戻りファントムを咥え外に躍り出た
「バッチィから殺しちゃ駄目よ」
「ルナ様」
「人が適う領域じゃないわ。私と観戦しときましょう
風霊、水霊、援護と同時に城に被害が出ないように結界張ってね」
【ひとづかいあらーぃ】
「お願い」
【もちろんたすけるよー】
【よー】
風霊と水霊による加護の結界の内から、外でじゃれている(違)ファントム(仮)達を見る
「やはり聖獣にかかれば魔族・・・それも有象無象の類のものは容易い相手なのでしょうな」
「有象無象なの」
「私は、一度若い時魔族と戦ったことがあります。アレより遥かに手強かったのですが、有象無象でしたよ。」
「ふむ・・・・・やぁねぇ」
「「?」」
「どんどん平凡からかけ離れてしまうわ。それにしてもリリーは大丈夫かしら?」
「この分では危険やも知れません」
「うん。・・・・・・まぁでも、フレイヤ姉様に関して収穫はあったわね。魔王の嫁候補に連れて行かれたのなら、未だ生きてるはずだし
とはいえ魂の状態が長いのはあんまり宜しくないわよねぇ」
「どんなに嫌な方でも気になりますか」
「だから、何も思わないんだって。
・・・・・後味は悪いわよね。まぁヒロインぶってわが身を省みず助けに乗り込むことはしないから構えなくていいわよ」
「・・・・・左様で御座いますか」
「私は相応の事しかしないわ。私という人間は私しか居ないの。
勇者サマみたいに世界の為に自身を蔑ろにするなんて、ナンセンスよね」
「姫様は、ほんに現実主義者でいらせられる」
「手に負えない事に手を出さないのは多くの人と一緒だと思うけど」
ありがちには進まない、進めない
此処に<生きて>いる限り、王道主人公になる気は無いのだ
聖獣の力は強く、結局大して大きな被害が出る前にファントム(仮)は霞になって消えうせた
流石ウチの子は強いわぁ