第四話・副題「私の皇女様」
近衛視点
私の皇女様、ルナ=フェリアル第二皇女様は、皇帝陛下や皇后様、第一皇女のフレイヤ様を筆頭としたほとんどのフェリアルの人間に、<平凡な皇女>と称されている
我ら近衛からしてみれば最も尊き方。
そう称されるのは甚だ遺憾なのだが、ルナ様は良いのだと笑う
平凡な人生を送ることは私の夢だから。と
真に皇族らしくないお方
真に秘めたる能力は誰よりも皇族として相応しいのに
フレイヤ皇女から罵詈雑言を飛ばされても、ルナ様は何事もなかったようにされる
我らを気遣い、微笑まれる
その微笑を見るたびに、私はあの方から名を拝命した時を思い出す
近衛隊に選ばれることは武人の名誉であり、栄誉だ
生家はその近衛が生まれたことを永久に誇る
だが、歴代の多くの近衛は殆どが上級貴族で、私の家は下級だったから決して叶わぬ夢だった
それでも、何時かを夢見た幼き頃
我武者羅にひたすらに己が腕を磨いていった
<何時か>を目指して
本来なら叶わぬ、夢
叶えてくれたのは当時から平凡だと蔑まれていた影の薄い第二皇女様
当時9歳だった彼の方は、跪く私に目線を合わせて手を取り、微笑まれた
驚くほど鮮やかで、大人びた微笑に、硬直した私にもう一度微笑んで、名を下さった
近衛の証である拝命の名を。
仕える皇族が絶対である様に、何時の頃からか近衛には皇族から<名>を下賜されるようになった
誉れの証でもある形無き勲章
「貴方は、とても素敵な目をしている
氷河というのはどうかしら・・・??貴方のその澄んだ瞳に似合う名だと思うのだけれど・・・」
「ヒョウガ・・・有難う、御座います。ルナ皇女様」
異国の響のある名前は、皇女様が一生懸命考えたのだろう
幼い顔の目元に薄く隈があるのに気づいて胸が熱くなる
ルナ皇女・・・・・
私の大切な姫様
この身に懸けて、貴女を守りましょう
「氷河、お菓子を作ったのよ。一緒に食べましょう」
「また厨に行かれたのですか??」
「炎樹が供をしたから大丈夫。一人じゃなかったわ」
「そういう問題ではないのですがね・・・ですが、ありがたく頂戴いたします」
「今日は、氷河の好きなシフォンケーキよ。ちゃんと甘さ控えめにしたから。」
「ありがたく。では紅茶を淹れましょう」
「お願いね」
優しい時間だ
ルナ様は言う
フレイヤ姉上やリリーのように沢山の人に期待され、能力を評価されたら、貴方達と過ごすこういう時間が無くなってしまう。と
私は他者からの評価に踊らされるよりも、したいことをして、楽しく過ごす、今の時間が何よりも大切だから、<平凡な第二皇女>のままでいいのよ。と