プロローグ
寿司詰め状態の電車の中。
朝の通勤&通学ラッシュ。
もっと電車の本数を増やしてくれれば、電車が3分間隔でくれば、いつでも空いているだろうに。
鉄道局は何をしているんだ。
俺はかれこれ10分は電車に乗っている。
乗り始めは、押し潰されそうになることはなかったが、長い間乗っていると必然的に真ん中に寄ってしまう。
そのせいで今は、ピンチなのだ。
呼吸も苦しいほど詰め寄られる。
俺は自分の空間を確保するために、朝の合戦に参加した。
ところが、
「きゃっ…んん…あ…」
「あっ!すいません!」
夢中になりすぎた、というか必死になりすぎた結果、女性に迷惑をかけてしまったらしい。
急いで平謝りし、参戦を中断。
(場所を移そう)
そう思い、扉側に移動。途中スクラップになりかけながらも、場所を確保できた。
次の駅で下車。
やっと解放される。
プシュー…
ドタドタドタ…
大勢の人間が一気に下車をする。
まるで川だ。
この駅、通勤ラッシュの人数、勢いを利用して発電も行っているらしい。
考えた人は天才だよ。
俺は体勢を立て直し、丹羽高校に向かって歩き出した。はずだったんだけど…
何故か前に進まない。
腕を引っ張られている(正確には袖)。
見ると、女子が俺の腕を掴んでいた。
この制服だと、同じ高校だな。
……同級生か?
「やぁ、お早う。どうしたの?」
「…ちょっと、こっち来てくれない?」
☆
駅の中の公衆トイレの前。
俺が連れていかれた場所はそこだった。
朝の利用者はそれなりにいる。
「で、何で連れてきたの?遅刻しちゃうんだけど」
「あたしだって同じよ。…あんた、車内であたしのお尻触ったでしょ」
「…僕が痴漢をしたと。そう言いたいの?」
「そうよ。もしかして常習だから感覚麻痺っちゃった?」
「ねぇ…朝の通勤ラッシュでギュウギュウだったんだよ?当たっちゃうことくらいあるに決まってるよ。それが嫌なら乗らなきゃいいじゃん」
「それ、犯人の一番多い言い訳よ?」
「とにかく、僕はやってないから。当たっちゃったのなら謝るよ。ごめん」
「そんなことで許すと思ってるの?」
「じゃ、僕は行くから。単位落としたくないしね。それじゃ」
「あ、こら!待ちなさい!」
やばい!もうこんな時間じゃないか!
間に合うかな…
学校まで3km。
残り時間30分。
単純計算で、
3000÷30=100。
1分100mか。
信号のロスタイムを計算すると、最悪の場合1分150mになる。
速歩きじゃないと遅刻確定だな。
急ごう…
☆
あれから4時間。
何とか間に合って単位を落とさずに済んだんだけど、そのせいで疲れて、授業中の居眠りで単位を落としてしまった。
±0と言いたいところだけど、普段と比べたら大幅のマイナスだ。
無事(無事ではないけど)、授業を終えて、今は昼休み。
今日は学食か、購買か。
…気分が乗らないので、学食は止めよう。
静かにご飯が食べたい。
購買でパンでも買って、静かなところで食べるか。
昼休みは1時間半あるから、ご飯を食べて、図書室で昼寝でもしよう。
さてと…何にしようかな…
菓子パンは重たいか…
サンドウィッチでいいや。
コーヒー牛乳と野菜サンドを購入し、購買を後にする。
一歩踏み出したところで、コーヒー牛乳を持った手をぐいっと引っ張られた。
おかげで、落としそうになる。
まぁ、ファインセーブしたんだけど。
「何ですか?これから食事がしたいんですけど……」
「ええそうね。じゃ、ついてきて」
…おいおい、またか。
自分にその意思がないのにそうなってしまったら、それは事故だろう?偶然だろう?
そんなこと、普通の高校2年生なら分かるはずだ。
しかもこの丹羽高校は、自分で言うのも何だけど、結構レベルが高い。
そんな高校に入学した生徒が知らないはずがない。
可能性があるなら、入試には偶然合格して、赤点ギリギリのくせに単位は取れてて、そこまで学力のない生徒。
つまりは…
「バカ…なのかな?」
「誰がバカだって?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話」
「何か意味ありそうな言い方ね…まぁいいわ。ついたし」
「って…屋上にいくの?」
「そうだけど?」
「……んー、ならいいか。静かそうだし」
「なら、行きましょ」
「はい…」
「じゃ、取り敢えずそっち座って。話辛いから」
飲みかけのコーヒー牛乳を一旦口から離し、言われたままに行動する。
「それじゃあ、本題に入るわ。あんた、名前は?」
「諏訪聡だけど…何で?」
「これから必要になる時が多分来るから。で、今日のは故意じゃないのね?」
「またその話か…。何度も言ってるだろ、事故だって。」
「まだ二回目なんだけど…。でも、本当に事故なのね?」
「くどいな。そう言ってるだろ?」
「ならいいや。あたし、前に本物の痴漢に遭って、すっごく嫌な思いしてさ、それ以来敏感になっちゃって…」
「そうだったのか…事情も知らずごめん。ちゃんと話を聞いておくべきだった」
「ううん。わざとじゃないならいいの。ごめんね?呼び止めちゃって」
というより、連れてこられたんだけど…
「それじゃ、僕は寝るよ。図書室で寝るつもりだったけど」
「あたしもそうしよっかな。気分も晴れたし」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
こうしてみると、空を眺めるのは久しぶりだな…
いい感じに眠気が襲ってきた。
ここは昼寝スポットになるかもね。