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サッカーは好きじゃないけど【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/10

はっ、はっ。

自分の荒い息を聞きながらも、頭は意外と冷静だった。


中学最後の大会。

接戦を繰り広げて、まさかのPK戦までもつれ込んでいた。

相手は外すことなく4回とも決めて、こちらは1回外して3点。

最後の順番が回ってきて、ここで外したら同点に持っていくことが出来ないまま敗退が決まる。

俺は1人、コートの上にいた。

相手のゴールキーパーの気合の入りようが伝わってくるようだった。

キャプテンの新山と、他のみんなの顔が、俺を見ているのがわかる。


うちのサッカー部は、別に上を目指しているわけでなかった。

本気の奴はそもそも地元の中学の部活なんかにいないし、俺も人数合わせで途中から入ったくらいだ。

新山が試合に出たがっていて、それを叶えるために集まったような部活だった。

だから、もう約束は果たしたと言ってもいい。

それなのに、心臓の音がさっきからうるさい。

どうせなら、新山に長く試合をさせたいのかな。

俺は、どっちでもいいけど。

試合時間は長いし、走ってばかりだし、疲れるし、今すぐ辞めてもいいんだけど、なんでこんなに苦しいんだろう。

さっきから息が上がりっぱなし。

走っていた時よりも、荒いかもしれない。

ここで敗退したら、新山は落ち込むかな。

それとも、相手にこんなに食らいついたことを喜ぶのかな。

わかんないけど、最後くらい真面目にやった方がいいことくらい、俺にもわかる。


新山は右に蹴って、キーパーが逆に飛んで入った。

楪は正面に蹴って、キーパーが受け止めきれずに入った。

佐々木は左に蹴って、キーパーが飛んだのと同じ方向で止められた。

相田は右上に蹴って、キーパーの手をすり抜けて入った。

俺はどこに蹴ったらいいんだろう。

キーパーは左に飛ぶ方が得意なのかもしれない。

だとしたら、右の方がいいのか。

でも、相田が右に蹴ったばかりだ。

揺さぶるなら、左の方がいいのかもしれない。

そんなコントロールよく蹴れるのかな。

試合に出ている中で、俺が一番シュートを決められるからっていう理由だけで、この順番になったけど。

チームの方をチラッと見る。

みんなが険しい顔をして、俺のことを見ている気がする。

一番最後、断ればよかった。

ここで入れることができたら、まだ続く。

そしたら次は坪田が蹴るのかな。

…坪田に、全部を押し付けたい。

脳みそにそれがチラついた時には、もうホイッスルがなる直前だった。


右にする。


そう決めて、俺はキーパーと向かい合った。

バンッと足のいいところに当たって、イケる!と思った。

鋭く真っ直ぐに、右へと飛んでいったボールの行方を見守った。

ゴールキーパーが反対側に飛んでいるのが、視界の端に見える。

俺が蹴ったボールは、ゴールポストに当たって、弾かれて、外に漏れた。

トントントン…と、ゴールネットの真横で止まった。

その瞬間、わああっと、向こうのチームが走ってくるのが見えた。

そのままゴールキーパーをぐしゃぐしゃに囲った。


…もっと、シュート練しとけばよかった。


目の前が黒くなっていったのに、誰かに抱きつかれてそれが揺れた。

「梶、ありがとう…っ!」

新山の声が耳元で聞こえて、ようやく俺はそっちを向いた。

他の奴らもいつの間にか集まっていて、俺も囲まれていた。

「お前のおかげでここまで来れたよ、マジでありがとな!」

新山の顔はなぜか笑っていた。

「なんで、いいのかよ…」

「1回戦でも出れたのは、お前がチームに入ってくれたからじゃん!」

「でも、俺が外したから」

「それならボクも外したって」

佐々木が泣きそうな顔で笑っていて、俺は鼻がツンとした。

「むしろ2回戦進出してたら、パニックだったって」

「それは奇跡すぎ!」

「PKまで持ち込んだのだって予想外だったんだから」

「まじでオレたちよくここまで来れたよな!」

みんなの顔は比較的笑顔で、特に新山は嬉しそうにはしゃいでいた。

その顔を、俺は虚ろな目で見ていたと思う。

俺の顔は笑っていない。

新山と、目が合わなかった。


…なんでだよ。

悔しがれよ。

なんで負けたのに喜んでるんだよ。

俺が外したんだから、ここで終わったんだぞ。

もっと責めろよ。

なんで、許してんだよ。

新山、もうサッカー終わっちまったのに、いいのかよ!


「すっげえ楽しかった。梶、サッカー部入ってくれてありがとな」

新山は晴れやかな笑顔で、俺の肩を叩いた。


礼なんか言うなよ。

俺、お前を言い訳にして、ちゃんとサッカーやってなかったんだよ。

あー、すげえ悔しい…。

悔しいじゃねえかよっ…!

本気で部活やればよかった。

ああ、俺、すっげえ格好悪いじゃん。


整列の合図があって、みんなは俺から離れていく。

「新山」

俺は新山を呼び止めて、振り返るのを待った。

涙が出そうなのを誤魔化して、ニッと笑ってみせた。

「俺、高校でもサッカーやるわ」

「あれっ!?サッカー好きになったっ?」

「全然好きじゃない」

「はあ、なんだそれ」

俺は新山の背中を叩いて、誰よりも早く整列した。

泣くな、背筋伸ばせ。


早く、練習したいな…。



お読みくださりありがとうございました! 毎日投稿41日目。

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