第二章 「呪い隠し」4
そして、場面はサクラ達の方に切り替わる・・・
七封家リーダーであるセンエイは仲間2人を一瞬で殺され、今でも叫び声を上げそうな恐怖を抑え込んで、冷静に鬼島リンと対峙していた。
「お前、なかなか肝が据わっているね。気に入ったよ」
リンはセンエイから少し距離をとりながら言った。
「鬼の使う鬼眼はね、全部で7色存在するのよ。かつての鬼の大将は全ての色を使いこなしたとされていてね」
リンはにやけてながら語り出した。
「最近の私はかなり調子が良くて、紫、藍、緑、黄、橙の5色も使いこなせるようになった。お前は特別に何色で殺されるか選ばせてやるよ」
リンは瞳を元の色に戻してセンエイを見つめていた。
リンを倒すことを不可能と見ていたセンエイだったが、冷静にリンの表情を観察していると一筋の勝機の光を見た。
仮説の域は出ないが・・・
「では、おすすめはどれかな?」
センエイはリンに向かって歩き出した。
「橙なんかは酷く苦しむだろうね」
リンは堂々と答えた。
センエイは手の届く距離までリンに近づくと、瞳を紫に輝かせた。
するとセンエイの右肩の辺りの空間から、紫色の野太い右腕が勢いよく突き出した。
「ッ・・・!?」
リンはその右腕の放った突きを間一髪で避ける。
「鬼の腕を呼び出したのか、お前のような分際がそこまでやれるとは驚いたよ」
リンは余裕を取り戻して言った。
「余裕ぶっているが息が上がってるぞ。どうやら瞳の力を使うのに、かなりの体力を消耗するようだな」
センエイはそう言うと、今度は左肩の辺りの空間から左腕を生やした。
「歯痒いな。まだ力を使いこなせないなんて・・・今の私ではお前を殺せないかもしれない」
リンはそう言うと瞳を紫に輝かせた。
するとリンの目の前に紫色の光が集まり、それは全長5メートルほどの大きな紫鬼に変化した。
「単眼鬼よ。私はもう寝ぐらに帰る。そのオヤジを殺せ。そのあとジジイも殺すんだ」
リンは紫鬼に命令すると、リンの身体は跡形も無く消え去った。
グオオオオオオオオオン!
単眼鬼は雄叫びを上げた。
「これは厄介な奴が現れた。俺も退くしかないな・・・」
センエイはサクラの方に向かって走った。
「お嬢さん、私の手に掴まれ!」
センエイはサクラに手を伸ばした。
「え・・・!?」
サクラは動揺しつつも、終始まともそうだったセンエイを信頼して手を伸ばす。
二人が手を握り合った瞬間に、二人の姿もその場から消滅した。
グオオオオオオオオオン!
センエイを見失った単眼鬼はアイ達が向かっていた先に歩き出した・・・
呪い隠しの空間の中で、アイはテッケンを追い詰めていた。
アイはトドメを刺すべきか迷っていたが、今までのことを思い出し激しく怒った。
こいつらを生かしておいたら周りにも危害が及ぶ。
アイは瞳を赤く染め上げていた。
次の瞬間にテッケンの周りに赤い光が集まってくる。
「これは・・・温かい・・・」
テッケンの崩壊した拳はみるみる傷が塞がり流血は止まっていた。
「馬鹿な。痛みが引いていく。いったいなぜ!?なぜ回復させた!?」
テッケンはアイに向かって問いかけた。
「私は人殺しじゃない・・・見殺しにもしない・・・」
アイは静かに答えた。
「私の前から早く消えなさい!」
アイは葛藤を振り切るかの様にいきなり怒鳴った。
「アイ、お前が鬼島リンと繋がっていないようだから教えてやる。リンもお前の祖父母の家に向かっているぞ」
「え・・・!?」
「それだけだ。アキ、帰るぞ!」
テッケンはアキにそう言うと、アイとシロウは紫色の世界から元の世界に移動していた。
「私達だけを紫色の世界から追い出して、そのまま逃げたようね・・・」
アイは遠くを見つめてつぶやいた。
「まるで夢から覚めたみたいだ・・・」
シロウも同じようにつぶやいた。
「シロウ、ありがとう・・・私、誤解していたわ・・・」
「いや良いんだよ。何の力にもなれなかったし」
二人が辺りを見回しているとアイの携帯にメッセージが届いた。
ごめんなさい。道に迷ったから帰ります。
サクラからのメッセージだった。
「サクラは帰ったそうよ・・・」
アイはシロウの方を見た。
「そうか、それなら良かった。俺もそろそろ帰ろうかな」
シロウは来た道の方を向いて歩き出した。
「本当にありがとう・・・」
「そういえば良かったらなんだけどさ・・・」
シロウは立ち止まってそう言うと、
「連絡先、教えてくれないかな?」
シロウはアイの方を向き、照れながら言った。
アイはヤレヤレと言う表情をすると再び携帯電話を取り出した。
アイはシロウと別れると祖父母の家に向かっていた。
(リンがおじいちゃん家に向かってる・・・?)
アイはテッケンの言葉を思い出すと、自然に駆け足になっていた。
嫌な予感がする。
リンの目的はなんだ?もしリンが既に鬼に近い存在になっているとしたら・・・
アイは走った。
祖父母の家は小高い丘の上の、何もない更地にポツンと一軒だけ建っている。
そんな人気のない静けさや煩わしくなさが好きだった。
もうすぐ見えるはず・・・
アイが本来、家のある方を見て驚愕した。
紫色の巨人のようなものが家があったであろう所で暴れている。
(なんなのあの化け物は?それに家はどこにいったの?)
そして、近づくとはっきり現実を突きつけられた。
家はその巨人に完膚なきまでに破壊され、辺りには残骸が散らばっている。
アイは約50メートルのところまで近づくとガクッと膝をついた。
(ああ、まさかそんな・・・)
アイは急に突きつけられた絶望的な光景に混乱し、声すら出なくなっていた。




