第二章 「呪い隠し」3
一方、アイとシロウは紫色に染まった畑に囲まれた道路の真ん中に立っていた。
「サクラちゃんはいったいどこにいってしまったんだ・・・?」
シロウは不思議そうに辺りを見回している。
しかし、アイは全く別のことを考えていた。
(私を狙っているのなら、サクラはおそらく無事だ・・・)
「とぼけなくていい・・・」
アイはシロウを見つめて言った。
「えッ!?」
シロウは驚いてアイの方を向く。
「七封家・・・最初から怪しいと思っていたのよ・・・」
アイは静かなだが信念の籠った声で言った。
「七封家・・・?急に何の話だ?」
シロウは戸惑っている。
「とぼけないでッ!私は鬼なんかじゃない!私を元の世界に帰しなさい!」
アイは叫んだ。
すると突然後ろから別の男の声が聞こえてきた。
「おいおい、仲間割れしている場合じゃないぜ」
アイとシロウが声の方に振り向くとの2人のスーツ姿の男が立っていた。
1人は大柄でもう1人は比較的小柄だ。
「支配の魔眼<呪い隠し>楽しんでいただけたかな?おっと、自己紹介がまだだったな。俺は七封テッケン。こいつはアキってもんだ」
大柄の男は言った。
こいつらは間違いなく七封家の者。
(じゃあシロウは・・・?)
「そういえば、もう1人女の子がいたはずだがどこ言ったんだ?」
テッケンはアキに向かって言った。
「確かに取り込んだはずですけどね。ループには入っていたようですが。生かしておく理由もないですからね」
アキは答えた。
こいつらはアスカと同じで私を殺すためなら、当たり前に人を殺すそんな人種だ。
そう考えるとアイは身構えた。
「なるほど、話が早い」
テッケンはニヤリと笑った。
「アキ、隣の男は任せたぞ。アイとはサシでやる」
テッケンはそう言って、古そうな壺を取り出した。
「アスカは魔眼で戦いを挑み、そして敗れた。魔眼での戦いはこちらにとって不利だと言うことだ」
テッケンは壺の中に入っている黒いペースト状の物を手に取り、目の周り、唇に塗りたくった。
そして、額と頬には禍々しい模様を描き殴って見せた。
「<七封家の戦化粧>、我々が使えるのは眼だけじゃないことを教えてやろう」
テッケンは恐ろしい勢いで、アイとの距離を詰めた。
「ッ・・・!?」
テッケンの圧に気圧されるアイ。
「ウウウウウウッ、ハアアアアアア!」
テッケンは拳を連続で突き出した。
「グアアアアアアアッ!」
テッケンが放つ無数の拳が身体中にめり込み、アイは断末魔の叫び声を上げて10メートルほど吹き飛んで地面に突っ伏し動かなくなった。
(くッ・・・強い・・・)
「本来の人間は身体能力にリミッターがかかり、3割程度の能力しか発揮できないらしいが、俺はこのメイクアップにより、精神的リミッターを解除する」
テッケンは言う。
(氷の眼で自由を奪う隙がない・・・せめて奴の身体能力を人間レベルにまで制御できれば・・・)
アイは動けない身体で考えていた。
「アイちゃんッ!」
シロウはすかさずアイに歩み寄ろうとする。
「アキ、何をやっている。邪魔な男を始末しろ」
テッケンはアキに促すとアキの瞳は紫色に輝いた。
「くそッ、なぜだ!身体が動かねえ!」
シロウは駆け足の途中で硬直していた。
だが、よく見るとジリジリ体がアイの方に向かって動いている。
「テッさん、やっぱりこいつおかしいですぜ。俺の支配から逃れようとしている」
「こいつは一般人だ。何の力も感じねえ。おめえの魔眼が弱いからじゃねえのか?」
テッケンはアキに言い放った。
相変わらずアイは地面に突っ伏したまま動かない。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
シロウは眼の支配を振り切ると、アイに向かって走り出した。
「何ッ!」
アキは叫んだ。
「馬鹿な。こいつは精神力により眼の支配から逃れたとでもいうのか。何という執念だ」
テッケンは冷静に分析し感心している。
シロウはアイの目の前に立つとボクサーのように構えた。
「シロウ・・・あなたは・・・」
アイは辛うじてシロウを見上げるとつぶやいた。
「いきなり知らない女の子に声をかけておいて、さらに嘘をつくなんて失礼だ。俺は女の子に嘘をつかない。守ると約束したからね」
シロウは少しだけアイの方を見ると、またテッケンの方に向き直った。
「何だかよくわからないが、お前らは俺がやっつける!」
しかし、テッケンとアキはシロウの背後に目を向けて驚いた。
倒れているアイの身体を、赤いオーラのような光の膜が包み込んでいく・・・
そして、アイはゆっくりと立ち上がった。
「あれをくらって立ち上がった!顔色も良い!馬鹿な!回復したとでもいうのか!?」
テッケンは驚き叫んだ。
アイは氷のような瞳でテッケンを見つめている。
「うッ・・・!」
テッケンは身体の自由を奪われる前に動いた。
「どけいッ!」
シロウを簡単に跳ね飛ばしたテッケンは、一瞬でアイの目の前に移動した。
テッケンはアイの腹部に強烈な右拳を叩き込んだ。
ドスッ!
噴き出る血しぶき。
しかし、今度はテッケンの拳の方がズタズタになっていた。
「グググググッ・・・」
テッケンは右腕を押さえながら後ずさった。
「氷眼の力は自分を対象にしても発動できるのね・・・身体中に凝固な氷の膜を張っておいた・・・」
アイは静かに言う。
テッケンの拳は筋力のリミッターを解除した代償をモロに受けて、おびただしく出血していた。
「馬鹿な・・・俺は負けたのか・・・?」
テッケンは放心状態で膝をつく。
「テッさんッ!」
アキは叫んだ。
「さあ、殺すが良い・・・」
テッケンは目の前に立っているアイを見上げてそう言った。
この2人を生かしておけば、周りの人間にまで被害が及ぶだろうと、アイはテッケンを見下しながら考えていた。
今までのことを振り返り、アイの頭に血がのぼっていく。
そして、次の瞬間にはアイの瞳は真っ赤に染まっていた。




