第七章 「七封家の責務」3
リンは疾風の如くセンエイの目の前に移動し、その右腕で簡単にセンエイの腹部を貫いた。
「がはッ・・・!」
「センエイさんッ!」
テッケンは驚き叫んだ。
「弱い!」
リンはそう言い捨てるが、センエイの眼にはまだ正気が灯っていた。
〜七封家の祖霊宿し〜
祖先の霊を身体に宿すことで一時的に生命を維持する七封家の裏技である。
「やはり・・・相打ち覚悟でなければ話にならなかったな・・・」
センエイは瞳を紫に染め上げて、両肩の空間から紫色の右腕と左腕を召喚すると、その両腕でリンの右腕をがっしり捕らえた。
その紫色の両腕は不揃いだが、成人男性の腕の三倍の太さがある巨腕であり、リンであっても容易に振り解けない代物だった。
そして、テッケンもその好機を見逃さず、戦化粧によって強化された右拳をリンの顔面に向かって放った。
しかし、リンの瞳は青に切り替わっており、皮膚は氷のように硬くコーティングされている。
右拳が氷の硬度に負けて破壊されていた。
しかし、テッケンは怯まず、リンに両拳の連撃を浴びせる。
流石のリンも鬱陶しく思い、センエイの呼び出した巨腕を振り解くと、テッケンを無茶苦茶に殴りつけた。
ドドドドドドドドッ!
テッケンの身体は衝撃でボコボコにへこみ、仰向けに倒れそのまま絶命した。
(う・・・強すぎる・・・これではマッカ様でも勝ち目は薄い・・・)
センエイはこの惨劇を見て青ざめていく。
「クククククッ・・・」
リンは笑った。
リンは密かにそのセンエイの表情を求めていたのだった。
センエイがしまったと思いリンに目を向けると、瞳の色がすでに美しい紫に輝いていた。
「センエイ。今一番考えてはならないことを考えてしまったな」
敗北を感じてしまったセンエイの心に付け入るように、リンの瞳から放たれる紫の光がセンエイを包み込んでいった。
「七封家が鬼になる。傑作じゃないか」
リンはニヤリと笑い、その輝きを見つめていた・・・
一方、アスカは鬼殲滅委員会の本部に帰る途中、町中の騒動に気づいていた。
避難する民間人とそれを誘導する兵士たち。
何者かの襲撃だと言うことを理解するまでには時間がかからなかった。
せめてリンの襲撃だけは待ってほしいという思いで、現場に到着したアスカが最初に見たものは、半鬼に変えられたセンエイの姿だった。
「まさか、センエイさん・・・その姿は・・・」
センエイの皮膚は紫色に変えられ、両腕とは別に両肩から不揃いな巨腕が一本ずつ飛び出していた。
センエイはアスカの姿を認めると、その四本の腕で襲いかかった。
アスカは同時に襲いくる四つの拳を、なんとか両腕でガードすると、わざと後方に飛び威力を逃す。
どこからか声が聞こえてくる
「貴様はアイを監視していた奴だな?同じ七封の者に殺されるがいい」
リンの声が聞こえてくる。
リンはどこからかこちらを観ている様だが、探している暇もなかった。
アスカはセンエイと相対し、考えをまとめる。
(おそらく半鬼の状態では呪いは使えないのかも・・・)
普通に戦ったら勝ち目のないセンエイでも、呪いを使えないのなら勝機があるとアスカは考えた。
アスカはセンエイに向かって呪詛発火を仕掛ける。
しかし、センエイが前に伸ばす左巨腕が火炎を阻んだ。
センエイは徐々に燃えていく左腕のことを全く気にせず、アスカ目掛けて突っ込んでくる。
(距離を詰められたらまずい・・・!)
発火が巨腕に防がれ、本体にダメージを与えられないのであれば、別の攻撃仕掛けなければならない。
かと言って、紫の瞳でセンエイを支配し返そうにも、呪いによる模造品の瞳であるアスカには、鬼である本物のリンの瞳を上書きできる力はなかった。
しかし、アスカはとあることを思い出していた。
おそらくあの肩から生えている腕は、センエイが紫の瞳で生み出したもの。
それが何らかの理由で半鬼になる時に、融合してしまったようだと。
元々くっ付いているものでないのなら、その接続面は多少脆くなっているはずだ。
アスカは瞳を紫に染め上げ、肩から生えた巨腕のみを支配領域に送り帰そうとした。
センエイがアスカに近づき、巨腕を振りかぶろうとしたその時。
巨腕は紫の光になり、宙に霧散していった。
「センエイさん、じゃあね・・・」
アスカの発火がセンエイの頭部を捉える。
「グゴゴゴゴゴゴゴ・・・」
燃え盛る炎の中からセンエイの唸り声が微かに聞こえる。
やがてセンエイの頭部は焼け焦げ、倒れて動かなくなった。
「ほう・・・ただの雑魚というわけでもないのか」
前方にリンの姿が現れる。
「鬼島リン・・・!」
アスカは辛うじて対抗する意志を示したが、リンという強大な敵を目の前にし、全身の力が抜けていくのを感じていた。
一瞬で殺されることを理解し、ただ睨みつけることしかできない。
「所詮はまだ子供だな。センエイらのように私と戦う覚悟ができていない」
リンの言う通りだった。アスカ自身が企てたあの廃館での出来事でさえ、実は抵抗があったのだ。
アイをずっと監視していたとはいえ、今まで普通の高校生として過ごしてきたのだから。
しかし、ここまで来たからには引き下がるわけにはいかない。
七封家としての責務を全うする。
アスカは死んでいった七封家の仲間のことを思い出し、無理矢理に立ち向かう勇気を引き出していた。
「ふ・・・まだそんな気力が残っていたとは、気に入った。我が傀儡にしてやろう」
リンがそう言って、アスカに手を伸ばそうとした。
「・・・ッ!?」
しかし直前でリンは、アスカの背後から向かってくる大きな存在感を感じて手を止める。
リンの目線の変化にアスカも振り返ると、遠くから走ってくるサクラの姿が目に入った。




