第六章 「鬼迫る夢」2
アイは廃館の二階の部屋の扉を一つ一つ慎重に開けていく。
そして、その中の一室で窓際に立って外を眺めている白髪の男の後ろ姿が見えた。
「おじいちゃん・・・?」
アイが恐る恐る近づきながらそう聞くと男はゆっくりとこちらを向いた。
「やあアイ、お互い無事に再開できて良かった」
祖父は普段通りアイに言った。
しかし、アイはこの状況で平然とした態度に逆に寒気を覚えた。
「なんて顔をしているんだ。もう大丈夫だ。俺はお前を救いに来たんだからな」
祖父はニッコリと笑い言った。
「怖い夢を見せてしまって悪かった。これがお前を救う最善の方法なのだよ。お前を我が傀儡として生かしておくためのなあ・・・」
祖父の笑顔はさらにくしゃくしゃになっていく。
夢に出てきた祖父の顔だ。
それは人間には不可能なほどの不気味な笑みだった。
アイは恐怖を感じ後退った。
「怯えなくてもいい。俺の可愛い孫よ。本当は二人とも救うつもりだった。しかし、七封家の者共が早く勘付きおってな。それにリンは自分の力に酔いしれている。奴の手綱を握るのは難しかったのだ」
「ヒッヒッヒッ・・・その点、お前はお利口さんだな。自分の運命に対してあまりにも無防備だ。迫り来る脅威に対して保留し、ただ避けようとしているだけ。人間の悪い癖のようだ。まさかここまで扱い易く育ってくれようとは」
アイは状況を理解し身構えた。
「アナタはおじいちゃんじゃないわね・・・」
「ヒャッヒャッヒャッ・・・何を言っているんだ?俺はお前の祖父、鬼島セイイチロウだ。しかし別の顔も持っている。はるか昔に<鬼将ガンキ>と呼ばれておった」
(鬼将ガンキ?まさかおじいちゃんは・・・)
「つまり七封家の奴らが危険視していた鬼の大将の復活とは、生まれ変わりである俺の力に反応していたというわけだ。だからあえて奴らに接触した。お前やリンが良いエスケープとして機能してくれていたよ」
「まさか・・・そんな・・・」
「辛い思いをさせたな。だがもう大丈夫だ。お前は今まで通り俺を受け入れていれば良い。それがお前にとって幸せなのだから」
「あの夢は・・・アナタ、私に何をしたの・・・!?」
「まあ半鬼に作り変えようとしただけだ。最近の半鬼出没事件はリンと俺の仕業だからなあ。リンは直接瞳で見て半鬼を作っているみたいだが、俺は悪夢を見せて半鬼を作っている。なんでこんな回りくどいことをしているのかって?それは時間がかかるが、夢がやがて自己暗示となり、それの生活空間で萌芽する。家族や大切な者の目の前でなあ。クフッ・・・人間共がパニックになるのはこの上ない俺の楽しみなのだよ」
「アナタは狂ってる・・・!」
アイは青い瞳を輝かせてガンキを睨んだ。
「おいおい、馬鹿な真似はよせ。お前は<虹の瞳>をまだ持ってはおらんのだろう?」
(虹の瞳・・・?)
「鬼眼には、下位の瞳である紫。上位の瞳である藍、青、緑、黄、橙、赤。そして最上位の瞳である虹が存在する。そして虹には<天の瞳>と<地の瞳>が存在しており、人体の構造上そのどちらかしか発現できないのだ」
「天の瞳もかなりの力を持っている、しかし、地の瞳は最も優れていてな。地の瞳は紫の瞳をさらに強化した能力である完全支配を可能としているのだ」
「使い方によって様々だが、全世界の全ての無抵抗な生命を支配したり、一つの対象をその能力の限界の際限を超えて支配したりもできる。問題なのは強力すぎるあまり身体に相当な負担がかかる。だから一生に一度しか使用できないのだ」
「虹の瞳は七色の瞳の全ての術理を知ってないと出すことができない。今のお前は藍の瞳の術理を知らんだろう?お前では<地の瞳>を使える俺には勝てない」
(鬼眼にはまだそんな恐ろしい能力が・・・!?もし虹の瞳を悪用されたらこの世界は無茶苦茶に・・・!)
「どんなに才能のある鬼であっても、何の干渉もなければ五色までしか瞳を発現できないようになっている。しかし最大の誤算だったのは、この時代に生まれた鬼である、お前とリンが補い合うように別の瞳を発現したことだ。おかげでお前と戦ったリンは何時か虹の瞳の存在に気がついてしまうだろう」
「さあ、アイ。俺と共に来い。楽になれ。共に混沌の時代を築き、楽しもう・・・」
ガンキは一通り語り終えると紫の瞳を携え、アイに手を伸ばす。
〜異眼戦型〜
アイは右目の紫の瞳でガンキの支配に抵抗し、左目の緑の瞳の能力の強風でガンキを後方に吹き飛ばした。
ガンキの身体は勢いよくガラスに叩きつけられ、そして突き破り、二階の窓から外に放り出される。
「フン・・・くだらん・・・」
ガンキも自分で起こした強風に乗り、地面への激突を免れた。
「いいか、アイ。お前への支配はすでに秒読み。明日にでも俺の半鬼になるだろう。さらばだ」
ガンキの身体が闇に消えていく・・・
(まずい・・・支配領域に逃げられた・・・)
アイが明日の朝に半鬼として目覚めるのであれば、今日中にガンキを倒し支配を解かなければならない。
(確かにどこかに居る・・・!?)
支配領域の展開は永遠ではない。
瞳の力は精神と体力を消耗するのだ。
アイは必死に感覚を研ぎ澄ます。
そしてアイの瞳が紫に輝くとアイも闇の中に姿を消していった。




