第五章 「英雄の志願者」ラスト
人類の敵と言われているアイのことを完全に信じきるのは、ヤマトにとって危険なことだったが、やっと再開できた友人に安堵の気持ちを覚えていた。
「その半鬼は?」
ヤマトは青い半鬼の方を向いて聞いた。
「彼は人間よ。人間に追われる中で彼だけが私のそばに居てくれた。私は彼を半鬼に作り変えたわけじゃない。でも、彼は私を守り続けると強く誓ったの。彼は私の瞳の影響を強く受けてしまったのかも知れない・・・」
アイはその半鬼を抱き抱え涙を流していた。
「この重症では彼はもう助からない・・・もう戻らない・・・」
「そうだったのか。実は俺も彼に助けられたんだ」
ヤマトのつぶやきにアイも驚いた。
「ヒロシも兵士になったの・・・?」
「ああ、でも残念だが・・・戦死したんだ」
ヤマトの答えにアイは絶句する。
「ヒロシは半鬼に変えられそうになり、俺に襲いかかってきた。だから俺はヒロシを撃った」
ヤマトは空を見上げていた。
アイはその言葉を聞いてリンに対する怒りが込み上げてきた。
「俺はヒロシと一緒にタクミさんの班で任務をこなしていたんだよ。そしたらヒロシは死に、タクミさんは狂っていった・・・アイ、敵は誰だ?鬼島リンか?七封家か?俺はこれからどうすれば良いんだ・・・?」
「正直言って私にもわからない・・・私自身がこれから人類の敵になるのかも・・・でも確実に言い切れるのはリンは今も半鬼を生み出し続けているということ・・・」
「そうか・・・」
ヤマトがそう言い終えると少し沈黙が続いた。
「そういえば、サクラはどうなったか知らないか?」
ヤマトはずっと考えていた。
アイが鬼であるなら、一緒に消えたサクラはこの件に巻き込まれている可能性が大きいと。
殺されている可能性もある・・・ヤマトは息を飲み込んだ。
「サクラは七封家の人間よ・・・」
「えっ」
アイの言葉にヤマトは驚いた。
「でも、サクラは私を庇ってくれていた。今はリンと戦う力を取り戻すために動いている。そして彼女は私以上に複雑な状況にいるから・・・」
ヤマトは安堵したサクラがアイに殺されていたなら、もう何が何やらわからない。
「今の俺には何もかもわけがわからねえが、生きているならそれは良かったよ・・・」
ヤマトはそう言い終えると、また少し沈黙が続く。
「なあ、アイ」
ヤマトは沈黙を破り、アイに近づいて言った。
「昨日の夜から考えてたんだ。面と向かって言うのは、少し照れ臭いけどなあ・・・」
「今日もしお前と話すことができるなら、感謝の気持ちを伝えたかったんだ。あの廃館でアスカに襲われた時、お前だけが勇敢に俺たちを守ってくれた。俺はその姿に何というか、憧れみたいな気持ちを覚えてな。強くなろうと決心できたんだ」
「今の俺はあの時と比べものにならないくらい強くなった。厳しい訓練でも、お前やヒロシに負けたくない一心で頑張ってこれたんだ」
「これからも俺はこんな状況でも友達や家族を守り抜けるくらいもっと強くなるよ。そしていつかお前を守り返せたら・・・」
照れ臭くなったからかヤマトはアイに背を向けた。
「行ってくれ。ここは何とか誤魔化しておく」
「ヤマト・・・ありがとう・・・」
アイもヤマトに背を向け、足を引きづりながら歩き出した。
しばらくしてヤマトは後ろを振り向いた。
アイの姿は小さくなり、木々に紛れ見えなくなっていく。
「また会えるよな・・・」
(生きろよ・・・アイ・・・)
その後、俺は隊に合流しようとしたが、単眼鬼は消えていて兵士たちも散り散りに逃げてしまったらしい。
しかたなく俺はタクミさんを抱えて山を降りた。
その後、タクミさんは精神病院に入院することになった。彼の罪がどうなるかわからないし、正気に戻ってくれるかもわからない。
そして、俺の罪。
司令官である七封アキを殺してしまった罪。
しかしその殺人の罪は消え去った。
七封アキの遺体が消えていたのだ。
どうやらアイが処理してくれたらしい。
それからも俺はさらなる強さを求めて、肉体的な訓練や戦闘技術を磨き、呪いの類いなんかも勉強した。
そして、がむしゃらに半鬼と戦い、戦えない者たちを助け続けた。
いつの日か俺のことを<英雄>と呼ぶ者も現れ始めた時。
あらゆる兵士たちの声が募り、俺の功績は認められて鬼殲滅委員会の中枢に加わることになった。
その後も俺はその中枢に留まり続けている。
もっと力を付けなければ。
ヒロシの死の原因となった鬼島リンを倒すため。
そして、いつかアイを守り返すために・・・




