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虹の瞳  作者: シンノスケ123
第五章「英雄の志願者」
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第五章 「英雄の志願者」5

進軍するタクミ班の5人。現場に近づく連れて銃声が大きくなっていく。


やがて、茂みの中にヤマトたちがかぶっている物と同じヘルメットが無数に見えた。


「あれだな」

タクミ隊長はそう言うと、本隊に合流した。


「撃ちかた待て!」

司令官の声が聞こえる。

おそらく七封アキというやつの声だろう。

声の伝わり方からかなり近くに居ることがわかった。


その指示に従い全員撃つのを止めて、銃剣を構えたまま次の指示を待っていた。


ヤマトは辺りを見回すと無数のヘルメットが見えた。


そして、このおびただしい数の人間が、1人の女性を追い詰めている事実を考えてゾッとしていた。


「いたぞ!」

七封アキの声が聞こえてくる。


「まだ撃つのは待てよ」

七封アキは兵士全員を制止していた。


ヤマトは必死にアイを目で探した。

この目でもう一度アイの姿を見たかったのだ。


そして、茂みの中に見つけた。


うずくまる長い髪の女性。


そしてそれを庇う青の半鬼の姿が。


その半鬼は体表が結晶に覆われたようになっていたが、ところどころ赤い血が滲んでいた。


「タクミ隊長!あれは!」


「ああ・・・そうだな」

ヤマトはあの半鬼が小学校に現れたものと同一の存在であることを理解すると、タクミ隊長に声を投げかけたがタクミ隊長は虚ろな返事をしていた。


七封アキの声が聞こえる。

「目標は弱っている。おそらく瞳の力も使い尽くして防御もできていない。このまま捕獲する」


「ただし、その半鬼はジャマだ。全員撃て!」


激しい銃声の中で、半鬼の結晶がボロボロになっていき、身体は少しづつ赤く染まっていく。


「シロウッ・・・!」

アイの叫び声が微かに聞こえた。


アイの瞳が紫色に染まっていく。


そして、アイの目の前に紫色の光が集まり、全長5メートルほどの大きな紫色の鬼に変化した。


グオオオオオオオオオン!


そう、それは鬼島リンが生み出した<単眼鬼>と呼ばれる怪物だった。


「何ッ!?」

七封アキの驚きの声が聞こえる。


兵士たちは見たこともない怪物に驚き、恐怖した。


「うわあああああああ!」


パニックになった兵士たちは叫び声を上げ、単眼鬼に向かって無茶苦茶に発砲した。


しかし、単眼鬼には銃弾の嵐がほとんど効いていないようだった。


「単眼鬼、私達を守って!」

アイの叫び声が微かに聞こえた。


「撃つのを止めんか!」

アイが半鬼を抱えて逃げていくのを見た七封アキは、兵士たちを制止しようとした。


しかし、恐怖した兵士たちの統率を取るのが難しかった。


「うぎゃあああああああ!」

突然、別方向からの銃弾に兵士たちが倒れていく。


「何だ貴様!」

七封アキが怒鳴った。


タクミ隊長が他の兵士たちに向けて、銃を乱射していることに気がついた。


「何が鬼の末裔だ!急にそんなことを言われて追われる身になった人間のことも考えやがれ!お前たちも道連れだ!ウヒャヒャヒャヒャヒャ・・・!」

タクミ隊長は無茶苦茶に叫びながら、兵士たちを殺戮し始めた。


タクミ隊長は完全に狂ってしまっていた。


ヤマトと同じ班のタジマ、オカベ、トモハルもタクミ隊長の銃弾で倒れていく。


「タクミさん!アンタ何してるんだ!」

ヤマトは思わず吠えた。


「ヤマト!お前ならわかってくれるよな!アイの友達だったもんなあ!?一緒にアイを逃してくれるよなあ!?」

無茶苦茶に乱射しながら、タクミ隊長は叫んだ。


「落ち着いてくれ!」

ヤマトはそう言って、タクミ隊長のヘルメット越しの顔面に拳を叩き込んだ。


ヤマトの鍛え上げられた肉体と精神から放たれた正拳が、ヘルメットの透視面をひしゃげて、顔面に拳の威力が伝わる。


タクミ隊長は意識を失い倒れた。


「くそッ・・・俺はどうしたら・・・」

ヤマトは拳の痛みを感じながらつぶやいた。


すると、兵士たちとは違う服装の男が近寄って来た。


「お前、なかなかやるじゃないか。もうこいつら収集がつかん。俺はアイを追う。お前もついて来い。あの単眼鬼は恐怖に狂ったこいつらに惹きつけさせる」

男の声は今まで指揮を取っていた七封アキのものだった。


「わかりました」

ヤマトはとりあえず指示に従い、二人は激しい銃声の中でアイの後を追った。


そして少し木々の開けた場所で、すぐにアイは見つかった。


疲弊している上に青の半鬼を引きずって歩いていたアイの速度は想像以上にゆっくりだった。


「待て!」

七封アキが言う。


「アナタは七封アキね・・・」

今にも意識を失いそうな声でアイは言った。


アイの服には血が滲んでいた。おびただしい数の銃弾を浴びてそれでも生き抜いたと言うことだろうか?


「お前を捕らえればテッケンの旦那も俺を認めてくれるよな?」

七封アキはニヤリとして言った。


アイは立っているのが限界だった様で、膝から崩れ落ちた。


「せめて、彼だけでも逃してあげて・・・」

アイの言っている彼とはその半鬼のことだろうか?


「人類の敵を生かしておく理由はない」

七封アキは倒れている青い半鬼に銃を向けた。


「ちょっと待ってくれ」

ヤマトは七封アキに銃口を向けた。


「何だ貴様。俺に刃向かえばどうなるか分かっているのか?」

七封アキはヤマトの方を見て威圧した。


「彼女と話がしたい。そのくらい言うことを聞いてくれてもいいだろう?」


「ダメだ。そんな余裕はない」


「俺は本気だ。アンタを撃つぞ?」

ヤマトはどうしても最後にアイと話がしたかった。


「試しに俺を撃ってみろよ。力の無さを実感することになる。たった2ヵ月しか訓練していない新兵風情が」

七封アキの瞳が紫色に染まると辺りが紫色に染まり始める。


七封アキの支配領域では銃弾など意味をなさないのだ。


「アンタは俺を測り違えているよ」

ズドンッ!

ヤマトはそう言うと七封アキの腹部を撃ち抜いた。


「ぐはッ・・・なぜ・・・?」

七封アキがゆっくり倒れ込むと、ヤマトはさらに数発発砲し、息の根を止めた。


ヤマトは入隊前から心構えが違っていた。

何としても強くなると言う意思。廃館でアイに守ってもらっていた弱い自分と決別する思いが、紫色の支配の効果をわずかに打ち消していた。


「アナタは・・・?」

アイは消え入りそうな声で聞いた。


「ああ、そうか。ヘルメットをしてたら分からねえよな・・・」

ヤマトはそう言ってヘルメットを脱いだ。


「ヤマト・・・!どうして・・・!?」


「守られるだけじゃない自分に生まれ変わりたかっただけさ」

ヤマトはアイの顔を見て優しく微笑んでいた。

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