第五章 「英雄の志願者」2
入隊日当日の早朝六時半・・・
山奥の森の中にある、軍の訓練施設のようなグラウンドに集合した20名の中にヤマトとヒロシはいた。
歳は14〜38歳の男たちだ。
20名は二列に整列し、その目の前には教官らしき4名の屈強な男たちが立っていた。
「今日より、お前たちには尋常ではない苦痛や恐怖が襲いかかるだろう。しかし、それを乗り越えた先に我々人類の勝利がある。お前たち一人一人が人類の代表であり希望なのだ。もし、お前たちが恐怖に屈しそうになった時は思い出せ。未来はお前の手にあるとな」
教官の中で最も年長な男が言った。
「現在このような施設が各都道府県に一つずつ存在しており、約200名の応募があった。つまり、今同じ時に200名が同じ説明を受けているだろう。まだまだ人数は少ないが、我々も度々募集をかけるつもりだ。まだまだ人数は増えるだろう」
「まずはお前たちに、鬼と戦うための基礎体力と武器の扱い方や鬼に対する基礎知識をつけてもらい、しばらくしたら特殊訓練に入る。この特殊訓練については今は明かせないが、鬼に対抗する最も有効な手段だ」
不安を感じているヒロシとは裏腹に、ヤマトはワクワクしていた。
鬼に対して有効な対抗手段を早く習得したかった。
「それではこれから5人ずつの4つの班に分かれ訓練に入っていく」
そして四、五十代くらいの男が、ヤマトたちの前にやってきた。
「俺の名前はゲンエモン。お前たちのことはは右からオカベ、タジマ、ヤマト、ヒロシ、トモハルと呼んでいく。もちろん訓練中の私語は厳禁だ。俺の命令には<了>とだけ答えろ。わかったか?」
「了!」
ゲンエモンの言葉に、ヤマトたち5人は大きな声で答えた。
「よし、威勢がいいな。早速訓練を開始する。ついてこい!」
その日はゲンエモンの命令の下で、過酷な訓練を行ない、途中で食事休憩を挟んだが、16時まで濃密に身体をいじめ抜き、21時には20人が8畳分の広さの同じ部屋で泥のように眠った。
そして、そんな日が続いて一週間後。
20人は再びグラウンドに集められた。
「今日は特別に<鬼殲滅委員会>の幹部殿をお招きし、鬼についての知識をご教授賜ることになった。心して聞くように」
教官の一人がそういうと、別の教官に連れられて、ガタイの良い人間が現れた。
しかも、それは女性だった。ヤマトたちも知っている人物だ。
(あれは、隣のクラスだった七封アスカじゃねえか・・・!?)
ヤマトとヒロシは驚いた。
アスカは訓練兵の前に立つと話し始めた。
「私は七封アスカ。早速だけど鬼とはどういうものか説明していくわ。今起こっている被害は、みんなも幼い頃に聞いたことがあると思うあの昔話から始まったのよ」
500年程前・・・
この国には鬼という存在がいました。
鬼は普段人里離れた山奥に住んでおり、たまに人間を襲ったりしていました。
鬼は特殊な力を使うことができました。
そして、最も厄介なのは姿形は人間と全く一緒だったことでした。
いつしか鬼達をまとめる凶悪な鬼が現れました。
鬼達は徒党を組み、この世界を支配しようとしました。
しかし、帝に仕える七人の呪い師達によって滅ぼされましたとさ・・・
「この話は事実。しかし、一つだけ違う部分があった。それは凶悪な鬼の大将は人間に紛れて生き残ったこと」
20人は息を呑んだ。
「そしてその末裔が再び人間に牙を剥いた。というのが昨今の被害の真相というわけね。そしてこの帝に使える七人の呪い師の末裔が七封家。つまり私がその子孫なのよ」
(・・・!?)
ヤマトとヒロシは驚いて顔を見合った。
「ここで少し我々にとって都合の良い話をしましょう。この現状を表面から見れば、世界各地に存在していた鬼が一斉に暴れ出したように見えるけど、実は本当の鬼は二体しか存在しないのよ。今暴れているのは、鬼の支配を受ける中で鬼に変化した人間か、鬼が一から作り出した鬼のようなモノの二通り、私たちはこれらを<半鬼>と呼んでいる。そしてこの半鬼は新しく半鬼を生み出すことができないわ。つまり本物の鬼二体を倒すことができれば、この件は徐々に終息するというわけね」
「ここまでで何か質問はあるかしら?」
七封アスカがそう言うと、ヤマトはすぐさま手を挙げた。
「七封殿、その鬼とやらは今どこに潜んでおられるのですか?」
「アナタは・・・!?」
ヤマトたちに気がつきアスカは驚いた。
「久しぶりねヤマト君、驚いたわ。君たちがそれを知るにはまだ早いわ。今のアナタたちではまず嬲り殺しにされる。もちろん私でも鬼に敵わないわ。ヒロシ君アナタならこの意味わかるわよね・・・?」
アスカの瞳が紫色に輝くと、ヒロシは廃館での出来事を瞬時に思い出して震えた。
「うッ・・・!」
ドサッ!
紫色の瞳に見つめられたヤマトは少しして卒倒した。
「全員この瞳を見なさい!この瞳は<鬼眼>と呼ばれる鬼の能力を発するためのもの!ここにいるヤマトは私に見つめられたことで操られ自ら意識を失った!しかしこれは完全な鬼眼ではない!これは七封が擬似的に習得した呪いの一種よ!アナタたちの中からも使える者が現れるかもしれない!鬼を倒したいのなら、早く強くなって私たちと同じステージに来なさい!」
アスカの気迫に訓練兵全員が震えあがった。
その夜、ヤマトとヒロシは少しの自由時間に話し合っていた。
「アスカのあの瞳は一体なんだったんだ?まるで意識に侵入されている気分だったぜ」
「お前気が付いてないのか?廃館での俺たちを襲ったのはおそらくアスカだよ」
ヒロシの言葉にヤマトは驚いた。
「一回廃館で俺が操られたようになったって、お前たち言ってただろ?その前に俺はマスクを外した奴の顔を見たんだよ。気のせいかと思ったがあの紫色の目を見て確信に変わった」
「まさか・・・もしや奴は鬼なのか?」
「いや、アスカは鬼と敵対する一族だって言ってただろ?まあ百パーセント信用はし難いがな。もし、あの廃館での出来事が鬼の件に関係があるのだとしたら・・・」
ヒロシにはとある仮説が思い立ち、声を詰まらせた。
あの時、アスカの標的がヤマトとヒロシではなく、サクラとアイだったとしたら・・・
サクラとアイが行方不明になった事には説明がつく。
何らかの理由であの二人が鬼を倒すのに邪魔だったのかもしれない。
もしくはあの二人が・・・




