第三章 「二つの刺客」ラスト
「鬼島リン・・・!」
アイは目の前にいる、人生の宿敵に対して言った。
そして祖父の言葉を思い出していた。
(最終的にリンは誰かが倒さなければならない・・・)
「それにサクラ。また会えて嬉しいよ」
リンはサクラの方を見て微笑んだ。
「・・・!?」
アイは、サクラとリンが面識があるということに驚いた。
「その様子だとサクラから何も聞かされていないようだね」
リンはセンエイ達との戦闘をサクラが見ていたことについて、アイに説明した。
「そんなことが・・・サクラごめんなさいアナタを巻き込んでしまって・・・」
アイはそう言うとリンを睨みながら、サクラを守り易いように背後に誘導した。
「そういえば、二人の刺客の内の一人が消えたことについてはもうどうでもいいけど、ジジイの家に向けて放った単眼鬼だけは返してくれないか?」
祖父母の家で暴れ回っていた単眼鬼をアイが封じ込めた。
しかし、アイはてっきりリンの支配領域に送り返したものと思っていた。
(まさか私自身の支配領域に送ってしまったのかも)
「あれは刺客達とは違って、私が一から生み出し育てた鬼。言わば私の息子なのだよ」
もちろんアイは返す気などないし、紫色の瞳をあまり使ってこなかったため呼び出す方法も知らなかった。
「まあ後でいいか。そんなことよりお前の力を私自身で確かめたい」
リンは瞳を緑色に染め上げた。
(来るッ・・・!)
アイは左目を長い髪で自然に隠すと、右目の氷眼でリンを睨んだ。
リンの緑色の瞳が強烈な追い風を呼び、アイとの距離を一瞬で詰める。
シュバッ!
リンの素早い突きがアイの左肩を捉え、貫通した。
しかし、アイはその放たれた右手を肩から抜くと掴んで離さず、氷眼で睨み続けていた。
そして肩の傷はみるみる塞がっていく。
「何ッ!?」
リンは驚いた。
なぜならアイは青い眼でリンを睨みながら、自分の傷を赤い眼で回復するという、2つの瞳の能力を同時に行なっているのである。
「まさか・・・」
リンが掴まれていない左手で手刀を作り、アイの顔面を目掛けた突きを放った。
アイはどうにかそれを回避したが、長い髪で隠していた左目があらわになってしまう。
アイの左目は赤く輝いていた。
〜異眼戦型〜
これこそが祖父から伝授された<秘策>である。
本来、二つの能力を使う場合は眼の色を切り替えなければならないが、左右の目を別々の色に染め上げることで二つの能力を並行して使いこなすことができるのだ。
「器用な奴め」
このまま組み付いていれば、アイ自身は赤眼で傷を回復しつつ、リンの身体は氷眼によって自由を奪うことができるのだ。
するとリンの瞳は橙色に輝いた。
ボウッ!
発火音と共にアイの衣服に火が付き始める。
「熱ッ!」
燃え広がる火にたまらずアイは、リンと距離を置き、上着を脱ぎ捨てた。
「橙の瞳は炎の瞳。この眼で相対している限り、氷の眼の影響は軽減できるようだな」
リンは橙の瞳をさらにギラつかせると、ついにアイの皮膚から発火しはじめる。
アイは激しく地面をのたうち回るが、リンに見つめ続けられている限りその炎が消えることはない。
赤眼の力でダメージを少しだけ軽減できるとはいっても、想像を遥かに超えた身を焼かれる苦痛と恐怖がアイに襲いかかってくる。
「うあああああああ・・・」
アイが死を予感したその時、突然暴風が吹き荒れ、アイを焼いていた炎をどこかに連れ去っていった。
リンは驚きアイの様子を観ていると、這いつくばっていたアイが顔を上げた。
その両眼は緑色に輝いていた。
しかし、アイの瞳の輝きは一瞬にして失われ、本来の色に戻っていた。
そしてアイは、目のかすみさえも感じはじめており、極度の疲労から這い上がることもできない。
「鬼眼の力は急激に体力を消耗する。覚えておけ」
リンはそう言ってアイに向かって歩き出した。
(せめてサクラだけでも逃さなくては・・・)
しかし、サクラの姿は見当たらなかった。
「・・・ッ!?」
リンは背後に気配を感じ振り返ると、サクラの手刀がリンの左肩に振り下ろされ右脇腹まで袈裟の方向に切り裂いた。
「サクラ、どういうことだ・・・!?」
「やはり、この身体では殺し尽くせないわね」
リンは得体の知れないサクラに対して距離を取るが、それを感じてサクラは追いすがる。
リンと戦うサクラという、不可解な状況を目の当たりにしながらアイは気を失った。
リンは傷を負いながらも、サクラの手刀による猛攻をしのぎきり、赤い瞳を輝かせた。
「アイのおかげでこの赤い瞳と青い瞳の術理、解明できた。なんて幸運だ。私がちょうど使えなかった二つの瞳をアイが持っているなんて」
リンの傷は塞がっていく。
「そしてサクラ、君も興味深いよ」
リンは瞳を黄色に輝かせ、光の玉をサクラの目の前に発生させた。
サクラはマッカとしてリンと戦っていた時のことを思い出した。
サクラの瞳は紫色に変わり、その眼で光の玉を見た。
光の玉は闇に包まれ、別の領域に飲み込まれていく。
「まさかサクラ、お前は鬼か、七封家の者なのか・・・!?」
「アナタ、眼の使いすぎで相当消耗してるわね。そして私も万全な状態ではない。だからこの戦い、一旦仕切り直すのはどう?このままだとお互いただでは済まないわ」
「確かに、今の状態ではこのままアイを支配するのも無理そうだ。今日はかなりの収穫があったし、引き下がろう。楽しみがまた増えたな」
サクラの正直な提案に乗ると、紫色の瞳を輝かせリンは消えていった。
すると先程に召集をかけたセンエイが、サクラの元に馳せ参じた。
「アスカをお願い」
サクラはセンエイにそう告げると、アイのもとに歩いて行き、アイを横抱きにした。
「マッカ様、どうなさるおつもりで?」
「二人に力が使えることがバレた。だから決着はつけるよ。この世界、そして今の両親や友達を破滅に追い込む選択はできない」
サクラは紫色の瞳を輝かせ、アイと共に自分の支配領域に消えていった。




