第三章 「二つの刺客」1
人物紹介
<桃井サクラ>
アイの同級生で普通の女子高生。アイと共に行動するため怪異現象に巻き込まれる。
<鬼島アイ>
かつて世界征服を目論んだ鬼の末裔。不思議な瞳の能力を使い脅威を退けてきた。七色の瞳の能力の内、三色を使うことができる。
<鬼島リン>
アイと同じ鬼の末裔。七色の瞳の内、五色を使いこなす。対する勢力である七封家の人間を三人殺害しているようだ。
<七封センエイ>
鬼に対抗する呪い師<七封家>のリーダー。紫の瞳を他の七封家以上に使いこなせる。
<七封アスカ>
廃館の怪物の正体。七封家の一族。紫の瞳で空間や生物を支配できる。
友人であるアイの祖父母の家に向かう途中、田舎の畑に挟まれた道路をループする怪異と、鬼島リンと七封家の恐ろしい戦いに巻き込まれたサクラは今、何も知らされず紫色の部屋に閉じ込められていた。
(たぶん見てはいけないものを見てしまったから、彼は私を野放しにできないんだわ・・・)
鬼島リンが放った紫色の鬼。その恐怖から逃れたい一心でサクラは、鬼島リンと戦っていたセンエイの手を掴んでしまった。
そして、センエイの紫の瞳の能力でセンエイの所有する支配領域に連れてこられたのだ。
(鬼島リンはアイと同じ鬼島という苗字だった。そして七封家、この特徴的な苗字忘れるはずもない。同級生の七封アスカちゃんと同じ苗字。これって偶然?しかもあのセンエイという男はアイを隔離したことについて否定はしなかった)
(鬼島リンの言っていた鬼眼。それが廃館で見たアイの氷のような瞳のことを言っているのだとしたら、アイはリンと同類ということ?)
サクラは必死に今まで起こったこと、そして友人であるアイのことを考えていた。
幸いにも先ほど携帯電話で送ったアイへのメッセージには返信が返ってきていた。
そう、気をつけて帰ってね。
アイが無事なのは良かった。しかし、私は生きてここから出られるのだろうか・・・?
サクラがそんなことを考えていると部屋に1つだけあるドアが開いた。
「どうか手荒な送迎お許しください」
センエイはそう言うと後ろに三人を引き連れ、部屋に入ってきた。
そして、その中は七封アスカもいたのだ。
「まさか、アスカちゃん・・・!?」
アスカはサクラのそばに寄ると素早く跪いた。
「お、お許しください・・・知らなかったとはいえ、ま、マッカ様・・・」
アスカの表情を見ると尋常ではないくらい怯えていた。
サクラは呆気に取られているとセンエイを含めた残りの3人も跪き、
「廃館での出来事を言っているのですよ。怪物に扮して貴女達を襲ったのはここにいるアスカなのです。彼女は私の指示で動いただけです。どうか、お許しください」
サクラは状況があまり飲み込めなかった。センエイのまるで客人を相手にするような態度。アスカの怯えようにマッカ様という単語、それらは私に向けられているの?
誘拐されたと思っていたサクラだったが、状況が違うことを薄々感じ始めていた。
「早速ですが、これから非常に辛い現実を突きつけなければなりません。しかし、貴女の命とこの世界のために致し方ありませんでした。重ねて先にお詫び申し上げます」
サクラが動揺しているにも関わらず、センエイは続けた。
「貴女は桃井サクラではありません」
「え!?」
サクラは驚いた。サクラはこの世に産まれた時から桃井サクラとして生きてきた。桃井サクラでないはずはない。急に突きつけられた嘘のような言葉につい声が出てしまう。
「驚かれるのも無理はありません。貴女は今まで桃井サクラとして生きてきた。そう記憶している・・・」
サクラはセンエイの言葉を信じなかったが、今までの不思議な出来事のことを思うと完全には否定できない気持ちもどこかにあった。
「少しずつ順番に申し上げます。貴女の身体と記憶は桃井サクラそのものです。そこに間違いはありません」
「私は桃井サクラよ!貴女達は私をどうしたいっていうの!?」
極度の緊張と疲れ、そしてセンエイの進展しない言い回しに耐えられなくなり、サクラはついに発狂してしまった。
「落ち着いてください!貴女は今、複雑な状況の中にいます。少しずつ理解しなければ、現実とのギャップに精神崩壊しかねません」
センエイはサクラをなだめると自分達の目的を話し始めた。
「貴女の正体は<七封マッカ>。貴女には我々、<七封家の長>に戻って頂きたいのです」
(七封マッカ・・・!?この人は私に、アイと敵対する者達の仲間に、それも長として戻ってきてほしいと言っているの・・・!?)
「貴女は4年前、あの鬼島リンと戦い、あと一歩のところまで追い詰めましたが、惜しくも敗れ去りました。その時、リンが放った爆風に吹き飛ばされた貴女を、私はなんとかこの支配領域に送り込みました」
(あの鬼島リンと私が戦った・・・!?)
「鬼島リンは貴女が爆風の中で死亡したと思っていますが、貴女は強靭な精神力のおかげで幸い息をしていましたが、身体はズタズタに引き裂かれ修復は不可能な状態でした」
「しかし、私は万が一、貴女が負けるようなことがあればと考え、保険をかけておいたのです」
「以前から目をつけていた同じ年齢、ほぼ同等の身長と骨格を持った女性。つまり、桃井サクラを戦闘前に誘拐して、呪いによる精神攻撃で記憶だけを持った抜け殻の状態にしておいたのです」
サクラの顔は恐怖で真っ青になっていった。
「私は貴女の元の記憶を封印しました。以前の貴女は非常に好戦的な性格だったため、どんな状態であっても鬼島リンに再戦を申し込むでしょう。なので仕方なかったのです。そして、我々七封家の6人は呪いや瞳の力を合わせて貴女の魂を桃井サクラの身体に移し込んだのです」
「その後、貴女をそのまま桃井サクラとして世に返して、私以外の七封家5名の記憶を消し去り<七封マッカの死>を偽装しました。この情報は鬼島リンを再び討つための切札ですから、絶対鬼側に知られるわけにはいけませんので。そして、貴女の魂が桃井サクラに順応する時を待っていました」
「たった1つ問題だったのは桃井サクラが鬼島アイと友人関係にあったという事です。しかし、桃井サクラほどの適任はいませんでした。そのせいで貴女を余計に苦しめてしまう事でしょう」
サクラはこんな恐ろしい者達の目的に加担したくもないし、早く家に帰りたかった。
自分は桃井サクラ、両親や学校の仲間たち、ヤマト、ヒロシ、そしてアイ・・・今の絶望的な状況下で、こんなにも恋しくなる気持ちが偽りで、他人の記憶が元であるはずはなかった。
「今から貴女の記憶を呼び起こします。貴女はその瞬間に七封マッカと桃井サクラ、全く正反対な記憶と感情を持つことになります。どうか正気を保ってください。貴女にならできます。強い精神を持った貴女を私は覚えていますから」
語り終わったセンエイが合図を出すとサクラは取り押さえられ、七封家の4人は呪いの準備に取り掛かった。




