第一章 「廃館の怪物」1
町外れにある大きな廃館の前に4人の高校生が佇む。
そしてその中の長髪高身長の女子高校生アイは他の3人の高校生の様子を3歩後ろから観ていた。
「本当にこんな場所が存在してるとはなあ!?」
二階建ての廃館を見上げながら、男子高校生のヤマトが嬉しそうに問う。
「学校から徒歩1時間ほどかかるからな。俺たちが知らないのも無理はないだろう・・・」
男子高校生のヒロシはクールに答えた。
女子高校生のサクラはアイの方に振り向く。
「アイ、楽しんでる?」
サクラの発言にアイは渋々頷いた。
「まさか本当にアイが来るとはなあ!?」
そう、この4人は肝試しを今からしようというだが、アイはサクラ顔を立てるために嫌々付いてきただけだったのだ。
正直、科学的に考えて幽霊などいるはずがないだろう・・・
こんなこと無意味だ・・・
アイは内心そう思っていた。
「じゃあ、行くぜ!?」
と言うとヤマトは先陣を切った。
廃館は結構荒れており、入り口のドアは完全に破壊されている。
4人は中に入ると周囲を見渡した。
エントランスはガラスの破片やガレキが散乱して、薄暗く不気味な雰囲気を放っていた。
「思ったよりも酷いな・・・」
ヒロシは小声でそう言った。
「何年使われていなかったのかしら・・・?」
サクラも本能的な恐怖からか、無意識に小声で喋っていた。
エントランスには変わった物は何もないが、2階へと続く階段があった。
階段の奥は闇に包まれており、その先に何があるかわからない。
「1階は飽きた、階段を上ってみようぜ!?」
4人は懐中電灯を付け、階段を上がる。
2階は完全にカーテンが閉めきられ、光源が一切存在しなかった。
通路に懐中電灯を向けてみると、細い廊下の脇にドアが連なっている。
「とにかく、入ってみようぜ!?」
ヤマトは無神経に最初のドアを開いた。
和室のようだ。
「ヒィッ・・・!」
聞いたこともない渇いた声が部屋に響く。
その方向には、サクラが驚いた様子で壁に懐中電灯を向けていた。
アイもその方向に目を向けると、
大きな赤い文字で「呪」と書かれていた。
今の声はサクラが発したものだったようだ。
「おい、大丈夫か!?」
先行していたヤマトとヒロシも、サクラに駆け寄る。
普通に考えてイタズラで書かれたものだが、この雰囲気に感情が飲まれた状態ではシンプルに怖すぎる。
アイがサクラの方を見るとサクラもアイの視線を感じて、視線を送り返してきた。
「大丈夫!」
サクラは落ち着きを取り戻した様で軽く微笑んだ。
次々に部屋を探索していくが、同じ様な作りの部屋でしかない。
おそらく元々は旅館の様だった。
ドカーン、ガラガラガラ!
変わり映えのない部屋を半分くらい入ったところで、階段の方から大きな爆発音と何かが崩れる音が響き渡った。
4人は一瞬だけ硬直したが、ヤマトを筆頭に部屋を飛び出した。
そして階段のある廊下に向かって懐中電灯を当ててみると、そこには体長190cmはある何者かが紫色の眼を輝かせて立っていた。
その怪物は黒いマントで全身を隠し、さらに顔には黒いマスクつけている。
どうやら人間のようだが、常人離れしたガタイの良さに紫色の眼を光らせていてとても普通じゃない。
怪物は4人の姿を認めると、獲物を追い詰めるようににじり寄ってくる。
「逃げるんだ!」
ヒロシの言葉で4人は一斉に走り始めた。
怪物もほぼ同時に走り出し、時速45kmで追いかけてくる。
先頭を走るのはヤマトとヒロシ、その2人の後ろをアイが、さらに2メートル後ろをサクラが走っていた。
廊下の突き当たりには3階へと上がる階段が見えている。とりあえずそこまでたどり着くしかない。
しかし、怪物はサクラまで10メートルのところまで迫っていた。
「キャッ!」
アイが振り返るとそこにはサクラが倒れていた。
まずい・・・!
怪物がサクラに手を伸ばそうとした瞬間。
ガゴッ!
アイの飛び蹴りが怪物の顔面に炸裂していた。
怪物の体が後方に吹き飛ぶのを確認し、アイはサクラを抱え起こした。
「あ、ありがとう・・・」
サクラは怯えた様子で言った。
アイは少しサクラの方を見て頷いた。
その刹那、アイは怪物に追撃を喰らわすべきかどうか考えてたが、再び怪物の方を見るとそこには何もいなかった。
消えた・・・!?
天井と周囲を瞬時に確認したが怪物の姿は跡形もなく消えており、どこかのドアを開けて部屋に入った音もしなかった。
それどころか完全に怪物の気配は消失していた。
なんだったんだ今のは?幻覚か?
上の方からドタバタと足音が聞こえてくる。
ヤマトとヒロシは上の階に行ったのか?
「この廃館に3階なんてあったかしら・・・?」
いや、無いはずである。
2人は屋根の上を走っているのか?
一旦サクラとこの廃館を出よう。
アイとサクラは来た廊下を用心しながら戻る。
「そんな、ありえない・・・」
サクラは絶句した。
1階に続く階段が無かった。
無いというよりは崩れたような跡があり、その下には崩壊した階段の瓦礫が剣山のように鋭利に設置されていた。
飛び降りるのも無理そうだ。
少し強引だが、窓から飛び降りるか?
アイはカーテンを開け、外を見て驚いた。
さすがに暗すぎる・・・
4人は放課後16:00に出発して、おそらく17:00に廃館に到着した。
廃館に入ってから30分も経過していないのだが、窓の外は漆黒と呼べるほど暗かった。
そして窓も開かず、部屋にあったポールハンガーで窓を叩き割ろうとしたがびくともしない。
プルルルルルッ!
サクラの電話が鳴り響く。
「もしもし?ヒロシ?」
「サクラ、無事か!?」
電話はヒロシからのようだ。
「うん、アイも一緒」
「怪物が追ってきて、ヤマトとはぐれちまった!」
「ちょっと待って、今どこを走ってるの!?」
「分からねえ!だがこの廃館はなぜか螺旋状に上に続いているんだ!」
ブチッ!通話が一方的に切られた。
何が起こっているのか分からず困惑しながら、アイとサクラは上に向かうのだった。




