女神たちに出会った日
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
トリカラの片隅、小高い丘の上に建つ一軒の木造の家。
それが、リンタロウの新たな住処だった。
素朴な木の香りがする、どこか懐かしい小さな山小屋。壁にはつたが絡み、庭の片隅ではレモンの木が静かに風に揺れていた。
荷物を解きながら、リンタロウはひと息ついた。東京の喧騒とは正反対の、深く、澄んだ空気。窓の外では、鳥のさえずりと虫の声が絶え間なく聞こえていた。
「……本当に、来たんだな」
そのときだった。
――コン、コン。
扉を叩く音が、静寂を優しく破った。
「こんにちは~、新しく来られた方ですよね?」
柔らかく、包み込むような声。耳に届いた瞬間、体の奥底にまで染みわたってくるようだった。
扉を開けた――そして、リンタロウは息をのんだ。
そこには、五人の女性が立っていた。
年齢を重ねた大人の包容力、豊かな肢体、太陽の下で鍛えられたたくましさ。そして、どこか幻想的な光をまとったような存在感。彼女たちは、まるで大地そのものを具現化したようだった。
(これは……女神だ)
リンタロウの目には、彼女たちの身体を形づくるすべての細胞が、小さな生命を宿した宇宙のように見えた。
無数の森、清らかな水辺、そして、遊び回る子鹿や小鳥たち――そんなイメージが、彼女たちの一挙手一投足に重なっていく。
五つの星々が、今ここに集まっている。
視線を向けるだけで、銀河が芽吹き、命が息づいていく――そんな錯覚すら覚えた。
「はじめまして、ドリスよ。オリーブ畑を世話してるの。」
「私はアンジェリカ。小麦とハーブを育ててるの。パンも焼けるわよ?」
「モニカって言います。トマトとブドウの畑を見てるの。」
「サマンサです。村の畑をまとめてるの。新しい手が入ってくれて助かるわ。」
「そして私はフェリシア。果樹園の担当よ。隣に住んでるから、いつでも声かけてね。」
その手はごつごつとした感触ながら、どこかぬくもりを感じた。太陽に焼けた肌、土にまみれた指先――だが、そのすべてが命の象徴のように見えた。
リンタロウは思った。
(この地で出会ったのは――命の根源そのものだ)
都会では見えなかった本当の豊かさが、いま目の前に立っている。
(ようこそ、大地とともに生きる世界へ)
彼は無意識に、深く頭を下げていた。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードは明日アップロードします。