表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

沈む太陽の向こうの地

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

夕暮れの東京。

街はまだ動き続けていたが、リンタロウの心だけは静かだった。



応接室に通されたリンタロウの前に、再び現れたのはあの男——


アレクサンドロス・ドラコス。


今日も紺色のスーツにネイビーのネクタイ。だが、その表情は前回よりも柔らかかった。


「ようこそ、リンタロウさん。おめでとうございます。正式に選出されました。」


「……ありがとうございます。」


軽く会釈しながらも、緊張は抜けなかった。


ドラコスは分厚いファイルを机に置き、指でページをめくりながら言った。


「あなたが配属される地域は、トリカラ(Tríkala)。ギリシャ本土の中央部に位置し、かつては交易の中心地として栄えた小都市です。現在は人口の減少が著しく、特に農業の担い手が不足しています。」


リンタロウは、ゆっくりとその地名を心に刻んだ。


トリカラ。

聞いたこともなかったが、それがかえってよかった。真っ白な場所から始められる。


「あなたの住居は、地元自治体が用意した古民家を改装したものになります。インフラは最低限揃っており、Wi-Fiもありますが、都市とは違い、冬は寒く、夜は非常に静かです。」


ドラコスの目がわずかに鋭くなった。


「都市の喧騒と比較すれば、孤独に感じるかもしれません。それでも、大丈夫ですか?」


リンタロウは、はっきりと頷いた。


「むしろ、それを求めていました。」


数秒の沈黙ののち、ドラコスは微笑んだ。


「よろしい。出発は——来週の火曜日、午前10時の便です。アテネ経由でトリカラまで送迎があります。」


ドラコスは書類を差し出した。


「これは旅程と現地連絡先、これは住居に関する契約書、そしてこれは緊急時の手続きについてです。すべて日本語に翻訳されています。今夜中に目を通しておいてください。」


リンタロウは書類を受け取り、再び深く礼をした。


「本当に……ありがとうございます。」


「ひとつ、忠告しておきます。」


ドラコスの声が、少しだけ低くなった。


「日本と違い、ギリシャの地方は“効率”よりも“関係性”が重視されます。時間の感覚も、価値観も違います。あなたの誠実さが、鍵になるでしょう。」


「……心に留めておきます。」


帰り際、ふと廊下のガラス窓越しに見えた空が、やけに青く、どこか懐かしかった。


トリカラ。

知らぬ土地。知らぬ言葉。知らぬ人々。


だが、ようやくたどり着いた自由の入り口。

皆さんがこのエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードをすぐにアップロードします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ