無常の使徒
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
翌朝、空は淡い灰色に染まっていた。
トリカラの丘を包む霧は、まるで世界そのものが眠っているかのように静かだった。
リンタロウは畑に出て、いつものように鍬を手にした。
だが――空気が違っていた。
鳥の声も、風の音も、どこか遠くに吸い込まれていくような、奇妙な静寂。
「……変だな」
フェリシアが畑の隅で足を止め、辺りを見回した。
アンジェリカが、胸の前で腕を組み、顔をこわばらせる。
モニカとサマンサも、何かを感じ取ったように動きを止めた。
ドリスが呟いた。
「……空気が、重い」
その瞬間――霧の中に黒い影が現れた。
丘を下る道の向こう。
六つの輪郭が、徐々に人の形を成していく。
黒鉄の鎧。
頭部には兜。
しかしその眼窩の奥で光るのは、生命ではなく、冷たい電子の光。
古の騎士と未来の機械が融合したような存在。
彼らの歩みは音もなく、地面に影だけを落としていた。
フェリシアが震える声で言った。
「……彼奴等 は。。。?」
モニカが一歩、後ずさる。
「まさか……!」
嫌な予感がしていたリンタロウは鍬を構えた。
「下がって!」
六体の影は、無言のまま女たちを見つめていた。
その視線を受けた瞬間、五人の身体が硬直した。
頭の中に、冷たい声が響く。
――汝らの若さは、もう戻らぬ。
――汝らの美は、風に溶け、記憶にすら残らぬ。
五人の心の奥に、封じ込めていた「恐れ」が滲み出す。
アンジェリカは両手で顔を覆った。
「……やめて……そんなこと、言わないで……!」
モニカは膝をつき、土を握りしめた。
「私はまだ……終わってない……!」
ドリスは唇を噛み、涙をこらえる。
「あなたたちは誰……? 何なの……?」
答えはない。
ただ、機械のような冷気だけが空間を満たした。
最後に、その影たちは「我々は無常の使徒だ」と言いました。
リンタロウは叫んだ。
「やめろッ!」
彼は鍬を振り上げ、最も近い“使徒”に叩きつけた。
だが、刃は空を裂くだけだった。
手ごたえはない。
そこに「実体」は存在していなかった。
風が通り抜ける。
リンタロウの頬を、氷のような冷気が撫でた。
“使徒”たちは、彼の行動に微動だにしなかった。
――肉体では届かぬ。
――われらは形ではなく、「終焉」の名を持つもの。我々は無常、万物の自然な変化と死の化身です。
声なき声が、彼の胸の奥に響いた。
リンタロウは息を荒げ、鍬を握る手を震わせた。
(こいつらは……現実じゃない……概念だ……!)
背後では、五人の女たちが次々と地に崩れ落ちていた。
その表情には、恐怖ではなく――深い、絶望的な“悟り”が浮かんでいた。
フェリシアが微かに呟いた。
「……私たち、もう……誰にも思い出されないのかもしれない……」
リンタロウは、彼女の手を強く握った。
「そんなこと、俺がさせない。」
その言葉に、“使徒”たちの視線が一斉に彼に向いた。
まるで「抵抗」を嘲笑うかのように、六つの電子の光が明滅した。
そして、霧の中にゆっくりと姿を消していった。
残されたのは、凍りつくような沈黙。
女たちの息遣いだけが、かすかに生の証を示していた。
リンタロウは空を見上げ、呟いた。
「……あいつらは、“死”そのものだ。けど、俺は……生きてる。まだ、抗える。」
霧が晴れる頃、彼の瞳には静かな決意が宿っていた。
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