4.5章 虚ろな世界/メイなる世界
「兄は、どうしたんだよ。ストーム。」
私は、抱えられながら兄がいないことに気づきこう言った。
兄は、虚数に触れて倒れてしまった。そのため、回収されていたはずだと信じていた。
しかし、彼らは、兄の存在を思い出したかのように顔を見合わせて、
「まさか、焦っていて忘れてた。」
とストームは言った。
これが大惨事を引き起こしていないか心配だと思った黄昏が
「ストーム、回収してこれないのか。」
と問う。ストームは「そうしたいがそう出来ない。」と一言言った。
黄昏はその言葉を聞いてこう訂正した。
「魔術や虚数に関わっていない君を安全圏まで送るからだな。」
私は暫く考え込み、
「そう、なのか。」
と言った。
安全圏、それはストームの家であった。ストームと黄昏は
「それはそうだろう。」
と2人で納得していた。そして、私を家に入れるなり、ストームは
「アナザーを回収してくる。」
と言い、走って行ってしまった。
⋯⋯
クローズ神を取り込んだ白い怪物は、虚数を得た筈なのに、目の前にいる銀髪のヒトに攻撃されている。
アナザーは、虚数に塗れたその土地を別の世界に塗りつぶす。
虚数ではない。なら、何なのか。
そして、現実の世のモノでもない。
虚数にも弱点がある。それは、見えない攻撃。
つまり、彼は、まさか。
怪物は何かを口に出そうとした。しかし、それをねじ伏せるような空気。圧力。そして、太陽も月も見えぬ漆黒の空。
彼は、魔術師でも虚数でも怪物でもない。
彼は、口を開いてこう言う。
「私は、冥王。生者よ、立ち去れ、この世から。」
⋯⋯
ストームがたどり着いたのは、その直後だっただろう。
違和感しかない夜空を見上げてこう言う。
「アナザーは一体なんなんだ。」
⋯⋯
怪物にはこういう反則を使っても勝てない。
マジシャンのタネを明かされた観客のように、怪物はいとも容易く隙をつくことが出来てしまった。
しかし、彼は倒れない。
彼は半不死性が備わっていたから。
その間に、ヒトが割って入る。
青髪碧目の男性、ストーム。
しかし、彼は皆が気づきづらいが眼鏡を掛けていたはずだ。
怪物は、「下賤な魔術師、無属性野郎。」と言う。
アナザーは「私の邪魔をするな。」と言う。
それを聞いてストームは溜息をつき前髪をかき上げて
「ホオ、それがこの俺に対しての言葉なのか、新人類。」
と言った。
恐らくこの言葉はこの世に生きている限り、誰も知らない。
怪物は
「たわけ、何を言っているんだ!」
と言った。しかし、アナザーは
「なら、何故その言葉を知っているんだ、ストーム。」
と問う。
それに対して、ストームはこう答えた。
「世の中には、知らなくていいコトがあって当たり前だろう。
なんせ、俺は虚数に触れた世界改竄者。名をタイマーというからな。」
私と黄昏の2人っきりとなったストーム、エンドの家。
違和感でしかない空を窓から覗く。
これは、兄がやったことなのか。思い出したくないキオクとともに兄の顔を思い浮かべる。
何が引き金になってしまったのだろうか。
平和に何も起こらない普通の日常に亀裂が入ったように感じた。
ずっと昔から願っていた普通の日常。
エンドも、兄も、恐らくストームも、みんな能力者。
私は、……
ふと何かを思ったように黄昏は私にこう問う。
「君の隠し事はなんだい。
過去も未来も現在も興味ないのかい。
そして、君は、虚数について知っているのかい。」