第四章 閉ざした世界
ストームは言ったことを撤回するかのようにこう言った。
「この事はもう忘れていい。この世界での彼は助からない存在だから。」
それを聞いた兄は、
「どういうことなのか1から説明してくれ。」
とストームの胸ぐらを掴むながら言った。ストームは「1からは難しいな。」と言って、
「これは、必然の結果。俺が先延ばししても変わらなかった未来。」
と言う。普段は無表情であるストームからは考えられないような暗い顔であった。
その時、外が光っていた。落雷でもしたのだろうか。大きな音が遠くから聞こえる。それと同時に雨が降ってきた音がした。今日は降水確率十パーセントだったはずなのに。
外も異常な空気なのか。そう思っていたとき、突然チャイムの音がした。
ザーザー雨が降る中、訪ねてきたのは橙色夕焼けのようなの髪に赤い瞳をした青年だった。ストームは
「何が起きた、第二位。」
と言う。
第二位、エンドを攫ったあの第二位。私は、何故か何も感情がわかなかった。
ストームは続けて、
「クローズはどうした。」
と言った。第二位はこう答えた。
「第三位の計画はある意味成功してしまった。貴方を貶めるためのクローズ神を解剖する計画。」
この場にいる全員が沈黙した。
「クローズ神解剖。何をすればそんな愚行にでるのか。」
一言ストームはそう呟く。
私たちには理由がわからなかった。
それはそうだ。
この会話は私たちが関わってはいけない、そして、知ってはいけないモノだった。
第二位は私たちを見て
「関係ないヒトでもないのだろう。何せ、クローズいや、エンドとの関係者なのだから。」
と言う。ストームは「関わらせたくないのだが。」と言い、私たちにこう言った。
「協力してもおそらくエンドという存在はなかったモノになる可能性が高い。それでも、協力してくれるか。」
私たちの返事は決まっている。
「「もちろんだ。」」
「そうか、なら、第二位。クローズ神の所へ。」
とストームは言った。第二位は
「わかった。どこにいるのか分かっている。しかし、勝てるのか、これで。」
と言う。ストームは「ヒトの力を信じるまでだ。」と言った。
外に出ると、雨は止んでいるように感じる。しかし、雨は降っている。そういう事だろう。
「すべては虚数のせいだ。」
と一言第二位は言う。私は
「虚数は一体何。」
と質問する。第二位は虚数について論文を出しているようで結構詳しかった。
この世界は“自然ルール”が存在する。例えば生命。例えば地球。これらは全て自然ルールが絶対だ。魔術も科学もそれは変わらない。
しかし、これを塗り替える特別な手段が存在する。
それが虚数。
人類には手が届くような届かないようなところにあり、全てのヒトが持つ可能性がある。“法則有効の原則”が自然ルールであるなら法則理論壊しが虚数。
名前は数学で言う虚数の由来にもなっている。
そして、数学の虚数を解くような事、これが虚数への道のり。虚数を解けたモノが虚数を持つことができる。
そして、クローズ神が虚数を持っている一つの実例である。
虚数とか全くわからない、でも何処か懐かしい。
この雨も彼が降らしているものであるなら、私には止められない。
虚数はルールを壊す。能力者は一定のルールが存在するから止めることは出来ない。
それがどうしたんだ。私は、彼を止めたい。助けたい。
雨らしからぬ雨が降る中、雨の発生地点クローズ神のいる所まで来てしまった。もう後戻りはできない。私は深呼吸をする。
空気は感じたことの無いモノだった。寧ろこれが酸素を含んでいるのかすらも怪しいくらいの空気だった。
そして、目の前に立っているのがクローズ神。エンドと同じ顔であった。本当にエンドは、クローズ神であったのだった。
ストームは私に
「サンダーならきっと止めれる。」
と励ましなのか、優しい言葉をかけてくれた。
その時、クローズ神はこう言った。
「君達が私を止めるものかな。しかし、無謀である事はわかっているのか、ヒトよ。」
言葉には重みがあった。そう、物理的にも。兄は、倒れてしまった。ストームは
「アナザー、まさか、これは触れてはいけない領域を感じて限界だったとは。」
と言った。第二位は私の方を見て
「魔術師でも魔法師でもない、虚数に触れていないであろうヒトが倒れない事が一番の驚きだがな。」
と言う。
これが虚数。これがルールを塗り替える力。
クローズ神は私たちを見て一言「閉ざされろ」と言う。
その見えない何かは私を目掛けて来る。ストームは
「避けろ、切断されるぞ。」
と言う。私は咄嗟に避けることが出来た。しかし、この攻撃は複数来る。
第二位は
「仕方ない。これもまた運命。使うことのなかった能力を使うとするか。」
と言い、こう言う。
「神在業!」
周辺の空気はさっきまで異常だったのに元に戻っている。
「どういう事だ、第二位。」
ストームは言う。第二位は
「説明は後だ、ストーム、サンダーを守れ。」
と言った。
私を守る……。何で、私なのだろう。そう思った時、
「嫌だ、私はヒトを■したくない。」
という声が聞こえた。ストームにも第二位にも聞こえていない声であった。
その声は、エンドのモノであった。私は
「エンド!」
と思わず叫んだ。
ストームと第二位はどういう事だと思っていた。
私は、自分でも何を言っているのかわからない。しかし、確かに助けを呼ぶエンドの声が聞こえたのだから。
私の声が聞こえたのかクローズ神の動きは少し止まった。そして、
「サンダー。ごめん。」
と一言言うと、彼は、膝から崩れ落ちるように倒れた。
ストームは咄嗟に彼の元に駆け寄り頭を少し撫でた。
第二位は、彼を見るなりホッとしていた。
「少し話がしたい。」
と第二位は言った。ストームは「許可する。」と言った。
「僕は名前をみんなに名乗ったことないからこういう事が起こってしまった。それについて謝罪する、ストーム。」
と第二位は言う。ストームは「どういう事だ。」と問う。
第二位はこう名乗った。
「僕の名前は神在黄昏。神無木及びクローズ神を管理する反魔術の虚数壊しだ。」
ストームは絶句した。何せ、目の前の大魔法師第二位が反魔術、そして、虚数壊しだったからだ。
私は理由がわからずに話を聞いていた。ストームが驚いていることは何となくわかる。しかし、何故、第二位が反魔術のヒトなのかがわからない。
反応をしっかり見ていたのか、第二位、いや黄昏はこう言う。
「魔術師が虚数を目指していると言うことを知って、僕が魔術師になったんだよ。
虚数を広めないためにも。」
ストームは
「なら、何故俺たちを助けた。」
と問う。
「ヒトに影響がなければ助けるに決まっている。そして、今や僕達の家系はクローズ神を敵として見ている訳ではない。」
「それなら良いか。魔術師たちはお前を捕まえにやってくるぞ。」
「分かりきっている。だからこその僕だからね。」
魔術師たちの話が進む。私は何一つ言っていることがわからない。
その時ふと、時空が裂けた。そして、白髪緑目の男性が目の前に現れ、
「私は完全になった。」
と言い、エンドを吸収した。
このときは、逃げることしか出来なかった。
形勢を立て直すために、と言うストームと黄昏の言うことも聞かずにただ私は
「エンド!」
と叫んでいた。そしてストームが
「サンダー!今は、クローズの事は良い、自分の命を大切にしろ。
必ずクローズは帰ってこれる。」
と言い、私の体を持ち上げて無理やり連れられてしまった。
⋯⋯
しかし、1人倒れていて残されていたザ・アナザー・ワールド。太陽の見えぬ空であるのに対して銀髪を輝かせていた。
彼は、赤い瞳を開けてこう言う。
「私の完全な領域から立ち去れ、生者。」
その時白髪緑目の男性いや、化け物に対し、見えない攻撃をした。