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最終話『アリガトウ、コチラ宇宙デス』

 ――チキュウを脱出してから数日後。


 静かな部屋に目覚まし時計のアラームが鳴り、アースは目を覚ました。


「んぁ……もう朝かァ……」


 ぼやぼやとそう零したアースは、軽く目をこすりながらベッドを出てカーテンを開く。


 ここは、居住用宇宙ステーション ミネラル。

 窓の外は星々が輝く、暗い宇宙が広がっている。


 彼方の星を眺めていたアースは、変わり映えのない景色に安心しつつ、どこかあの星で見た青空を思い出していた。

 

 絵具をひっくり返したような夏の空は、果てしなく澄んでいて――。

 大きな白い雲は力強い存在感があった。


 暑い風と潮の匂い、土の感触。何もかもが新鮮だった。そして、フレアとミルキーがいつも傍にいた。

 そんなことを考えながら、身支度をしていく。


 今日も、あの二人と会う約束をしているのだ。

 手早く家を出ると、よく待ち合わせに使っているファミリーレストランへ向かった。



 ファミリーレストラン『シャンデリ屋』は、天井に大きなシャンデリアのホログラムが浮かび、それに合わせて照明が設置されている。

 

 壁には絵画風のペイントが描かれて、庶民に優しい価格の割にはいい雰囲気づくりが出来ている。


 アースは、シャンデリ屋に入り店内を見渡すと、見覚えのある二人の姿が目に入った。

 

 窓側の席で、明るいエメラルドグリーンの髪を半分刈り上げた長身の男と、クマのぬいぐるみを抱えた小さく可愛らしい少女のアンバランスな二人組に声をかけた。

 

「おはよ! 俺、昨日も興奮して寝られんかった~!」


 アースはいつものように屈託なく笑ってそう言うと、宇宙ブドウを一粒ずつ頬張っていたミルキーが振り返る。


「あら、おはよう。んもう、宇宙ブドウったら水分が多くて味が物足りないわぁん……」


 そう言って彼が指でつまんで渡してきたのは、宇宙ブドウという品種のブドウだ。

 これは、宇宙ステーションでも栽培できるように品種改良されたものであり、味はチキュウ産よりも薄い。


「あー……そうだよなぁ……」


 受け取ったブドウを食べて苦笑いを浮かべるアース。


「まったくじゃ! パフェのフルーツも味気ないのじゃ」

 

 そんな彼の前に、クマのケティルを押し付けたフレアが不満そうに頬を膨らませる。

 彼女の前には、空のパフェグラスが置かれていた。


「わかる~。やっぱりチキュウのものとは違うよな」

 

 アースはミルキーの隣に座ると、メニュー表を見て注文を済ませると話の続きをしていく。


「そういや俺、あの時見た青空が忘れられないんだよな」


 適当に注文を済ませながらそう言うと、フレアは丸くポフポフしたツインテールを揺らし唸る。


「わかるのじゃ。角ウサギにケティルを取られた時はどうしようかと思ったが、なんだかんだ楽しかったからのぅ……」


「ちょっとフレアちゃん、ケティルの事だけなのん? というか、また買ったの?」


 ウフフ、と優しく笑うミルキーが尋ねれば、フレアは少し恥ずかしそうにクマのケティルを抱きかかえた。


「う、うむ。これはなぁ……サテラ姉さんがくれたのじゃ……!」

 

「えっ! サテラってオンセニストの⁉」

「あらやだ、わざわざ買ってくれたの?」


 顔をそろえて驚いている二人に、フレアはケティルで顔を隠しながら恥ずかしそうに答える。


「うむ……実はな、先週サテラ姉さんの家に呼ばれたのじゃ。そこでな、姉さんもケティルのファンじゃったから、ひとつ譲ってくれたのじゃ……!」


「へー、サテラさんもケティルが好きだったんだな!」

「意外と乙女なトコロあったのネ」


 実際は、サテラにケティルのぬいぐるみを勢いでもらってしまった申し訳なさもあったが、サテラ曰く「フレアさんがケティルを持っていないのは物足りないのです!」とのことだ。


 クールな彼女は、可愛いものが大好きで、部屋はケティルグッズでほぼ埋まっていたのだった。


「でも、そうねぇ……アタシ、初めて本物の温泉に入ったけれど……お肌がツルツルになったのが忘れられないわぁん」


「そこは死にかけたところじゃろう」


 うっとりと思い出を語るミルキーに、フレアは小さく皮肉を返して笑ったが、お前も人の事は言えなかった。


 その間に、アースの注文したハンバーグステーキが到着する。

 

「やっぱりチキュウは楽しかったなー」


 アースは、フォークとナイフを持つと肉汁溢れるハンバーグを切り分けていく。


「お肉は狩れなかったけど、なんだかんだ生きてたわねぇ」


 ミルキーはテーブルに両肘をつくと、目を閉じて思いを()せる。


「そうじゃな、それでもわしらだけだったら、無理だったかもしれんのう」


 フレアがそう言うと、三人の脳裏にオンセニストの顔が浮かんだ。

 最初の出会い方は失敗だったけれど、あの三人のおかげで脱出できたのだ。


 ケプラーは、どんな時でも自信を持ち誠実だった。

 サテラは、いつでも冷静で色々な事を教えてくれた。彼女のスマホが全員を救った。

 バンは、物静かな人だったが、ここぞと言う時に誰よりも前に出てくれた。


 性格や目的も、何もかも違う六人だったが、だからこそ助かったのかもしれない。

 

「……そういえば、オンセニスト最近どうしてんのかなぁ」


 大きめの一口を頬張りながら、アースはスマホのBOU(ボー) TUBE(チューブ)のアプリをタップする。


 すると、つい先ほどライブ配信が始まった所だった。


『……はい、じゃあこれからね! 休止期間で手に入れた物を見せたいと思いまーす!』


 背景に、でかでかとオンセニストと書かれた画像を合成したケプラーは、画面の中で自信ありげにニヤリと笑う。

 その手には、ボトルに入った白っぽい液体が。


「おお……最新動画だ」

「何かしら、あれ……」

「相変わらずじゃのう……」


 三人は、アースのスマホを覗き込む。オンセニストは温泉を紹介するグループだと知っているので、何が出てくるのかとちょっとだけ期待していた。


 だが、ケプラーが取り出したものを見た瞬間、一気に顔をこわばらせるのだった。


『じゃあまず、これが~チキュウの温泉水! ほどよく濁ったこれは大昔【美人の湯】と呼ばれた温泉水で、メタケイ酸が多く含まれているんだ。肌の新陳代謝を促進してセラミドを……』


 いつのまに採取していたのだろうか……。

 次に、泉質の紹介を終えたケプラーは、チキュウの温泉水をコレクション棚に並べると画面が切り替わった。


 一見、何の変哲もないオンセニスト達の画像なのだが、ちゃっかりアース達が見切れていたのだ。

 特定が出来ないように、ぼかしが入っているが間違いなく自分達が映っていた。


「……」

「…………」

「………………」


 アースは、何も言わずにアプリを閉じた。何とも言えない空気が漂う。

 店内のざわつきで、我に返ったアースは食べ終わり顔を上げる。


「今度の長期の休み……冬休みさ……」


 そう言いかけ――。

 

「どこに行く?」

「どこに行こうかしら?」

「どこに行こうかのう?」


 見事に三人の声が重なり、顔を見合わせ思わず吹き出してしまった。


 アストレイ星にしようか、宇宙クマケティルワールドにしようか。

 

 いずれにせよ、次の冒険はタスケテを言う必要がなければいいのだが……。

 おばかで、底抜けに明るい三人の冒険は、まだしばらく続きそうだ。



 これは、好奇心に負けたとんでもねぇ奴らが助かるまでの物語。

 

 

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