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第6話『コチラ、またまたデブリです』

 東から昇った太陽が、さんさんと輝くある日の朝。

 

 あの温泉での一件から、二つのグループは少しだけお互いを認めて過ごしていた。

 アースたちの拠点から近いところに、ケプラーたちオンセニストも拠点を作っている。


 ある程度のサバイバル知識はあったので住処は何とかなったものの、困ることと言えば食べ物だ。

 幸い、アースは身軽で果物や野菜が採れ、ケプラー達と分け合っていた。

 

 最初はどうなるかと思ったこの生活も、助け合っていけば悪くはない。

 アースは、目の前でこんがり焼けていく魚を見つめ、そう思ったのだった。

 

「おお! これは大きい魚じゃな!」


 そんなことを考えていると、両手にイモを抱えたフレアがやってきた。


「そうなんよ、さっきケプラーたちが持ってきてくれてな! なんでも、あっちの宇宙船って海に落ちたみたいで船の中にいたらしいんよ!」


「なんというラッキーじゃ。こっちの男爵(だんしゃく)イモはサテラ姉さんと見つけて、しっかり食えるものじゃ!」


 そう言って彼女が笑えば髪のぽふぽふが揺れる。

 

「イモ!? サテラってそんなこともわかるのか!」


 アースは思わず立ち上がって、パチンと指を鳴らした。

 その後ろから大柄な男が顔を覗かせる。


 「あら、じゃあさっそくふかして食べちゃいましょうよ!」


 ミルキーは自分達の宇宙船から飲み水を運んでくれていた。

 幸い、水の精製機(せいせいき)が無事だったのだ。

 これで雨水でも川の水でもキレイな飲み水に変えられる。


 問題点としては、取り外しが出来ないので宇宙船まで行かなければならないところだ。


「お、それいいな! じゃあ俺はお返しにこれ持って行こうかな」

 

 そう言って、アースはさっき採れたばかりの果物に目を移す。

 朝どれピカピカのみずみずしい果物だ。


「サテラ姉さんにもお礼を言っておいて欲しいのじゃ」

 

 それを三つほど抱えていこうとすれば、男爵イモを置いたフレアが声をかける。


「うん、わかった!」

「サテラちゃんってば、フレアちゃんにはミョーに優しいのよねぇん」


 アースが頷き、オンセニストの方へ向かおうとすると、ミルキーが微笑(ほほえ)ましげに見ていた。


 拠点から数十メートル先の広場に彼らはいた。

 アース達の宇宙船と、彼らの宇宙船との間にあるここが、オンセニストの拠点だ。


 コチラも朝ごはんの時間のようで、美味しそうな匂いが漂っていた。

 ケプラーはバンが持って来た魚を華麗にさばき、切り身にしていく。


 サテラは今採ってきたばかりの男爵イモを水で洗っていた。

 ケプラーが料理を取り仕切り、バンが串に刺された切り身とイモを焼いている。

 

「おーい! これ、さっき採れたレモンなんやけどー」

 

 アースはそんな彼らに果物を差し出しながら声をかける。


「魚にレモンか! それはいい!」

 

 ケプラーはコチラへやって来るアースに気が付くと、手を止めて顔を向けた。

 手のひらサイズの丸いレモンを手に取り、ケプラーは咳払いの後で口を開く。


「このレモンをかける事によって、魚の生臭さが中和(ちゅうわ)される! これはトリメチルアミンが……」


 彼が得意のうんちくを語ろうとした瞬間、辺りにけたたましいブザーが鳴り響く。

 

「――! なにっ!?」

 

「え? なになに? 何かあった?」

 

 不安を(あお)るような耳障りな音に、ケプラーは身構え辺りを見渡す。

 アースはことの異常さがわかっていないのか、逆に冷静だ。


「なっ……! ここにはもう誰も住んでいないはずです」


 冷静にそう話すサテラだが、文明の滅んだ惑星でこれほどまでの緊急アラートが作動しているのが信じられないのだ。

 

「これが鳴る理由はいくつか考えられますが、誰か人がいるのかも知れません!」


 サテラはそう言うと眼鏡のブリッジを中指で押した。


「人が住んどる!? もしかしたら困ってるのかもしれん!」

 

 アースはパッと顔を明るくする。

 宇宙技師として、人の役に立ちたいという気持ちが強い。

 そんな彼をケプラーは(たしな)める。


「バカ、もし本当に人だとしたら、向こうは犯罪者かもしれない。こんなところに隠れ住むのはそれくらい危ない奴だ!」


「でも、もし困っとる人がおったら?」


 アースも引かない。そんな二人の間にサテラが割って入る。


「安全確保のために、確かめる必要はあると思います」


 彼女がそう言うと、アラート音を聞きつけたミルキーとフレアが駆け寄ってきた。

 

「アース!」

「今のはなんじゃ!?」


 二人も事の異常さに気付いたのだろう、明らかに動揺している。

 その時、一人の声が上がった。


「……ン、兄ちゃん! レーダーにデブリ……!」


「兄ちゃん?」

「バン、どうした?」


 アースの頭に? の文字が浮かぶ。兄ちゃんと呼ばれて宇宙船に向かったのはケプラーだ。

 余談だが、彼らは従弟(いとこ)同士だった。


 ケプラーは自分達の宇宙船のレーダーを見つめると、アース達を手招きして呼んだ。

 

 赤い点がゆっくりと近付いて来るのが見える。

 

 なけなしの非常電源で動いたレーダーが示すのは、チキュウの引力に呼ばれたデブリの落下を警告するものだった。

 予測ではあと三日でチキュウの、それもアースたちのいるニホン落下するという。


「デ、デ、デブリ!? 地上にデブリが来るん!?」


 アースは驚きのあまり仲間たちの顔を見た。みんな(そろ)って青い顔で固まっている。


「……レーダーの故障、じゃないわよねぇ……」


 ミルキーは顎に手をやり唸る。信じられない光景だが、信じるしかないのだ。


「どうする、三日後なんてすぐじゃぞ」


 背負っていたケティルリュックをぎゅっと抱きしめるフレア。彼女もまた不安ながら現実を受け入れている。


「救難信号を出して、救助船が来るまでの時間を考えればもう動かないといけないが……やっぱりダメか」


 険しい顔のケプラーは、そう言って動かない宇宙船のモニターを触るが反応することはない。

 救難信号は、落ちた時にお互いの船で試してはいるが未だに成果はない。

 

「かなりの数ですわ。これが本当なら全員まず助かりませんわね」


 サテラも焦りを抑えながらそう言う。

 彼女の言う通り、これだけのデブリの数ながら生き残れないだろう。


 空気が張り詰めたまま、しんと静まり返り、誰も顔を伏せたその時――。


 アースだけは前を向いていた。


「……行こう! もしかしたらさっきのブザーの場所に行けば、救難信号があるかもしれん!」


 この状況でも希望を捨てないアースは俯かない。はっきりとした口調でそう言った。

 

「あぁあ! もうっ!」

 

 ケプラーは髪をグシャリとかき、何かが吹っ切れたように顔を上げた。


「どうせ、このままでも死ぬんだ! なら、イチかバチか行くしかない!」


 そう言ってサテラ、バンを見ると「なぁ、そうだろう!?」と問いかける。


「ケプラー……えぇ、そうですわ。(わたくし)もそう思います!」

「ン!」


 ケプラーの姿に励まされ、頷くサテラとバン。


「そんなわけで、行こう!」

 

 アースはそんな三人を見て、フレアとミルキーに笑いかける。


「当然よ、アタシたちも行くわ」

「もちろんじゃ! 奴らだけに任せておけんわ!」

 

 ミルキーはちょっと呆れたように笑い、フレアはケティルリュックを抱きしめたまま頷いた。


 オンセニストの宇宙船を出て、六人は最後の希望をかけて救難信号を探し出す冒険に出た。


 慎重に森の中を進み、時にサルの鳴き声に驚き、奥へ進んでいく。

 人がいなくなったチキュウでは、植物が侵食(しんしょく)しており、どこかしこも緑に(おお)われていた。


 日が暮れようとした頃、またあのブザー音が鳴り響く。

 まる一日かかって、ようやく辿り着いたのは、おそらく廃校のような建物だった。

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