第4話『コチラ、不審者です』
「うおー! 生ケプラーげな! 本物だーっ!」
持っていたオレンジを置いたアースは、きらっきらに目を輝かせてケプラーへと駆け寄る。
いつもBOU TUBEで見ていたあのケプラーが、今ここにいるのだ。
「あらやだ、この人がケプラーさん?」
「そう! この人が俺の憧れの配信者、オンセニストのケプラーばい!」
「……まさか、さっき突っ込んできた宇宙船じゃなかろうのぅ……」
アースとミルキーが口々にそう言い、フレアが疑わし気にケプラーを見れば、林から顔を出していたケプラーは起き上がり、三人を睨みつけ怒鳴った。
「突っ込んできたとはなんだ! だいたい、君たちがぶつかって来たから僕たちはこんな目にあってるんだ!」
「あっ、あっ……」
唐突に怒鳴りつけられたアースは、驚きのあまりパニックを起こして仲間の所へ戻った。
そして、その辺にあったブドウを掴んでケプラーへと差し出し声を張り上げた。
「ケ、ケプラー! これ……! ファンです!」
「どういうタイミングじゃ! それはブドウじゃろ!」
即座にフレアがツッコミをいれる。確かに、今じゃないがアースは嬉しさと驚きでパニックになっている。
「やけど……! 俺、ケプラーに差し入れしたいばい!」
「だから、それはブドウじゃろ! 他のにせい!」
必死にブドウを差し出すアース。フレアはどこからか取り出したケティル印のハリセンで叩いた。
「あらん、そういう問題じゃないわよぉ……もし、ホントにそうならまずは謝罪でしょ!」
そんな漫才のようなやりとりをする仲間に声をかけたミルキーは、わなわなと震えているケプラーを指さした。
「わぁ、そうか! ごめんなさい!」
「だから……」
アースが持っていたブドウと一緒に頭を下げれば、ケプラーは言葉を返そうと口を開く。
そこでようやく、サテラとバンが追い付いてきた。
「ケプラー、大丈夫ですか?」
「……ケプラー」
「え! オンセニスト全員集合⁉」
まさかのオンセニストが集合したことに、興奮したアースは過呼吸を起こしかけてしまう。
サテラは冷静に辺りを見渡し、眼鏡のブリッジを中指で押して口を開く。
「失礼、私たちはBOU TUBE配信者オンセニストの……」
「サテラだーっ!」
テンションマックスのアースが口を挟むと、サテラの眉がきつく寄った。
「アタシはミルキーよん」
ミルキーはいち早くそれに気付くと、アースの口を塞いで愛想笑いを返す。
「俺はアースだ!」
アースはミルキーの手からモガモガと逃れると、弾けんばかりの笑顔で親指を立て自分をさした。
「う、うん。わしはフレアじゃ、一応……」
このテンションについていけないフレアは、居心地が悪そうに自己紹介をした。
「ところで、アナタたち、美男美女ねぇん?」
この何とも言えない雰囲気を和らげようと、ミルキーは両手を組み厚ぼったい唇で投げキッスをした。
「うわっ、なんなんだいきなり!」
「なんなんですの⁉」
驚いて後ずさるケプラーとサテラ。
「ミルキーはミルキーっていう生き物だ!」
「そうじゃ! ミルキーなのじゃ!」
アースとフレアはごく当たり前のように瞬きをして答えた。
二人にとって、ずっと一緒にいたミルキーが男性か女性かなんてどうだっていいのだ。
そして、そもそもケプラーはそこを気にしていない。
「あの方が男性でも女性でもかまいません。本題に入ります、情報共有を致しませんか?」
そう言ったサテラの後ろで、バンに押さえつけられていたケプラーも話に入る。
「い、今、残っている装備とか、食料とかを教えてくれないかい?」
ケプラーなりに怒りを抑えようと平静を装ってはいるが、顔が引きつっている。
アースは「んー」と声を上げ、仲間たちと顔を見合わせると、持っていたブドウを一粒食べた。
「乗って来た宇宙船は木に引っかかっとるし、食べ物はその辺に生えとった」
アレ、とアースが指さす先には、大きな木にぶら下がっている『アース・グラン』号があった。
アースたちのあまりの危機感のなさに、ケプラーの苛立ちは増す。
いきなり殴りかからないのは、配信者である彼なりのプライドなのだろう。
「……そうか、じゃあ我々は取材に行くので健闘を祈る!」
ケプラーは服に付いた土や葉っぱを手で払いながら立ち上がり、バンとサテラに合図をし背を向ける。
「もう行きますの?」
サテラは大股で歩き去るケプラーについていく。彼が苛立っている理由もわかるのだ。
「ああ。バン、カメラは使えるな?」
「……ン」
バンは何か言いたそうにしていたが、持っていた小型のカメラを取り出し頷いた。
「ケプラー、取材にいくのかー?」
後ろでケプラーを呼ぶ声がするが、とにかく怪しすぎるアース一行と距離を取りたかった。
本当は、自分達も悪い事はわかっているのだが、あの調子に合わせられる気分もなく引くに引けないというのもある。
準備不足で出発してしまった彼らは、何千年も整備されていなかった大地を走った為、疲れ切っていて注意力も散漫になっていた。
だから、足元で枝葉に隠れた天然の落とし穴に気付かなかったのだろう。
場面はアースたちに戻り……。
「……やっぱ、取材、見に行っちゃいかんかねぇ?」
彼は見えなくなったケプラーたちを名残惜しそうに見つめ、ブドウの最後の一粒を頬張った。
憧れの配信者『オンセニスト』が目の前にいるのだ。
ジッとしてなんかいられない。
「あら、いいんじゃないのん? コソッと行っちゃいましょう!」
ミルキーはウフフ、と優しく笑い果物のゴミを集めて袋に入れた。
「見つからなければいいんじゃよ!」
そう言ったフレアもまた、宇宙クマのケティルのリュックを背負ってイタズラっぽい笑みを浮かべた。