8話 目覚め
「「「えーー!!!!」」」
目覚めた陽を見た瞬間俺と冬馬、月は驚くあまり声をだしてしまった。俺たちが見たのはモカベージュの髪が長髪白髪になり白藍色の瞳が金色になった御伽話に出てくる巫女そっくりだったのだ。それだけならまだ良かったのかもしれない。なぜなら今目の前にいる陽は身体が前よりも一回り小さく、手首も細い、何より男にあるはずのないものが胸に着いている。
「大丈夫?」
陽の母が声をかける。
「うん……大丈夫……」
陽は状況を呑み込めていないらしく混乱している。
「どうして髪が……それに身体も……」
声は以前より少し高くなり、中性的な顔も今は女性らしくなっている。
「陽、まだゆっくりしてなさい、体調が万全になったら全て話すわ」
「うん……」
俺たちは陽の母を残して部屋を出た。
「おじさん俺たちは陽が起きたので帰ります、お邪魔しました。またお見舞い来ます」
「あぁ」
俺たちはおじさんに一礼し家を出た。
帰り道、誰も喋る気配がない。
「ねぇ! 私こっちだから、またね」
沈黙を月が破った。
「おう! またな」
月は帰って行った。
「俺も帰ります」
そう言うと翼は急いでいるのか瞬間移動で帰った。元から瞬間移動で帰れよ。
「星弥……そんなに思い詰めるな、陽…じゃなかった陽ちゃんすぐ良くなるよ」
「そうだな」
「それにしてもなんでそんなに陽ちゃんのこと大切なんだ?」
確かに、なぜだろう。今年仲良くなったばかりの友達だ。
「なんでだろうな、俺にもわからん」
「うーん……あれか前世仲良かったとか、実は運命とか」
冬馬がこちらをニヤニヤしながら見つめる。
「運命じゃねーよ、ただ陽は俺の諦めた夢を応援してくれたからかな」
「やっぱり運命じゃん」
「違ぇよ!」
先程の重たい空気はなくなりいつの間にか俺たちはいつもの雰囲気を取り戻していた。
夏休み明け、学校が始まりいつもの生活に戻った。陽は体調が悪いらしく1週間経った今も登校していない。夏休み明け登校すると思っていた通り質問攻めにあった。どうやら花火大会の事件がSNSで拡散されたらしく、陽の姿が国中に広がってしまった。仲のいい俺たちなら知っていると思いクラス中の人が俺たちに詰め寄ってきた。
『 ねぇねぇ! 柴野さんって巫女なの?』
『 柴野って神之橋なのか?』
など数多くの質問を受けた。俺たちは陽の安全を守るため本人が登校するまで話すつもりはなかった。しかしかなりの人数に質問され困っていたところ翼が
『 黙れ……陽さんが登校すればわかる話だ……睡眠妨害だ』
と、かなり冷たい目をして冷徹に言ってくれたおかげで周りの人は消えた。それにしてもあの翼は怖かった。本人は言ったあとすぐ寝たがかなりかっこよかったと冬馬と月が語っていた。
「おはよう」
「おはよう」
「おはようございまーす」
「あれ月は?」
「まだ来てませんよー」
陽が登校しなくなってから一週間半、明日から登校すると陽から連絡があり、今日を楽しみに待っていた。
「おはっよー!」
月が元気よく教室に入ってくる。その後ろから長髪の髪を揺らした陽が入ってきた。
「おはよう……」
開いた口が塞がらない。陽はスカートとタイツを履いていたのだ。本当に可愛い。
「陽……スカート……」
陽に近づき話しかける。
「朝、月さんに準備してもらって……月さんのお姉さんのスカート貸してもらったんだ……似合ってない?」
きょとんと首を傾げ質問する。
あざとい。
「めちゃくちゃ似合ってるよ、可愛いし……」
照れながら言うと後ろで冬馬がふっと笑った。
あいつ覚えとけよ。
「よかった……」
照れながらもじもじしている陽はまるで小動物のようで抱きしめたかった。
俺も顔を赤くしていると陽の後ろで月がじーっとこちらを睨んでいる。
「おーい、お熱いとこ悪いけどHR始めるから席つけよー」
いつもいい所で登場する奥先、今日も健在でした。
全員が席に着く。
「HRを始める前にお前らわかってはいると思うが質問攻めするなよ」
全員意味を理解したのか全力で頷く。
「陽! 一緒に帰ろ」
「うん!」
帰宅のため教室を出る。
「ナニアレ」
「仲良いですねー、星弥さんにとって陽さんは特別な存在なんですねー」
「それはわかるけど……見てるとイライラしてくる、俺たちへの当てつけか」
「星弥、柴野の前だとめっちゃイケメンだよね、私の前だと普通なのに」
「なぁ陽、その、体調大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ……聞きたいことがあるならなんでも聞いていいよ」
気まずそうにしていたのをわかったのかさりげなく言った。
「じゃあまず1つ目陽は神之橋家の血縁なのか?」
陽が俯きながら言った。
「そうみたい、お母さんが言ってたんだけど神之橋家は小さい頃から記憶力がいいらしくてもう暫くしたら5歳頃の記憶が戻って全部思い出すかもって」
「そっか……じゃあ2つ目これが最後」
「何?」
「記憶が戻ったら実家に戻る?」
「……」
陽がこちらをじっと見つめ微笑んで言った。
「戻らないよ、星弥くんとみんながいる今が1番楽しいから」
「よかった」
俺は大切な人が離れていくという恐怖があった。けど陽は残ってくれる俺は嬉しかった。もうあのような想いはしないのだと。
いつも通り寝たと思ったらまた雲の上にいた。
『 久しぶりだな、星弥よ』
『 お久しぶりです』
『 言った通り危険な目にあっただろ、全くお前たちは世話が焼ける』
『 その節は大変申し訳ありませんでした、それで今日は何用ですか?』
『 今日はお前に頼みというかお願いがあるのだ、危険で大変なことになったとき7丁目のカフェ喫茶ゴールアイに行け、そこに行けばお前たちを助けてくれるだろう』
『 喫茶ゴールアイ? 初めて聞いた』
『 知るはずがない隠し扉になっているからな』
『 待てよ、それならその扉の場所教えてくれないと無理じゃないか!』
『 それは大丈夫だ、いずれわかる』
『 は? おい! 消えるなよ!』
『 仕方ない時間だ、星弥よ慎重に行動するのだぞ、あと今度トランプでもしよー』
あの龍最後にトランプとか言ってたけど本当に大丈夫なのだろうか。
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神之橋別館。
ここは本家の者で罪を犯した者が入れられる館である。部屋は10畳あり罪人にしては広い部屋である。
ここには現在当主の息子遊冥が軟禁されている。
「遊冥様」
遊冥のお付きの者だろうか、着物を着て長い髪を三つ編みで結んだ者が話しかける。
筆を止めこちらを向く。
「どうした、絢斗」
振り向いた遊冥の話し方は年相応だが見た目はまるで大学生のように若々しかった。
「本家の者たちが密かに動き始めました、どう致しますか?」
「監視を続けてくれ、こちらが動いていることは悟られていないか?」
「はい、あちらは陽様に集中しておりこちらの動きは悟られておりません」
「わかった、絢斗も気をつけろ」
「ありがたきお言葉、何かありましたらお呼びください、失礼致します」
状況報告をした後絢斗は警戒にあたるため素早く退出した。
「紬……私は成功させてみせるよ」
机の上に立てられた写真立てを見つめ呟いた。
そうこの男が神之橋遊冥であり、陽の実の父なのである。
最後まで読んでくださり本当にありがとうこざいます。
完成次第投稿しますので暫くお待ちください。