53話 皇太子殿下
『ふふっ、お仲間が撃たれて大変だったみたいね』
『……………ソラ………』
『一応訂正しとくけど私ソラーレっていう名前なの。ソラーレ・フォセアラリアが本名よ』
『……』
『無反応は悲しいわ。あなたの横にいる騎士も本名はツバサ・ナイハイルド。隠宮翼は今世の名前よ』
『今世?』
『あら? まだ何も知らないのね。ここで言うのはつまらないから次の大陸で答え合わせをすればいいわ。前世という呪いについて、そうすればきっとあなたの前世に……真実の姿に近づくわ』
「……………起きるにゃの! にゃの!」
「うーん……………」
「にゃーーーのーー!」
まったく起きる気配のなかった星弥に痺れを切らしたセレサが腹へと思いっきりダイブした。
「ぐえっ」
「起きるにゃの!」
「起きた起きた」
「おはようにゃの! 主!」
「……おはよう……」
現在星弥たちはカーライル王国の港近くにある宿に宿泊していた。一人一部屋でのびのびと寝ていたところをセレサに叩き起され少しだけ機嫌が悪い。
「早く朝ごはんにゃの!」
「……はいはい、着替えるから待ってて」
セイクリッド帝国より北にあるカーライル王国の冬はとても寒い。今日は雪が降っていないのが救いだ。
「おはよう」
「おはようございまーす。今日も寒いですねー」
扉を開けると食堂に行こうとしていた翼とばったり会った。成り行きで一緒に行くことにした。
「そういえば翼って前世とか信じる?」
「前世……………なんでです?」
夢で見たは不自然か……ソラのこと聞かれるとめんどくさいし……
「なんか急に気になって」
「ふーん…………俺は前世信じてますよ。例えなかったとしてもあるって信じた方が面白くないですか?」
「なんだそれ」
久しぶりの年相応の会話をし、盛り上がっている中、星弥は今朝のことを呟いてしまった。
「前世の翼の名前はツバサ・ナイハイルドだったりしてな!」
「…………どこで………」
足を止めた翼に気づき星弥も足を止めた。翼が星弥を見る視線は悲しげで、そして懐かしむような目をしていた。そして星弥はその目になぜか見覚えがあった。
「俺ちょっと行きたい店があるので行ってきてもいいですかー?」
あれから食堂に集まり食事をしていると翼が何やら呟いた。
「……構いませんが……」
「じゃあお先に! 夕方には帰りますからー!」
早々に食事を終えた翼は宿泊先を出てしまい、行きたいところに行ってしまった。残された2人はとりあえず食事を進めた。
「坊ちゃん、我々もお出かけしますか?」
「お出かけですか? ………どこに……」
「そうですね……今なら朝市がやってるので食べ歩きでもしましょうか。昨日見てきましたが串焼きとかありましたよ」
「串焼き食べたいにゃの!」
「ぼくも食べたい!」
セレサと楓佳はあまりの食べたさにしっぽを横に振り、よだれを垂らしている。
「いいですね、行きましょ」
「では、10分後に行きましょうか。ただしセレサ様と楓佳坊ちゃんは絶対喋らないと約束してください」
「はいにゃの」
「はい」
10分後、2人と2匹は朝市に来ていた。美味しそな串焼きや新鮮なフルーツなど多くの品が並んでいた。
「おー、美味そう」
「買いますか?」
「……うーん……」
星弥が悩んでいると肩に乗っているセレサが買えと言わんばかりにしっぽを叩きつけてきた。
「……買おっかな……」
「すみません、串焼き4本ください」
「まいどあり!」
朝市は噴水を囲むよう円状に店が並んでいる。その噴水周りにはベンチが置かれておりそこで食べることにした。セレサと楓佳は器用に串から肉を離し、器用に食べ始めた。
「うまーっ!」
………花火大会思い出すな…………
「元気になってよかったです。お食事中、あまりツバサ様と喋っておられなかったので喧嘩でもなさったのかと思いましたよ」
「……いや…………喧嘩じゃないんですけど……泣かせた?………………いや……地雷を踏んだ?………みたいな………うーん………自分でもよくわからなくて……」
「喧嘩したわけではないと?」
「はい、喧嘩はしてません。ちょっと気まずくなってるだけです」
「そうですか……安心しましたよ……これから仲裁しなければならないのかと不安でしたから」
「……ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いえいえ、お気になさらず」
「……あの…………もしこの後時間あったら……図書館によりたいんですけど……」
「構いませんよ。ただ図書館は動物禁止ですので」
動物扱いされたセレサと楓佳は飛び跳ねながら怒っていた。
「セレサ様と楓佳坊ちゃんは図書館前で待っていてもらいましょう」
酷いにゃのと酷いって幻聴が聞こえてくるのは気のせいか………
図書館へ向かう途中、何やら人だかりがてきていた。不思議に思い近づいてみる。皆が上を見あげているので同じく見上げると1人の少女が5階ほどの高さの建物の屋上に立っていた。そう、自殺つもりだ。
「やめろ!」
「考え直すんだ!」
王国の住人たちが声をかけるも彼女は離れる気配がない。星弥は気づくと慌てて屋上へと向かう階段を駆け上がっていた。
「坊ちゃん! 仕方ないですね!」
絢斗とセレサ、楓佳も慌てて屋上へと向かった。
「待って! ダメだ!」
「来ないで! それ以上近づいたらここから飛び降ります!」
彼女は自暴自棄になっているのか星弥の言葉など耳に入っていないようだ。
「君が死んだらきっと両親が悲しむ!」
「どうせあと1週間しかもたない命なのよ! それなら苦しむより今死んだ方がましよ!」
「助かる可能性だって!」
「無理よ! もうこの国はこの病気で全員死ぬのよ!」
……病気?
「ママ…………今そっちに行くね」
飛び降りた彼女を掴もうとしたがギリギリの所で届かなかった。彼女は助からない。掴もうしたため落ちそうになった星弥を絢斗が首根っこを掴み止めた。
この場にいた全員が目を瞑る。その背後から馬の走る音が聞こえた。
「皆の者! 道を開けろ!」
民衆を飛び越えたその馬と乗馬している人物は落ちてきた彼女をお姫様抱っこで抱きとめた。そう彼女は死ななかった。
「………ロイド様……」
「馬鹿者! この病を恐れたからと言って自ら命を絶つなど!」
「………でも…………もう助からないのでしょう?」
「きっと治す方法を見つける! だから死ぬな!」
「……………はい……」
嘘のような展開に周りにいる国民が涙ぐんでいた。抱きとめらた女性は地に降りると父親に抱きしめられていた。乗馬していた人物は上から見ていた星弥たちを見上げた。
「そこの君たちどうか降りてきてくれないだろうか! 僕と話をしてくれ!」
「……………誰にゃの?」
「さぁ………めちゃくちゃ美少年なのはわかる」
「どうします? 降ります?」
「降りようよ! ぼくお腹減った!」
「早すぎだろ」
美少年に呼ばれ仕方なく降りると多くの王国民が彼を囲い、星弥を待っていた。その美少年は長い髪をポニーテールで纏め、周りとは比べ物にならないほど高そうな服を着ていた。
「彼女を止めようとしていたと皆から聞いた。改めて礼を」
美少年は深々とお辞儀した。
「いえいえ! 結局止められなかったので……」
「それでも止めようと動いたその意志が素晴らしいんだ」
「………はぁ……」
「君たちは旅人かい?」
「そうですけど……」
「そうかい。じゃあ自己紹介した方が良さそうだね。僕はカーライル王国皇太子、ロイド・マルセラ・カーライルだ」
「「皇太子?!」」
「あぁ、君たちに頼みがある。僕とともに天使病を突き止めてくれ!」
「……」
森の奥で翼が力強く剣を握っていた。その剣には血が付着しており、周りには多くの死体が転がっていた。耳の形からして悪魔だろう。
「………う………あ……」
「まだ生きていたか、さっさとくたばれ」
心臓に剣を突き刺すと悪魔の呼吸は消えた。
「……くそっ!」
何かにイラついているのか灰になりかけている悪魔の死体を蹴った。血が付着した革手袋の隙間から覗く腕。その腕には気味の悪い、謎の黒い茨のような痣が見えた。
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
約2ヶ月更新ストップして申し訳ありませんでした。別の小説を書いていたため神聖アビリティに手がまわりませんでした。今後も月1、2程度に更新していく予定です。
新キャラの活躍もお楽しみに。




