50話 悪党
翼の治療を終え、出てきた絢斗は疲れきった顔をしていた。星弥たちが詰め寄り一斉に質問し始めた。
「翼は?! 無事ですか?!」
「あの兄ちゃん無事か?!」
「後遺症とかない?!」
「大丈夫?!」
「……………………あの! お静かに!」
質もの多さにイラつき始めた絢斗がイラついた声を出すと一瞬にして静かになった。
「ツバサ様は無事です、致命傷は避けていました。1ヶ月安静にしていれば治ります」
その言葉に歓声がおき、中には泣いている人もいた。
「星弥坊ちゃん少しよろしいですか?」
「?……はい」
絢斗に声をかけられた星弥は、絢斗について行き翼を治療した輪鼓の家に入った。中では手術を終えた翼が眠っていた。
「……すごいものですよ……咄嗟に庇ったというのに利き手を避けてます。利き手が出てもおかしくない状況でしたのに………仲間として恐ろしいですよ」
「…………はぁぁぁ…………本当に……よかった……」
涙ぐむ星弥の肩を絢斗が優しく叩いた。
「あの時の坊ちゃんは必死でしたからね」
「からかわないでくださいよ!」
「死ぬな! 置いていくな!」
「わぁーーーー! やめてぇーーー!!」
「ふふっ、取り乱すほどツバサ様のことが大切なのですね」
絢斗の言葉に照れくさそうにした星弥が渋々答え始めた。
「呪いで……味方もいなくてもう終わりだ……死ぬんだと思ったとき最初に助けてくれたのが翼なんです……セレサも味方でしたけど……同い年で頼れる存在として嬉しかったんです………地の果てでも着いてくるって…………陽や遊冥さん、火卯我も味方って知ってますけど……隣にはいません……翼は隣にいる……………だから一人にしてほしくなかったんだと思います………………あーーー! 恥ずい!」
「恥ずかしくなどありませんよ。誰かを大切に想うことは簡単そうにみえて簡単ではありません。でも坊ちゃんはそれができています。尊敬します」
「尊敬………ドヤってもいいですか?」
「どうぞ」
「地図はゲットできたけど……これからどうするんですか?」
「とりあえず捕まっている人たちの救出といきたいところですが…………王族の人たちを詳しく知らないんですよね……………ということでよろしくお願いいたします」
絢斗が頭を下げお願いしたのは隣にいた杏菜だった。
「任せてください! じゃあ説明始めますね! とりあえず聖女様について説明します。聖女様は現王様の娘さんです。王族は50年に一度特殊な力を持った女の子が生まれるんです。その子は王族ではなく特別枠の聖女になります。その力を生涯国のために使う。それが聖女様です。今の王族は聖女様を合わせて6人。前王様。現王様。皇后様。そして皇太子と皇女様。そして聖女様です。王族は全員ライオンの獣人です」
「それでその聖女様以外は別のところに閉じ込められている。そう考えた方がよさそうですね」
「なんでです?」
「聖女様の力を悪党どもは必要としている。つまり聖女様しかいらない。しかし聖女様が反抗してくるとめんどくさい。それなら家族を人質にとればいいという感じかと」
「なるほど……つまり助けるなら二手に別れるということですか?」
「そういうことです」
「……………聖女様の特別な力ってなんですか?」
星弥の質問に周りにいた獣人全員が黙ってしまった。
あれ………俺……聞いちゃいけないこと聞いた?
「あの………あたしたちも詳しくは知らないんです………ただ噂に聞くのは相手に何かしらの効果を与えることぐらいです………」
「効果…………効果?! それって力を2倍にするとか?! そういう感じの?!」
星弥に顔を近づけられたことにより杏菜が顔を真っ赤にした。
「はい! そんな感じです!」
「聖力増幅薬は聖女様の力。そうじゃないですか絢斗さん」
「その読みでいいかと。我々は聖女様を助けるついでに悪党を倒すことができれば任務達成ですね」
「じゃあ今から行こ!」
星弥を引っ張りながら連れて行こうとする輪鼓を絢斗が止める。
「行きたいのわかりますが…………正直……戦力が……」
現在ここにいる中でまともに戦えるのは星弥と絢斗のみ。それ以外で戦える者はほとんどいない。つまり戦力2ということだ。
「無理ゲーだ」
「……最悪二人で突っ込むしか……二手に別れるならキツイですね……」
「だい………じょうぶ……」
黙ってしまった一同。突如として楓佳が声をあげた。
「ぼくたち護衛いらないから……王様たちを助けに行く……」
「楓佳?! 危険だよ!」
輪鼓が楓佳の手を掴むと楓佳の手は震えていた。
「………お兄ちゃんが助けてくれたんだ………今度はぼくがみんなの役に立ちたい」
「……楓佳」
星弥が立ち上がり楓佳の頭に手を置いた。
「任せた」
「!任せろ!」
「楓佳が行くなら俺らも行かないとな!」
「そうやな!」
周りにいたスラム街の獣人たちも立ち上がった。みな自国のためにひと肌脱ぐようだ。
「明日の夜6時決行だ」
「起きてるか?……………寝てるか」
その夜星弥は翼の様子を見るために輪鼓の家へ訪れていた。手術をした後傷の影響か翼は発熱を引き起こしていた。
「なぁ……明日………行ってくるから…………待ってて」
午後5時55分。
「………なんか人増えてない?」
スラム街に集まった数はスラム街の人口を見事に超していた。驚く星弥に輪鼓が近づいてきた。
「昨日の夜こっそり街中のポストに悪党倒すっていう紙入れたらこうなっちゃった。てへっ☆」
「そっか…………てへっじゃないのよ………ほぼ国中の人集まってんじゃん!」
「さぁ行きましょう」
「なんで絢斗さん普通に受け入れてるの!」
戸惑う星弥を置き去りにし絢斗たちは進み始めた。
「主もはやく行くにゃの」
「わかったから! 待ってください!」
慌てて追いかけると絢斗は歩きながら星弥に作戦を伝え始めた。広げたのは例の地図だ。
「坊ちゃんと私は聖女様が軟禁されてると思われるこの広間の奥にある小部屋を目指します。みなさんは王様たちの捜索です。救援はないと思っていてください」
「わかりました」
「あとの作戦は………臨機応変に対応……以上です」
「了解です。さっさと倒して次の大陸行きましょう」
宮殿に辿り着くとそこには2人の門番がいた。門番はあまりの多くの人の数に驚き声を出せなかった。
「突っ込め!」
集まった多くの獣人たちが気持ちばかりの斧をもち宮殿へと突撃していった。
「せいや! ここはあたしたちに任せて先に行ってください!」
「ありがとうございます! そっちも頼みます!」
絢斗と肩に乗ったセレサを連れ急いで宮殿の広間へと向かう。道中いた敵兵は絢斗の見事な蹴りで全員再起不能になっている。広間に辿り着くと王が座るであろう玉座に一人の男が座っていた。
「待っていたよ。僕は只越秀。それにしても君たちしっかりしているね。獣人たちを外で待たせる。僕の獣使いの効果範囲外じゃないか。
おー、これは困った手も足も出せない」
「とか言ってるのになんで銃なんか持ってるんだよ」
「もちろん最後の悪あがきだ。喜多遼太郎って知ってるかい?」
「…………………あー……あのクソ野郎」
「……僕の部下だったんだ……連絡が取れなくなってしまってね………君たちが殺したのかい?」
「そうかもしれませんね」
「いい部下だったんだよ……依代は僕が取りに行くと言ってくれたがはっ!」
喋っていた途中だったが星弥が強烈なパンチを頬に入れた。秀は玉座近くにあった柱まで吹き飛ばされた。
「ごちゃごちゃうるさい。もう黙っとけ」
「………まだ………喋ってたじゃないか……」
「あー、ごめん。なんにも聞いてなかった」
「ははっ、悪い子だ。この銃はね、銃弾が入ってないんだ。入っているのは先祖返りの薬。聖女の涙からとった世界にひとつだけの薬品だ。これは獣人にしか効かない。なんということだろう。あんな所に君たちの後を付けてきた獣人が」
後ろを振り返ると大きな柱から輪鼓がこちらを伺うように顔を出していた。
「兎の獣人か。それなら兎になる。よかったな兎ならきっと可愛い」
「輪鼓逃げろ!」
慌てて輪鼓のもとへと走ろうとするが既に銃弾は輪鼓目掛けてまっすぐ飛んで行った。輪鼓は気づいていないのか星弥たちを不思議そうに見ていた。
「輪鼓!」
走ってきた楓佳が輪鼓を横へ思いっきり突き放した。その瞬間銃弾が破裂し、煙が発生した。
「ははっ、庇うのか。素晴らしいな」
「只越!」
星弥が秀の胸ぐらを掴んだ。
「解毒剤はどこにある?!」
「ないよ」
「お前!」
「大丈夫。効果はまだ出ない。最後の人間を味わってから先祖返りするんだから」
「お前はどこまで悪党なんだ!」
「死ぬまでだよ」
「…………そうか………死んでくれ」
「お断りしま……す……」
胸倉を掴み睨みつける星弥の瞳が黄金に輝いていた。
秀はあまりの威圧に腰を抜かしていた。星弥の威圧もあるが、星弥の後ろに立つ純白の髪の男、幻影なのかわからないがその男はひどく秀を睨みつけていた。その男はこの瞬間を待っていたかのように囁いた。
『私の大切な人を苦しめたのです……天国にも地獄にも行けると思うなよ』
禁忌を犯した人間はどうなるのか、その人間は神に裁かれ、天国でもなく地獄でもない狭間に飛ばされる。
秀はその狭間に飛ばされることを実感した。
「あ………あ…………やだ……やだ……お助けください! お助けを!」
「何言って……」
秀はあまりの恐怖から助けを求め、気絶した。
星弥は八つ当たりを込めて秀の頬を殴ろうとしたが、絢斗に止められた。
「落ち着きましたか?」
「………………はい…………」
気絶した秀を縄で縛る絢斗の横で星弥は柱にもたれながら座り心を落ち着かせていた。
「ごめんなさい……着いてきちゃって……ごめんね…………楓佳……」
「ぼくなら大丈夫………輪鼓が助かったなら」
泣きじゃくる輪鼓をなだめる楓佳。
「……………とりあえず話は後で………聖女様のもとに行きましょう」
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
秀は謎の男に裁かれ、狭間に飛ばされるという幻想を見ていました。見せていたのは誰か………内緒。




