46話 獣人王国へ
『……やっぱりこうなった………私の手を取ればよかったのに』
『………何度言われても………ソラ、君の手を取ることはない』
『………………ふふっ……わかってる……旦那様はそう簡単に意志を曲げる人ではなかったもの………でも……大切な人が亡くなれば………そうもいかないでしょ?』
『おまえっ!』
『ふふっ……まだ大丈夫よ、でも………いつか…………ね……?』
目を覚ますと普段とは違い揺れている感覚があった。そうここは船の中だ。二段ベットの上では翼が寝ており、隣のベットでは絢斗が眠っていた。
「……………っ………くそっ………」
思い出しているのは襲ってきた妹と両親に言われた言葉だ。今でも脳内で響いている。思い出す度に頬に一筋の涙が零れ落ちている。家族に見捨てられもう諦めかけた時に現れた翼は神のようだった。あの四面楚歌な状況で唯一自分の味方をしてくれた人。助けてくれた人。きっと生涯忘れることはないだろう。まだ外は暗く、星弥はもう一度寝るため布団に潜り込んだ。
頬にぷにぷにとした触感を感じ、目を覚ますとセレサが肉球で頬をぷにぷにと押していた。
「…………ん………?」
「起きるにゃの! もう着くにゃの!」
近くにあった窓からは朝日が差し込み、大きな海が陽の光で輝いていた。
「起きましたか? おはようございまーす」
ドアを開け入ってきたのは翼だった。両手には何やら皿を持っていた。どうやら朝ごはんのようだ。
「星弥さんの分も持ってきたのでゆっくり食べ下さいねー」
貰った一枚の皿にはパンとスクランブルエッグにベーコン、サラダの乗ったワンプレートだった。
「ありがとう……」
「お気になさらず。それより食べ終わったら上行ってみましょー。 海綺麗らしいですよー!」
「あぁ…………その……翼……」
「はい?」
「………ありがとな…………俺に着いてきてくれて……」
パンを咥えていたいた翼は食器に戻し、星弥に向かい合った。星弥は少し照れくさそうにしていた。
「当たり前です……俺は今でも貴方の騎士で友人ですから。地の果てでもお供しますよ」
「………地の果てでもお供はやばいだろ。さすがにそうなったら着いてくるなよ」
「えっ………嫌です」
「嫌って………」
「俺の居場所は星弥さんの隣ですから」
「………でも」
「何度言われても断り続けますから」
…………これ何言っても意味ないやつだ……
「……わかったよ…」
「! ありがとうございまーす!」
「……はぁ……」
にこにこして喜んでいる翼に対し、星弥はめげない翼に呆れていた。しかし、その反面どんなところにも着いてくるというのが嬉しかった。
「星弥さん、今から向かうアニマリーア王国は全員が獣と人間のハーフの獣人です。縄張り意識が強い獣人もいるので注意してくださいね」
「……わかった、翼……行ったことあるのか?」
「…………嫌だなー、ありませんよー」
「それにしてはやけに詳しいな」
「勉強も兼ねて色々調べてるんで、それに俺の独力は一度訪れた場所にしか移動できません。その予習みたいなものです」
「なるほど」
話しながら朝食を食べ終えると翼に引っ張られ船の上へと連れて行かれた。ちなみにセレサは二度寝している。
「……広い………海ってこんなに綺麗で広かったんだ……」
「……少しは気分、晴れました?」
「あぁ……ありがとう………翼……」
「お二人とも朝食は済ませましたか?」
「絢斗さん、済ませましたよ。今海を見ていたところです」
「そうでしたか……………見えてきましたよ……」
絢斗が指さした方向には大きな島が見えた。大きな建物や塔が見える。
「もしかして……あれが……」
「アニマリーア王国です」
段々と近づきはっきりと建物が見えてきた。セイクリッドの建物とは違い、砂漠があるこの島には砂漠の対策も兼ねた見た事のない色や形をしていた。端的に言うとアラビア風というところだろう。
「お客さん、悪いけど降りる準備してもらえる? ここ船の停泊認められてないのよ」
「わかりました。お二人とも荷物をまとめてきてください」
「「了解です」」
「じゃあお客さんくれぐれも気をつけてね」
「? はい……」
くれぐれも気をつける………ってなに?
「ここ何かあるんですか?」
星弥の問に絢斗も疑問を持つ顔をしていた。
「いえ……私もそこまで詳しいわけでは……」
船を降り歩き始めた3人が見たのはボロボロになった建物だった。大きな広場には人が誰一人していない。噴水の水は洗っていないのか濁っている。
「………なに……これ……」
「……さぁ……」
唖然としていた星弥と翼の隣で絢斗は険しい顔をしていた。セレサは星弥の肩に乗り呑気にあくびをしていた。
「いたぞ! 捕まえろ!」
宮殿へと繋がる広い道から大量に向かってきているのは宮殿直属の兵士のようだ。剣を持ち、敵意剥き出しで星弥たちに向かってきている。
「侵入者は捕まえろ!」
「国のためだ躊躇するな!」
慌てて走り始めた3人はわけのわからない状況に困惑していた。
「ちょっと待て! どういうことだよ!」
「侵入者って言ってたので、この国、鎖国してるってことでは?!」
「アニマリーアは鎖国などしていませんよ! セイクリッドと友好関係を結ぶ大切な友好国です! いつの間にこんなことに! 」
慌てて逃げていると、反対方向から大量の兵士が襲来し、挟み撃ちされてしまった。万事休すかと思ったその時、星弥は誰かに腕を引っ張られ、狭い路地に転がり込んでしまった。それを見た翼と絢斗も路地に身を隠しその場をやり過ごした。兵士たちは通り過ぎなんとかやり過ごしたようだ。
「いてて……」
「すみません! 大丈夫ですか! もしかして……死んで…………うわぁぁぁん! ごめんなさーい!」
「大丈夫……生きてるから……」
「! よかった……」
起き上がり手を引っ張った人物を確認すると小さな10歳ぐらいの女の子だった。服はボロボロで、頭には兎の耳が生えていた。
「……外の人なんて久しぶりで……もしかしたら! 助けてくださるかもしれないと思って! 思いっきり引っ張ってしまってすみません……」
「いや……こちらこそ助かったよ、ありがとう」
「! ご無事でよかったです!」
「ところで君は?」
「わたしはこの国に住む、兎の獣人輪鼓です! 外人さん! わたしたち獣人に力を借してください!」
「力?」
「はい! 聖女様を助けたいんです!」
「「聖女!」」
聖女という言葉に絢斗と翼がいち早く反応した。星弥はよくわかっていないようだ。
「聖女って?」
「聖女はこの国の象徴、セイクリッドでいう巫女みたいなものです」
「さすが翼」
「褒められた………へへっ……」
「聖女様を助けたいとはどういうことかお聞きしても?」
絢斗の問に輪鼓はこくりと頷いた。
「うん、聖女様がね……囚われちゃったの……まだ暑かった頃にね……変な人たちが宮殿を占拠して皇族の人たちは牢に入れられて、聖女様は力を利用されて軟禁されてるっておばあちゃんが言ってたの………わたし! 聖女様を助けたいの! お願い!」
「……あなたのおばあちゃんに会わせていただけますか?」
「うん! こっちだよ!」
星弥の手を引っ張り輪鼓は細い道を辿りながら家へと案内する。その2人について行く翼と絢斗はボソボソと話していた。
「手を貸すんですか?」
「いえ、まだ話を詳しく聞かないとわかりません。私たちが襲撃されたのも謎です。子供ではなく大人に聞いた方がわかるかと」
「なるほど……でもこの国……普通じゃありませんよ。宮殿から離れた街が明らかに衰退してます」
「……私たちの目的は増幅薬の根源を絶つこと、そのためにはこの国の状況を知るのが手っ取り早いです」
「つきましたよ!」
着いたのはいわゆるスラム街というところだろうか、建物はボロボロで歩く人に覇気を感じられない。
「………これは…………」
「わたしたちが暮らしてるところです! 家はこっちです!」
連れていかれる途中周りを見渡すと住人たちは星弥たち外の人に驚いているのか建物中へと隠れてしまった。中には扉を少し開け興味深そうに見ているものもいる。
「おばあちゃん! ただいま!」
「輪鼓、おかえり……お客さんかい?」
「うん! おばあちゃん、この人たちに聖女様たちの話してほしいの!」
「……もしかして外の人かい?」
どうやら輪鼓の祖母は目が悪いのか俺たちのことを認識していないようだ。先程から目が合わないのがその理由だ。
「うん………だめ……だった?」
輪鼓の祖母は気配を頼りに星弥たちの前に跪き、必死に懇願してきた。
「お願いします、外の者よ。我々獣人をお助けください」
「………まず話を聞かせてください」
絢斗の言葉に重みがあったのか祖母は3人を腰掛けさせ、話し始めた。
「あれは……半年ほど前のことです……突然海賊のような人たちがやってきて暴れ始めたのです。宮殿は占拠され、皇族たちは幽閉されました。聖女様は力のため軟禁されてしまったのです。聖女様の血は傷を癒す力があり、それを悪用したい者共に捕まってしまいました。今この国はその悪党の長が取り仕切っております」
「なんで反撃しないんですか? 人数的にも獣人の方が有利だと思うんですけど」
星弥の問に後ろにいる輪鼓もうんうんと頷いていた。
「その長の独力で反撃できないのです。独力獣使い。獣を意のままに操れる力です」
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
新章突入です。
翼の瞬間移動は一度訪れたことのある場所にしか自分自身と触れた人は移動できません。つまり一度訪れてさえすれば無敵に移動できます。持っているクナイなどの武器は訪れたことのない場所でも移動可能です。どこに無機物を移動させるかイメージすることにより瞬間移動させることが可能です。つまり、人間は簡単には瞬間移動させることができません。




