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40話 犯した罪

『おかあさん! みて!』

『まぁ凄い! 立派な砂のお城ね』

『ぼくととうまでつくったんだ!』

ある豪邸の広い庭に小さな少年がいた。2人は砂場でお城を作っている。それを褒めたたえているのは母親のようだ。母親は小さな女の子を抱っこしている。

海夏人(みなと)冬馬(とうま)……明日6()()でお出かけしよっか』

『え?! おとうさんも!』

『うん、お父さん久しぶりにお休み取れるから遊園地行こって』

『やったー! とうまあしたはおとうさんもいるって!』

『やったー!』

あの日のことは鮮明に覚えている。仕事で忙しい父がわざわざ休みを取って遊びに連れていってくれる。眠れないほど嬉しかった。もちろん冬馬もだ。普段眠くて起きれない朝も気持ちよく起きることができた。起きるとお父さんは帰ってきていて冬馬と一緒にお父さんの胸に飛び込んだ。

『よっし! 出発するぞ!』

『『はーい!』』

その後は車で遊園地まで向かった。きっと楽しくてあっという間の1日になる。そう思っていた。あんなことが起きるまで……













『……?』

目が覚めた時には見知らぬ天井と消毒液の臭い。隣からは看護師さんが何か話しかけているようだったが何もわからなかった。ぼーっとしていると白衣を着た若い医者が現れたあたりからなんとなく察した。ここが病院であり、何かあったのだと。

『名前わかるかい?』

『あおい……みなと……』

『うん、何があったか覚えてる?』

『……』

『覚えてないか……君たち家族は交通事故にあったんだよ。逆走車が突っ込んできて、お父さんとお母さんは亡くなったよ……別室に君の弟と妹がいる』

『……』

『……明日また検査に来るから』

医者が退出した後、少し開いた扉からこんな言葉が聞こえた。車は大破したのに子供たちに傷がひとつもないのはおかしい。そして、あのお母さんお腹の中に赤ちゃんがいたらしい。聞こえた瞬間絶望した。なんで自分たちだけ無事なのか。僕も連れて行ってほしかった。何より絶望したのはこれからどうすればいいのか。母も父も両親を早くに亡くしている。親戚も知らない。いや、きっと親戚も亡くなっているのだ。





診察の日、医者が病室にやってきた。後ろにはスーツを着た男がいた。そいつは喜多遼太郎(きたりょうたろう)。孤児院の院長だった。

『初めまして、海夏人くん。僕は喜多遼太郎だ。これから君たち両親の代わりになる人だ』

『……ぼくたちどうなるの?』

『君たちは僕が経営している孤児院で一緒に暮らすんだよ。大丈夫。きっと楽しいよ』

選択肢なんてなかった。だからそいつの手を取った。これからは冬馬と春音(はるね)は兄である僕が守らないといけない。その使命感から手を取ってしまった。それが間違いであることを僕はまだ知らなかった。







孤児院で数年過ごして感じたのは幸福だった。同じような悩みを持つ仲間。優しい院長。悲しい過去も忘れて楽しいんでいたときだった。院長に用事があって探していた時、階段の下にある物置部屋の扉が開いていた。好奇心から覗くと底には地下に繋がる階段があった。この孤児院に地下室がある。そんなことは聞いてなかった。気になって降りてしまった。降りた先にはいくつかの扉があってさまよった。話し声が聞こえてきた扉の隙間を覗くととそこには院長とあの医者がいた。

『やっぱり死体じゃ適合しませんね』

『違う手を探すしか…………誰だ?』

バレてしまった。怖くて身動きが取れなかった。

『海夏人?! 何故ここに?!』

『見られたぞ! どうする?! 殺すか?!』

『いや……こいつを引き取られたことにするのはもう遅い。あぁ……そうだ。海夏人こっちに来なさい』

『……』

『いいかい、僕と先生は悩みのある人を助けるお仕事もしているんだ』

『でも……その人死んでる……』

『その人じゃないよ、奈々(なな)ちゃんだよ』

『奈々ちゃん?! 奈々ちゃんは一昨日引き取られたはず!』

『奈々ちゃんだけじゃないよ、(あさ)蒼太(そうた)優希(ゆうき)良平(りょうへい)もみんなここにいるよ。ほらそこの瓶に入ってる目玉は俊希(としき)だよ』

『……あっ……あーーーっ!』

『大丈夫。君たちはこんなことにはならない。もちろんこのことをバラしたらこうなるけど、手伝ってくれるよね?』

『弟と妹を守るためだよ』

『……はい……手伝います……何をすればいいですか?』

『いい子だ。僕たちと協力してこの薬を手渡してほしいんだ。来週あたりから動いてもらうから、今日は冬馬たちの所に戻りなさい』

『……はい』

冬馬たちの所には戻らなかった。いや、戻れなかった。これから僕は罪を犯す。ひと目でわかった。あの薬は違法なものだ。冬馬と春音を守るためなら僕は犯罪者になる覚悟はできていた。けど世の中はそんなに簡単じゃなかった。数ヶ月後、冬馬の部屋からあの薬を見つけてしまった。きっと冬馬は自ら手に入れたのだ。守ることに精一杯で気づかなかった。冬馬が聖力(せいりょく)に劣等感を抱いていることに。そして、俺はその罪に加担している。いつの間にか俺たち兄弟はすれ違っていた。その日、あの地下室に呼ばれた。そこには院長と医者がいた。

『海夏人、今月のお小遣いだ。よくやったな』

『……はい……』

『海夏人、この薬の素晴らしいところを見せてやろう』

そう言ったあいつが見せてきたのは動物の飼育檻に入っている孤児院の仲間、佳奈(かな)だった。

『海夏人兄さん! 助けて!』

『海夏人このスイッチを押すとな、暴走状態になって人を殺そうとするんだ。俺たちはこの暴走状態を飼い慣らすことのできる実験体を作っているんだ。まず暴走状態を見せてやろう』

そう言ったあいつはスイッチを押した。其の瞬間佳奈の皮膚は火傷したかのように溶けだし、残ったのは肉だけだった。痛い、痛いと悲鳴をあげる佳奈をただ見ていることしかできなかった。自我のなくなった佳奈は檻の隙間から手を伸ばし俺たちを殺そうとしていた。

『凄いだろ……この力を飼い慣らせば神之橋(かみのはし)を殺すことも容易い。海夏人! もう少しでこの国は美しい思想によって生まれ変わるんだ! 巫女(みこ)信仰なんておかしい! 僕たち人間は欲望のままに生きている! 僕たちは悪魔を信仰するべきだ! そう思うだろ?』

『……はい……』

この思想が実現しなければいい。そう思っていた。しかし、最悪なことが起こった。神之橋当主が入れ替わり、この国は国民が中心になった。あいつは焦っていた。神之橋の人間を殺す予定が政府の要人へと変わった。このままずっと焦っていればいい。けど、その希望は終わった。あいつらは完成させてしまった。あの暴走を飼い慣らす化け物を。知りたくなかった。その化け物が実の弟だった。大抵の人間は聖力と独力(アビリティ)を兼ね備えているが、弟は、冬馬は独力を兼ね備えていなかった。院長曰く、それが飼い慣らした原因らしい。冬馬は悲しむと思っていた。しかし、冬馬は喜んでいた。やっとみんなに追いつけると。だから兄として冬馬を祝うしかなかった。冬馬は自分の手を血で染めた。院長と医者に言われるがまま、要人を殺した。

『よくやった! 冬馬! 次はこいつを殺してくるんだ!』

『わかった!』

嬉しそうだった。冬馬はきっと褒められたい、認められたい。その気持ちだけで人を殺している。もう限界だった。だから春音にすべてを打ち明けた。春音は受け止めてくれた。いつも真面目なふりをして、春音たちを愛してくれてありがとう。そう慰めてくれた。そんな時だった、学校であんなことが起こった。あいつらは僕が知らないうちに薬を飲んだやつを意のままに操れる術を手に入れたのだ。だから、逃げた。












「それで逃げて学校を眺めていたら京極(きょうごく)くんたちに見つかった……」

「院長たちは何が目的だ」

「よくわからない…美しい思想に塗り替えると言っていた……それだけだ」

「おかしいですね。その思想のためなら学校を狙う必要はありません」

(つばさ)くんの言う通り……別の目的があるのかな?」

何もわからず止まってしまった。しかし、ずっと黙っていた春音が口を開いた。

「あんたたちが邪魔だからよ……」

「「「「邪魔?」」」」

「神之橋前当主を倒したあんたたちが邪魔だったのよ。けどあんたたちの高校だけを狙うと狙いがわかりやすい。だから他の学校も狙った。そうとしか考えられない……」

「つまり、院長は俺たちを殺そうとしてるってことか?」

「多分……」

俺たちが狙われている……それにしても相手の動機が薄すぎる……何を考えて……

「そういえば冬馬さんは?!」

翼が焦って海夏人と春音に問いただす。

「起きた時には孤児院にいなかった……」

「早く行きましょう!」

「どこに?!」

「議事堂です! 今日そこで政府の要人の会議が行われてます! 要人を殺して、理想の世界にするなら今日程のチャンスはありません!」

「翼! 俺は走っていくから……!」

星弥が言葉を言いかけた瞬間家のインターホンが鳴った。窓を開けて確認するとそこには運転席からこちらを覗く絢斗(あやと)とインターホンを押している(つき)の姿があった。

「月?! 絢斗さん?! どうしてここに?!」

「月お嬢様と一緒にお探していたのです! 議事堂に行くのでしょう?! 早くお乗りください!」

慌てて1階へ降りようとすると海夏人から静止の声がかかった。

「待ってくれ! 僕たちも連れてってくれ!」

「足を引っ張るのはわかってる! でもお兄ちゃんをこのまま無視し続けたら、きっと後悔する! お願い!」

星弥(せいや)が無言で足と腕の縄を外した。

「星弥さんの足引っ張ったら殺しますよ」

「こらっ! いざとなったら冬馬を止めれるのはやっぱり家族だろ。こっちからも頼む」

「ありがとう……」

「さぁ早く行こう」







最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。

なんとなく分かってると思いますが、この世界には悪魔という存在がいます。悪魔は欲望のままに生きています。そのため人間の中には好んで悪魔を召喚し、害をもたらす馬鹿がたくさんいます。喜多もその1人です。

また悪魔を召喚するには多くの生贄となる人間が必要です。悪魔は人間の血を飲んで生きているため供物が多いほど高位の悪魔を召喚できます。ちなみに輸血パックも悪魔は飲みます。

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