大本営|〇八
「おい!小野寺の和平工作はどうなってるっ!?」
「そんな事より補給だ!輸送船団をもっと出せ!!」
「半島にある分で足りる!それより東南の共和国植民地北部を
もっと支援しろ!敵の補給線切断が優先だ!」
今日も怒号が鳴り響くここは帝国の陸軍の頭、参謀本部。
そしてこの部屋は帝国陸軍参謀部の一つだった。
「諸君、少し落ち着き給え。そう騒いだところで結論は出ん。」
その一声で部屋は静まり返る。
声をだしたのは昨年に参謀次長に就任した中島哲郎中将。
一昨年、漢登で起こった事変を巡って当時の参謀次長と共に
陸軍次官と争った大物であり、
その実力も折り紙付きと呼ばれるほどの実力者だ。
「現在漢登の遷都し続ける首都を攻撃しているが、
敵の補給状況が想像より強固で敵の抵抗が激しくなっている。」
既に漢登への補給線四つの内一つを断ち切っているが
その分を他のラインで回しておりあまり大きな成果は挙げていなかった。
「兵站状況のせいでずっと漢登戦線は膠着しているが
もっと工兵などの軍を送れないのか?」
「これ以上となると規模にもよりますが石油などが不足するでしょう。
石油確保のために東南諸国に手を出すとなると合衆国が黙ってないでしょうし、
ただでさえ今は連邦とも緊張が続いていますし資材確保のためにも
現状戦力での突破が一番でしょう。」
頭が痛い状況に中島は頭を抱える。
既に国家総動員法を施行しているがそれでも
四つの列強国の支援を受けて必死の抵抗を続ける漢登を降伏させれていない。
「だが現状戦力となると厳しいものがあるな…。
そういえば先月特機の防大から数十人卒業したようだな…?」
「はい、76名が特別機械化軍大学を卒業し
来月の上旬から編成が開始されるそうですが…。」
「そいつらも大陸用に編成させろ。
どうせゆくゆくは大陸で訓練する連中だ。」
機動性、火力に優れる特機兵は確かに少数でも結果を残すことができる。
それもただ特機兵になったのではなく
軍大学を卒業した「エリート」である彼らなら
新兵としてはかなりの戦果を挙げるだろう。
しかし戦場で大切となるのは経験だ。数々の戦場を生き抜いてきた経験は
軍大学で紙と睨めっこしてたまに生徒同士でする演習では得ることはできない。
多くの試練を乗り越えてきた老兵と
知識と少しの技術をつけた新兵ではお話にならない。
その差を埋めるために編成された部隊と共に対応力、連携を身に着けるために
大陸の方で”訓練できる程度の敵"がいる場所で実戦経験を積むことになる。
それまでは本国で待機なのがこれまでだった。
「…投入できる戦力は全部投入する。編成を急がせろ!」
微かに怒気を含んだように聞こえるその言葉はその部屋にいた
全員の背筋を伸ばし敬礼させた。
「「はっ!!」」