実戦演習|〇五
軍大学における最後の実戦演習。今日がその日だ。
この演習で今後の人生が決まるからだろう。
全生徒が緊張しているように見える。
「お前は緊張するか?伏見棍。」
話しかけてきたのは幼年学校からの同期「牟奈瀬 海士」
代々海軍のエリート士官の家系に長男として生まれ
幼少期から戦争学のあらゆる部門で優れた成績を残し、
親族からは「将来の海軍大臣」などと言われた才能の塊。
伏見棍とは毎回のテストで一、二を争い続けた。
「そりゃもう緊張しまくりよ。
なんせ今日はシルアン連邦との国境紛争地域で演習だぞ?」
「にしてはいつもどおりに見えるな。」
シルアン連邦とは数年前から国境紛争を続けており、
昨年には北方領土の飛行場に爆撃された。
「ではこれより演習を始める。場所はここより七キロメートル先にある森林だ。
そこに観測官が…。」
試験官が試験ルールなどを説明する。
説明が終わるとそれぞれに装備が配られる。
「今回は十二号特型装備と七型法器、銃は三十二式銃剣を用意した。
では、一人ずつ司令部の指示に従ってくれ。」
そうやって演習は進んでいく。
遠くの方で発砲音と爆発音が響く。
待っている生徒は帰ってきた生徒と話し自分の結果などを話したり
心境を語ったりしていた。
「ただいま、伏見棍。」
演習を終えた海士が話しかけてくる。
「どうだった?演習中に連邦の奴らが攻めてこなかったか?」
「攻めてはこなかったけど遠くの方で砲撃音とかが鳴ってたよ。
流石、紛争地域だね。」
冗談で言ったつもりだったが本当にいるとは。
「でも流石特型装備、旧式の装備でも結構動けたよ。」
「旧式でも特型装備が作られたのはここ二十年ぐらいだからな。
十二号となると八年前ぐらいの奴だし俺たちからしたら優秀な方だろ。」
そんな話をしていると試験官が俺の名前を呼ぶ。
「そんじゃ行ってくる。」
「おう!」
簡単な受け答えをして歩き始める。
装備を着用し法器を手首につけ、銃を手に取る。
背中に付けたロケットエンジンを小型化させたような見た目の推進器と
ふくらはぎの部分に付けた装置から青い光が発せられ空を飛び始める。
司令部の指示で演習地域に到達する。
それと同時にライフルを構え目標拡大術式を発動させる。
そして目標が銃の有効射程距圏内に入った瞬間、
爆裂術式を発動させ弾を撃つ。
弾着する奈での数秒の間に別の目標に向かう。
横目で命中を確認し、また撃つ。
これを何度か繰り返しすべての目標に命中させた。
「この程度なら合格は確実だな。さて、かえ、っつ!?」
突然攻撃を受けた、伏見棍は体制を崩す。
「なんだ!?爆裂術式を撃たれた!?防塞術式で防げたがあの威力…まさか!」
最悪の予想。避けれるなら絶対に避ける状況。
それは見事的中した。最悪の形で。
約850メートル先に連邦の特機兵約20人を確認したのだ。
時を少し遡り10分前。
演習場近くの紛争地域上空にて。
「全員爆裂術式用意!撃てぇ!!」
それと同時に64丁のライフルから赤い光を放つ弾丸が発射される。
「敵の迫撃砲部隊を叩くぞ!地上部隊の援護をしろ!!」
その言葉で大隊全員は迫撃砲部隊へ向かおうとするが
「中佐殿!26度の方向から皇国軍の特機兵中隊規模で向かってきています!」
「っちぃ!仕方ない第1中隊と第2、第3中隊で対応する!
第4中隊は地上を叩け!!」
向かってくる皇国の特機兵16人を迎撃するために、
シルアン連邦のオレーグ中佐が3個中隊を率いて急行する。
「第2と第3は左右から叩け!包囲しろ!」
「「了解!!」」
向かってくる皇国兵を囲むため陣形を広げる。
だがその瞬間、皇国兵は速度を上げこちらに全速力で向かってくる。
「なんだあの速度は!?っち、第1中隊貫通術式だ!第2は敵を横から叩け!
第3は第1と合流だ!」
貫通術式を避けながら、こちらに向かってくる皇国兵は恐怖の対象そのものだ。
皇国兵は第一と第3の挟撃を抜けて向かおうとするが、
そこで第2中隊が横から殴りかかる。
「よっし!できるだけ第四に近寄らせるな!」
横から殴られた皇国兵は陣形を崩す。
だがここで皇国兵は反撃を開始した。
防塞術式程度なら容易に貫く貫通術式を的確に当ててくるその攻撃は
直撃した連邦兵を一撃で倒すほどだった。
だが数が違う。
数を頼りに連邦兵は皇国兵を押し込み続ける。
最後の皇国兵を片付けた頃には既にかなり元の場所から離れ、
連邦兵の数も21人まで低下していた。
「中佐殿!154度の方向に一体確認!」
「っち、こちらの残存術力も少ないか…。油断している今がチャンスだ。
02(まるに)、03(まるさん)爆裂術式だ。あいつを確実に撃墜させるぞ…!」
そうして、オレーグ中佐達は無慈悲にも弾丸を発射したのだった。
「なんでこんなところに連邦兵がいるんだよ!
逃げたところでこの装備じゃ追いつかれるだろうし…。」
弱音を吐くがそれで何かが変わるわけでもない。
逃げても追いつかれるなら道は一つ。
戦うしかない。
「荒葛学徒、何があった。報告しろ。」
そこで観測官から通信が入る。
あちらからはこちらの状況が見えていないらしい。
「演習場第三地区高度四五〇〇にて連邦の特機兵約二十人と接敵!
既に攻撃も受けている!この装備じゃ逃げることもできない!
応援を要請する!!」
「は!?連邦兵!?冗談は結果に響くぞ?」
「冗談じゃない!すぐに応援を要請してくれ!!」
「嘘だろ…。少し待て!すぐに近くの駐屯地に要請する!!」
「了解した!」
応援の要請も済んだ。
さて問題はこの状況をどうやって応援が来るまで耐えようか。
戦うにしても相手は約二十人、こちらは一人。
「やるしかないよ…っな!」
その言葉と共に急上昇。まずは敵を攪乱する。
太陽の光に隠れ、追ってくる連邦兵から一瞬隠れる。
連邦兵は太陽の光から目を隠す。
その目が見えない状態を突いて連邦兵の頭上まで到達する。
そして敵がこちらを見失っているこの間に
敵頭上から爆裂術式を出力最大で急降下しながら連邦兵に叩き込む。
頭上からの攻撃に対応できなかった連邦兵はそのまま撃墜される。
突然の攻撃に困惑した連邦兵の集団の真ん中を垂直に突き抜け降下する。
高度四二〇〇に到達したくらいで弧を描きながら上昇する。
だが相手もいくつもの戦場を生き抜いてきた猛者達。
すぐに照準をこちらに合わせてくる。
爆裂術式をこちらに叩き込んでくるが少しでも油断すれば
あたるほどの精度。
「まだ世界大戦も始まってないからってこっちに特機兵投入すんなよ!」
通信用のマイクをオフにして大声で文句を言う。
その間にも連邦兵は散開し爆裂術式をどんどん叩き込んでくる。
防塞術式でなんとか防ぐか避けて耐えているがこれもいつまでもつかは分からない。
「荒葛学徒に連絡。最寄りの駐屯地から特機兵の二個小隊規が急行中。
予想到達時間まで三〇〇秒。それまで耐えろ!」
「こちら荒葛学徒、了解した。」
「貴官の武運を祈る。」
通信が終了する。その瞬間心の中で大絶叫する。
(300秒だぁー!?旧型の装備と試験用の法器で5分耐えろ!?
あいつら頭狂ってんのか!?)
そんな文句を心の中にある溝に捨てまくる。
だがそんなものでは現実は変わらない。
相も変わらず連邦兵は爆裂術式を叩き込んでくるし
こちらを切りかかろうと距離を縮めてくる。
攻撃の間を縫ってこちらも爆裂術式を撃つが無理矢理撃った弾が
精鋭兵に当たるわけがなくかすりもしない。
(残りの弾は…弾倉に2発に予備が6発か…。)
残りの弾は少ない。なら…
一気に敵の方に振り替える。そして全速力で敵に突進する。
「っ!?」
流石にこの行動は予測できなかったのか追いかけてきていた連邦兵4人が
一瞬怯む。その隙に急接近し術式を刻んだ銃剣で敵に大上段に振りかぶる。
力一杯に振ったその一撃は一人の連邦兵の防塞術式を破壊し
刃が肩から肺の辺りまで切り込んだ。
切り込んだ後そのまま通り過ぎ敵との距離が15メートル程空いた時に
また振り返り今回は爆裂術式を二発叩き込む。
味方の悲劇に気を取られ隙を見せた連邦兵二人は
防塞術式を発動させる間もなく直撃する。
最後の一人は他の連邦兵の邪魔が入り仕留めることはできなかったが
今の一瞬で三人が撃墜した。
荒葛はまた急上昇する。敵が下から撃ってくるが弾幕の間を縫い避ける。
上昇を続けながら空になった弾倉を交換する。その空になった弾倉を
相手のいる下に放り投げる。相手も人間。
急に投げつけてきたマガジンを防ごうとして数人の連邦兵が
顔を守ろうとしたのか腕を顔の目の前に持ってくる。
そんな敵に持っていた手榴弾を投げる。
術式によって威力が増していた手榴弾だが今回はちゃんと防塞術式を
発動させた連邦兵を撃墜できなかった。
だが爆発した場所を中心に黒煙が立ち込める。
味方を撃つことを恐れたのか敵は引き金を引かずに煙から逃れようとした。
そんな敵を上空から爆裂術式で撃ち落とす。
爆裂術式が直撃した連邦兵はそのまま地上に落下する。
これで残弾数はゼロ。だがまだ敵は10を超える。
奇襲を用いた近接攻撃も先程のようにうまくは成功しないだろう。
「詰み…か…。」
絶望の感情を込めたその短い言葉は感情のすべてを表していた。
歩の一枚で飛車や角行を打ち破り王将の首を高らかに掲げることはできない。
だがそれはあくまで「歩」一枚だけの場合だ。
ここに味方の飛車や角行が加わるなら話は別だ。
遠くにいる連邦兵の隊長と思われる人物に
部下であろう連邦兵が話しかける声が聞こえる。
「20度の方向から新たな皇国兵です!!」