顔合わせ|一〇
あの後、俺たち2人は指定の軍施設へと向かい、配属される部隊の面々と挨拶することになった。
「本日付でここに配属されました、荒葛伏見棍です。階級は少尉です。」
同じような文面で海士と共に簡単な挨拶と背筋を伸ばし敬礼をする。
少し葉巻の煙とアルコールが匂う部屋には俺たち2人を含めて8人の男達がいた。
「よぅこそ、新兵お二人さん。」
少し酔っているような髭を生やした男が話しかけてくる。
「俺がここの隊長しとぉ黒井敏や、よろしゅうな。」
そう言いながら黒井は手を差し出してくる。
俺と海士も手を差し出し、交互に握手する。
「といっても多分短い付き合いになるやろうからそんな気にせんでええけどな」
その言葉に俺たちは少しムッとする。
それが顔に出ていたのか黒井は慌てて訂正する。
「あ、すまんすまん。誤解させてもうたな。」
「誤解?」
付け足された言葉に少し頭に「?」が浮かぶ。
「黒井さん今回のが終わったら引退するんだよ。」
黒井の後ろから声が聞こえた。
「自己紹介まだでしたね。僕は赤桐貞治。元々は実験部隊にいたんですけどね、今回からこっちにも参加することになったんですよ。」
「きりちゃん、源さんとこにいたから空戦強いんだよなぁ。」
そのまま着々と話が進みまた落ち着くころには全員からアルコールが抜けていた。
「そろそろ仕事の話しよか。」
その言葉は軽々と黒井の口から発せられたがその一言により部屋の空気は一気に重くなった。
オレンジの光と薄暗さが入り混じる部屋は端から見れば誰かの訃報でも聞いたような空気を醸し出していた。
「知っとるやつもおるやろうがわし等の次の戦場はハルヒン・ゴルや。
知らん場所やがぁやるしかない。」
俺と海士は既に聞いていたが部屋にいた連中と同じような反応をする。
全員、先程の陽気な顔の跡形はなく、今はただ猟犬のような顔をしている。
そんな重苦しい空気に耐えかねたのか黒井が再び口を開く。
「そんな暗い顔すんなや!今までとやることは変わらんのや!それにそこに二人新しいやつおるやんけ!どっちもええ成績で学校卒業したんやで!」
その言葉に俺たち二人は苦笑いをする。
その言葉を聞いた部屋の連中は少し雰囲気が明るくなったように見えた。