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青いウサギはそこにいる  作者: 鈴木志稀
紅葉館のジュリエット
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紅葉館のジュリエット④

 瑞稀の呟いた言葉は環の心にじんわりと沁みる。今までずっと責められるような目で見られてきた。先生も先輩たちもいくら言っても責任は両方にあるって言われてきた。自分は悪くないって思ってても、挫けそうになる。確かに手を出したのは悪い。そこは自分でも解ってるし反省する。だけど原因は向こうのヤジだ。喧嘩両成敗という形で双方に謹慎三日の裁定が下ったが、環は納得出来ていない。あの日からずっとモヤモヤした気持ちを抱えてきた。瑞稀の言葉に自然と涙が溢れてくる。それを手のひらで拭うと、環は瑞稀に向き直り。

「ありがとう森澤さん……」

 環は瑞稀が踊っている時の表情を思い出す。口元を食いしばり、悔しそうな表情。彼女はひとりなんだ。

「一緒に――」

「待って!」

 瑞稀は三人にストップというように手のひらで制すと。

「ひとつ聞かして。二人はなんのためにバンドしてるん? プロになりたいの?」

 瑞稀はもう失望したくなかった。一瞬でもかっこいいと思った目の前の人らに裏切られたくなかった。

「プロ?」

 なんのために? プロ? 小五の時に観た動画。その映像に映るギターの音と演奏する姿に魅せられて、自分もこんな演奏がしたいってずっと弾いてきた。毎日毎日、あの時から五年の間ずっと……。

「ごめん、考えたことなかった」

 環はそう言うと目を閉じて考える。瑞稀は一言も言わずに環の答えを待っている。その真剣な上場を見て、言えるのはこれまで続けてきた思いだけだ。

「小学校の時Youtubeで神様見たんや。うちも神様みたいに弾きたかった。だからずっと練習してきた。そやけど出来ひん。練習しても練習しても上手く出来ひん。一生掛かっても神様みたいには弾けへん思うけど、今よりもっと上手なりたい。死んでもええって思える演奏がしたい」

 その言葉を受けて優里が続ける。

「ウチはたまちゃんに負けひん演奏するだけ。たまちゃんが神様になるならウチも神様になる。それだけ」

 こんな人いたんだ。夢だ憧れだいう人は沢山いる。でも本気でやってるって思える人は瑞稀の周りには少ない。話せば話すほど離れていく温度差が悲しかった。でも彼女らは違う。目指す道は違っても、同じ志しを持った人なのかもしれない。

 瑞稀は椅子から立ち上がると、環に右手を差し出して「よろしく」と微笑んだ。

「ありがとう森澤さん!」

 その右手を環は掴む。その上に優里の手が重なり、止まりかかった時間はほんの少しだけ動き出した。

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