ONE DAY③
鈴井涼子は自転車を走らせていた。
目的は、近くの楽器店にエレキギターを見にいくこと。
彼女もまた、環たちの演奏にあてられたひとりだった。
お店に着くと、その白い自転車を近くに停め、店内をそーっと覗いてみる。
そこには色とりどりのギターが架けられ、並んでいた。
「はー、キレイだな」
涼子にはそれが宝石のように輝いて見えた。まるで誘われているように。
食い入るようにガラスのショーケースを覗く涼子に気づいた四十代くらいの店主がドア越しに手招きする。涼子は慌てて店主に両手を振り「大丈夫です」と伝えるが、店主はわざわざ出てきてくれて輝いてみえる店内へと誘う。
そこで涼子は、ひとつのギターに目がとまる。
白のボディに薄い木目のネックは、そのギターにとても合っていた。フェンダーストラトキャスター。ポーラーホワイトにメイプルのネックを持ち、ピックガードは勿論、ピックアップまで白で統一されたメキシコ製で、フェンダーの中では廉価なギター。値段は税込で八万ちょうどだった。
涼子は店主に聞く。
「店員さん、このギター、私にも弾けますか?」
店主は白いストラトを壁のハンガーから外すと涼子に渡す。
「持ってみ」
涼子は初めて持つギターの重みに驚いた。
「わぁ、ギターってこんなに重いんですね。私、木のおっきいギターしか持ったことないからびっくりです」
店主は笑うと、ギターの説明を始めた。
「このギターはな、ストラトキャスターといって、エレキの基本みたいな形をしとるんよ。これはメキシコ産のフェンダーでは廉価版のモデルやけどな、とにかく弾きやすい。さらに安い初心者用のセットもあるが、同じ形をしていても後々お金が掛かってくるし使えへんようになってくる」
うんうんと頷く涼子。
「このストラトなら上手くなってからも満足できる作りやし、長い目で見たら初心者のお嬢ちゃんにもおすすめやな。うちも商売やから、うまく言っとるけどな、ギターは挫折してやめる人がぎょうさんおんねんな。そやからお嬢ちゃん。親御さんやギターやってるお友達がいたら聞いてみぃ。おっちゃんが一週間くらいなら取っといたるからなぁ」
そう言うと店主は、その白いストラトに商談中という札をつけて壁のハンガーに戻した。
涼子は自宅に戻ると、親に頼み込んで、親子ローンの約束を取り付けた。
翌日、学校へ行くと涼子は環に聞いた。
「ねえ、たまちゃん。私、ギター弾けるようになると思う?」
帰り道、自宅に寄って母親の運転する車でギターショップに向かった。
店主は、「ギターを好きになってくれる子ぉがおるとうれしいわ」と言って、廉価で質のいいアンプを見繕ってくれた。ギターとアンプを購入すると、店主はお祝いだと言って、ピックやストラップ、中古のギグバッグ、チューナーなど最低限必要なものをサービスしてくれた。
涼子はギターを自室に持っていくと、店主のくれたアーニーボールの黒のストラップを付けて全身鏡の前に立った。
「へへへ」
自然と笑いが込み上げてくる。
涼子は何もわからないまま開放弦を鳴らした。その音はときめきと一緒に涼子の中を駆け抜けていった。
涼子が環にギターを教わって軽音部に入るのは、また別のお話。




