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青いウサギはそこにいる。  作者: 鈴木志稀
合わないグルーヴ

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42/50

合わないグルーヴ④

 練習は順調に進んでいるように見えた。だが、舞星まいせは納得していなかった。

 練習の帰り道、皆と別れた後、ひとりで、ののかの後を追った。

「ののかちゃん」

「あら、舞星まいせ? どうしたん?」

「ののかちゃんは――」

「もういい加減『のんちゃん』って言ってや。まあ、最初の頃の『ののか!』よりは全然いいけどな」

「じゃあ、のんちゃん。のんちゃんはいいと思ってるわけ?」

「ん? どうしたん?」

「バンドとしてこのままでええのかって話」

 ののかは少し戸惑いながら答える。

「なあ、舞星まいせ。うちらまだ高校生やから。そう急がんとゆっくりいけばいいと思わん?」

「思わんよ。平井くんがアレやったけど、ゼニム(ゼニスムジカ)の方がまだまとまってた」

 舞星まいせは続ける。

「このままやと、瑞稀みずきがつぶれてしまう。私な、あのバンドの子が好きになってるんよ。そら、揉めたこともあったけどな、あの子たちひとりひとりが好きなの」

 その真剣な眼差しに、ののかは何も言えなかった。

 

「なあ、あんたら、このままでええと思ってるの?」

 その日の練習も終わりに差し掛かったころ、舞星まいせが静かに問うた。

 順調に進んでいる、そう思うたまき優里ゆうりは意味がわからない。

「どういうことですか?」

 たまきが問うと、舞星まいせは堰を切ったように話し始めた。

たまきは走り過ぎ。優里ゆうりが合わせてくれてるからって調子に乗ってたらあかん。優里ゆうりもリズム隊やねんから、たまきより私に合わさないかん。ののかは二人に合わせて本当の実力の半分も出してへん。瑞稀みずきは歌に自信がないんか? なんでたまきがヴォーカルの聞かせどころで前に出て来すぎやのに指摘せんの!」

 瑞稀みずきは図星だったのか表情が強張る。たまきはムッとした顔で舞星まいせに向かった。

「どういう意味や!」

 突っかかってくるたまきに、舞星まいせは続けた。

たまき、あんたね、自分がなにしてるかわかってないでしょ!?」

「先輩がなに言ってるかの方がわからんわ!」

「ええわ、教えたげる」

 その言葉を聞いて、ののかが止めようとするが、舞星まいせはやめなかった。

たまき、あんた自分のいいように弾きすぎる。優里ゆうりたまきに合わせすぎとるから二人して変な方へ走っとる。ののかは二人に遠慮しとるんか? 二人が一歩進んだら自分もひとつ上げてってこと? そんなんしてたらいいつまでも成長できへんわ!」

「なんやて!」

 舞星まいせに突っかかっていくたまき優里ゆうりが止める。しかし、優里ゆうりも表情は固く、舞星まいせを睨みつけたままだ。

「クラシックやっとったからってそれが正しいとか関係無い! うちらはうちらの理想の音楽をやるんや!」

たまきはなんか勘違いしてるんやない? 理想の音楽はバンド全員で造るもんよ。自分勝手もいい加減にしぃ」

 たまきは睨んだ目を離さない。

たまき、あんたが相当練習して来たかはわかる。ベースだってスラップやらそんな演奏は腐るほどあるんや! でもな、そやったらひとりでやるしか無いんや。今までは優里ゆうりが合わしてくれたからええけど、バンドやねんから人の音を聴きぃ。瑞稀みずきが萎縮してるやないか!」

「うるさい!」

たまきはこのままひとりよがりの演奏を続けていく気か? このままでええと思っとるんか? 言っちゃ悪いけど、あんたが拘ってるタッピングなんか、ピアノやってる人間にはなにが凄いかすらわからんのよ。あんなの出来て当然、もっと複雑な動きはいっぱいある! バイオリンにもピチカート、そんなんに陶酔してたらお客さんだって誰だって聴いてくれへんくなる」

「うるさい! 人に聞かすためにやってるんやない。自分の理想に近づくためにやってるんや!」

 その場の空気が凍った。

「たまちゃん。うちな、ロックがなんやいまだにわからへん。そやから、たまちゃんがロックを体現してると思ってついて来たんよ。音楽も舞台もお芝居も、表現者は『こころ』をお客さんに伝えるもんと違う?」

「うるさい! そんなんいうなら瑞稀みずきかてちゃんと歌えや! あのパワーのあった瑞稀みずきはどこに行ったんや、今の瑞稀みずきは初めて会った瑞稀みずきと違う!」

「あんたらホンマは合わないんと違う? 瑞稀みずきん家に泊まった時にののかとあの時の話やら昔の話やら色々聞いた時は、もっと頑固で自分持ってるやつやって思ったけどなぁ。そんな瑞稀みずきたまきがぶつかり合ってこそ、このバンドはいいバンドになるって思ったんやで」

 舞星まいせの言葉に、誰も一言も言えなかった。

瑞稀みずきたまきも、優里ゆうり、ののかかてよう考えて。バンドはぶつかってなんぼやけどな、ぶつかり合いもできんバンドなんて学園祭で思い出でも作って解散や!」

 瑞稀みずきは、演劇部やダンス同好会を辞めた時を思い出していた。

「あんなのもういや……」

 

 その場はののかが無難に収めて解散となったが、次の練習もギクシャクした空気は取れなかった。それ以上に、瑞稀みずきたまきの口論が多くなり、音楽的な問題が際立っていく。学園祭本番まであと三週間。そして瑞稀みずきの最終オーディションも二週後に迫っていた。

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