合わないグルーヴ④
練習は順調に進んでいるように見えた。だが、舞星は納得していなかった。
練習の帰り道、皆と別れた後、ひとりで、ののかの後を追った。
「ののかちゃん」
「あら、舞星? どうしたん?」
「ののかちゃんは――」
「もういい加減『のんちゃん』って言ってや。まあ、最初の頃の『ののか!』よりは全然いいけどな」
「じゃあ、のんちゃん。のんちゃんはいいと思ってるわけ?」
「ん? どうしたん?」
「バンドとしてこのままでええのかって話」
ののかは少し戸惑いながら答える。
「なあ、舞星。うちらまだ高校生やから。そう急がんとゆっくりいけばいいと思わん?」
「思わんよ。平井くんがアレやったけど、ゼニム(ゼニスムジカ)の方がまだまとまってた」
舞星は続ける。
「このままやと、瑞稀がつぶれてしまう。私な、あのバンドの子が好きになってるんよ。そら、揉めたこともあったけどな、あの子たちひとりひとりが好きなの」
その真剣な眼差しに、ののかは何も言えなかった。
「なあ、あんたら、このままでええと思ってるの?」
その日の練習も終わりに差し掛かったころ、舞星が静かに問うた。
順調に進んでいる、そう思う環と優里は意味がわからない。
「どういうことですか?」
環が問うと、舞星は堰を切ったように話し始めた。
「環は走り過ぎ。優里が合わせてくれてるからって調子に乗ってたらあかん。優里もリズム隊やねんから、環より私に合わさないかん。ののかは二人に合わせて本当の実力の半分も出してへん。瑞稀は歌に自信がないんか? なんで環がヴォーカルの聞かせどころで前に出て来すぎやのに指摘せんの!」
瑞稀は図星だったのか表情が強張る。環はムッとした顔で舞星に向かった。
「どういう意味や!」
突っかかってくる環に、舞星は続けた。
「環、あんたね、自分がなにしてるかわかってないでしょ!?」
「先輩がなに言ってるかの方がわからんわ!」
「ええわ、教えたげる」
その言葉を聞いて、ののかが止めようとするが、舞星はやめなかった。
「環、あんた自分のいいように弾きすぎる。優里も環に合わせすぎとるから二人して変な方へ走っとる。ののかは二人に遠慮しとるんか? 二人が一歩進んだら自分もひとつ上げてってこと? そんなんしてたらいいつまでも成長できへんわ!」
「なんやて!」
舞星に突っかかっていく環を優里が止める。しかし、優里も表情は固く、舞星を睨みつけたままだ。
「クラシックやっとったからってそれが正しいとか関係無い! うちらはうちらの理想の音楽をやるんや!」
「環はなんか勘違いしてるんやない? 理想の音楽はバンド全員で造るもんよ。自分勝手もいい加減にしぃ」
環は睨んだ目を離さない。
「環、あんたが相当練習して来たかはわかる。ベースだってスラップやらそんな演奏は腐るほどあるんや! でもな、そやったらひとりでやるしか無いんや。今までは優里が合わしてくれたからええけど、バンドやねんから人の音を聴きぃ。瑞稀が萎縮してるやないか!」
「うるさい!」
「環はこのままひとりよがりの演奏を続けていく気か? このままでええと思っとるんか? 言っちゃ悪いけど、あんたが拘ってるタッピングなんか、ピアノやってる人間にはなにが凄いかすらわからんのよ。あんなの出来て当然、もっと複雑な動きはいっぱいある! バイオリンにもピチカート、そんなんに陶酔してたらお客さんだって誰だって聴いてくれへんくなる」
「うるさい! 人に聞かすためにやってるんやない。自分の理想に近づくためにやってるんや!」
その場の空気が凍った。
「たまちゃん。うちな、ロックがなんやいまだにわからへん。そやから、たまちゃんがロックを体現してると思ってついて来たんよ。音楽も舞台もお芝居も、表現者は『こころ』をお客さんに伝えるもんと違う?」
「うるさい! そんなんいうなら瑞稀かてちゃんと歌えや! あのパワーのあった瑞稀はどこに行ったんや、今の瑞稀は初めて会った瑞稀と違う!」
「あんたらホンマは合わないんと違う? 瑞稀ん家に泊まった時にののかとあの時の話やら昔の話やら色々聞いた時は、もっと頑固で自分持ってるやつやって思ったけどなぁ。そんな瑞稀と環がぶつかり合ってこそ、このバンドはいいバンドになるって思ったんやで」
舞星の言葉に、誰も一言も言えなかった。
「瑞稀も環も、優里、ののかかてよう考えて。バンドはぶつかってなんぼやけどな、ぶつかり合いもできんバンドなんて学園祭で思い出でも作って解散や!」
瑞稀は、演劇部やダンス同好会を辞めた時を思い出していた。
「あんなのもういや……」
その場はののかが無難に収めて解散となったが、次の練習もギクシャクした空気は取れなかった。それ以上に、瑞稀と環の口論が多くなり、音楽的な問題が際立っていく。学園祭本番まであと三週間。そして瑞稀の最終オーディションも二週後に迫っていた。




