合わないグルーヴ①
岡崎舞星が加入して、環たちのバンドは五人になった。
四方田環(一年)ギター
大西優里(一年)ドラム
森沢瑞稀(一年)ボーカル
伊藤ののか(二年)キーボード・マニピュレーター
岡崎舞星(二年)ベース
この体制で、九月に行われる学園祭のステージに挑むこととなる。
軽音部としての活動は、今月は「全国高校生バンドフェス決勝」があるが、五月に行われた予選に出場したバンドはすべて予選落ちしたため、今年の夏は何もすることがない。九月の学祭とジョイコン(合同ライブ)を待つだけだ。
二年生のバンド「ゼニスムジカ」が解散したため、学祭は軽音部の全バンドで挑むことになり、ジョイコンは二年の「ワンポーションドロップ」と、一年の「鴨川ポップギャル」というガールズバンド二組が出ることになった。
舞星が加入して五人になって初めての練習は、レンタルスタジオ「ジミーちゃん」で行われた。瑞稀は学校の用事で遅れているが、もうすぐ来るようだ。
「いやー、五人になるとスタジオ代も五分の一になるからええなー!」
ののかは上機嫌で言葉を続ける。
「これで練習も一ヶ月に二、三回増やせるな」
その発言に、舞星が驚きの声を上げた。
「伊藤さん、家でも音楽漬けなんやろ?」
「頭の中に常に音楽は鳴りよーからな。この曲はこうしよう、とかな。クラシックやっとったから、作曲者はどう考えたのか、とか凄く考えるし。アウトプット、アウトプット!」
「あ、それは私も思う。わ、私もクラシックやってたからな」
(覚えてないのは、しょうがないわ。京都と神戸だし、関西大会でしか会わないし……。そもそも私は上位入賞したことなかったもの)
舞星は割り切ることにした。いつか、同じステージで隣に立って最高の演奏ができたら、「私、伊藤さんに憧れてたんだ」って言ってびっくりさせよう。舞星はその時を想像して、密かにわくわくした。新しい目的ができたのだと。
ふと横を見ると、事情を知っている環と優里が、気まずそうに「あ、あの、その……」と何かを言おうとしている。舞星は二人の方を向き、人差し指を唇に当てて「しーっ」というポーズを取った。
「で、伊藤さん。聞きたいんだけど、作曲はやらんの?」
当然の疑問だった。環と優里も同じことを思っていたようで、「あーっ」という顔をしている。
「うちは作曲の才能はあらへん思っとー。編曲、アレンジするんが最高に楽しいし」
舞星は「どうしようかな、どうしようかな」ともじもじしながら切り出した。
「私、作曲してて、曲作ってるんやけど、よかったらアレンジしてほしい……んだけど」
「え? おかざ……いや、もう舞星やな。舞星は曲作りよるんや。また譜面と音源持ってきてや」
ののかがそう言うと、舞星は小さく頷いた。二人の会話を黙って聞いていた環だったが、我慢できずに口を開いた。
「舞星先輩って、なんかキャラ変わってません?」
優里は「それは言っちゃあかん」と慌てて後ろから環の口を塞いだ。
「そう言えば、いつも睨まれてたし、うち嫌われとー思いよったわ」
「いや、そんなことないし!」
舞星は慌てて否定したが、ののかはにやにやしながら続ける。
「でも谷川くんは『舞星は伊藤のこと大好きやと思うよ』って言ってたなー」
恥ずかしそうにぎゅーっと目を瞑る舞星を微笑ましく見ていた優里が、話題をバンドに戻した。
「それでのんちゃん、学祭はなに演るん?」
「まだ、これって曲が決まらん。今回は瑞稀もがっつり前に出したいし、舞星も入ったからな」
「そうですかー。まあ、のんちゃんの選ぶ曲なら間違いないやろ」
優里が言うと、環も深く頷く。
「のんちゃんは最高のプロデューサーやからな」
ののかが照れていると、ドアが開いて瑞稀が「遅れましたー!」とやって来た。
「やっと来た!」
環が待ちかねたという顔をすると、優里がののかの方を向いて聞いた。
「やったら、練習の曲はなにやりますの?」
ののかは譜面を出すと、皆に告げる。
「今回は、舞星いう強力なベーシストも入っとーし、演奏は固めたいんだけど、瑞稀にも一段階上に行ってほしいんで、この曲にしたわ」
それは、すでに解散しているJーROCKバンドの名曲だった。
「もう少ししたら激しめの曲もやろう思いよーけど、まずはロックバンドに分類されとーけど、おとなしめのこの曲からやっていこ」
ののかの言う通りだ。先日の選考会で足を引っ張っていたのは自分だ――。
環と優里がグンと成長したのを目の当たりにして、瑞稀は静かに闘志を燃やしていた。
その後、練習曲をののかのアドバイスや方向性を交えながら三回ほど合わせ、時間となった。
瑞稀の焦り。成長した環と優里。そして何回か演奏して確信した、舞星の抱く違和感。
色々な想いが交錯しながら、初めての五人の練習は終わった。
瑞稀は自宅でサブスクの音源を聴きながら、母に尋ねた。
「ねえ、お母さん。ロックって、なんなん?」
瑞稀は迷っていた。それは、環に初めてぶつけた質問と同じだった。
わかろうとした。ののかの言う通り、ロックを歌う女の子の役作りをしてステージにも立った。けれど、やればやるほど、わからなくなっていった。




