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青いウサギはそこにいる  作者: 鈴木志稀
合わないグルーヴ
39/50

合わないグルーヴ①

岡崎おかざき舞星まいせが加入して、たまきたちのバンドは五人になった。


 四方田よもだたまき(一年)ギター

 大西おおにし優里ゆうり(一年)ドラム

 森沢もりさわ瑞稀みずき(一年)ボーカル

 伊藤いとうののか(二年)キーボード・マニピュレーター

 岡崎おかざき舞星まいせ(二年)ベース


 この体制で、九月に行われる学園祭のステージに挑むこととなる。

 軽音部としての活動は、今月は「全国高校生バンドフェス決勝」があるが、五月に行われた予選に出場したバンドはすべて予選落ちしたため、今年の夏は何もすることがない。九月の学祭とジョイコン(合同ライブ)を待つだけだ。

 二年生のバンド「ゼニスムジカ」が解散したため、学祭は軽音部の全バンドで挑むことになり、ジョイコンは二年の「ワンポーションドロップ」と、一年の「鴨川ポップギャル」というガールズバンド二組が出ることになった。

 舞星まいせが加入して五人になって初めての練習は、レンタルスタジオ「ジミーちゃん」で行われた。瑞稀みずきは学校の用事で遅れているが、もうすぐ来るようだ。

「いやー、五人になるとスタジオ代も五分の一になるからええなー!」

 ののかは上機嫌で言葉を続ける。

「これで練習も一ヶ月に二、三回増やせるな」

 その発言に、舞星まいせが驚きの声を上げた。

伊藤いとうさん、家でも音楽漬けなんやろ?」

「頭の中に常に音楽は鳴りよーからな。この曲はこうしよう、とかな。クラシックやっとったから、作曲者はどう考えたのか、とか凄く考えるし。アウトプット、アウトプット!」

「あ、それは私も思う。わ、私もクラシックやってたからな」

(覚えてないのは、しょうがないわ。京都と神戸だし、関西大会でしか会わないし……。そもそも私は上位入賞したことなかったもの)

 舞星まいせは割り切ることにした。いつか、同じステージで隣に立って最高の演奏ができたら、「私、伊藤いとうさんに憧れてたんだ」って言ってびっくりさせよう。舞星まいせはその時を想像して、密かにわくわくした。新しい目的ができたのだと。

 ふと横を見ると、事情を知っているたまき優里ゆうりが、気まずそうに「あ、あの、その……」と何かを言おうとしている。舞星まいせは二人の方を向き、人差し指を唇に当てて「しーっ」というポーズを取った。

「で、伊藤いとうさん。聞きたいんだけど、作曲はやらんの?」

 当然の疑問だった。たまき優里ゆうりも同じことを思っていたようで、「あーっ」という顔をしている。

「うちは作曲の才能はあらへん思っとー。編曲、アレンジするんが最高に楽しいし」

 舞星まいせは「どうしようかな、どうしようかな」ともじもじしながら切り出した。

「私、作曲してて、曲作ってるんやけど、よかったらアレンジしてほしい……んだけど」

「え? おかざ……いや、もう舞星まいせやな。舞星まいせは曲作りよるんや。また譜面と音源持ってきてや」

 ののかがそう言うと、舞星まいせは小さく頷いた。二人の会話を黙って聞いていたたまきだったが、我慢できずに口を開いた。

舞星まいせ先輩って、なんかキャラ変わってません?」

 優里ゆうりは「それは言っちゃあかん」と慌てて後ろからたまきの口を塞いだ。

「そう言えば、いつも睨まれてたし、うち嫌われとー思いよったわ」

「いや、そんなことないし!」

 舞星まいせは慌てて否定したが、ののかはにやにやしながら続ける。

「でも谷川くんは『舞星まいせ伊藤いとうのこと大好きやと思うよ』って言ってたなー」

 恥ずかしそうにぎゅーっと目を瞑る舞星まいせを微笑ましく見ていた優里ゆうりが、話題をバンドに戻した。

「それでのんちゃん、学祭はなに演るん?」

「まだ、これって曲が決まらん。今回は瑞稀みずきもがっつり前に出したいし、舞星まいせも入ったからな」

「そうですかー。まあ、のんちゃんの選ぶ曲なら間違いないやろ」

 優里ゆうりが言うと、たまきも深く頷く。

「のんちゃんは最高のプロデューサーやからな」

 ののかが照れていると、ドアが開いて瑞稀みずきが「遅れましたー!」とやって来た。

「やっと来た!」

 たまきが待ちかねたという顔をすると、優里ゆうりがののかの方を向いて聞いた。

「やったら、練習の曲はなにやりますの?」

 ののかは譜面を出すと、皆に告げる。

「今回は、舞星まいせいう強力なベーシストも入っとーし、演奏は固めたいんだけど、瑞稀みずきにも一段階上に行ってほしいんで、この曲にしたわ」

 それは、すでに解散しているJーROCKバンドの名曲だった。

「もう少ししたら激しめの曲もやろう思いよーけど、まずはロックバンドに分類されとーけど、おとなしめのこの曲からやっていこ」

 ののかの言う通りだ。先日の選考会で足を引っ張っていたのは自分だ――。

 たまき優里ゆうりがグンと成長したのを目の当たりにして、瑞稀みずきは静かに闘志を燃やしていた。

 その後、練習曲をののかのアドバイスや方向性を交えながら三回ほど合わせ、時間となった。

 瑞稀みずきの焦り。成長したたまき優里ゆうり。そして何回か演奏して確信した、舞星まいせの抱く違和感。

 色々な想いが交錯しながら、初めての五人の練習は終わった。


 瑞稀みずきは自宅でサブスクの音源を聴きながら、母に尋ねた。

「ねえ、お母さん。ロックって、なんなん?」

 瑞稀みずきは迷っていた。それは、たまきに初めてぶつけた質問と同じだった。

 わかろうとした。ののかの言う通り、ロックを歌う女の子の役作りをしてステージにも立った。けれど、やればやるほど、わからなくなっていった。

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