普通のエクスパート②
「私も森沢さんと仲良くなりたい!」
お昼休み。教室で昼食を広げている最中、環と優里のクラスメイト、鈴井涼子が唐突に叫んだ。
「そもそも、私が声かけたのがきっかけじゃん。二人だけ仲良くなってズルいよー」
文句を言いながらも、涼子はもくもくと惣菜パンを頬張っている。今日のお昼はウインナードーナツとたまごサンドのようだ。
「食べるか怒るか、どっちかにしてくれへんかな」
優里が、シャケのおにぎりを口に運びながら冷静に突っ込む。
「だってさ、私がいなかったら二人とも学祭出れなかったんだよ? あの時のドーナツの恨みは一生忘れないからね」
「次の日行ったやんな、ミスド」
環が呆れ顔でフォローを入れる。
「ドーナツは一期一会。今日のこのウインナードーナツのようにね!」
「意味がわかりませんなぁ」
優里は澄ました顔で、お弁当箱のプチトマトを摘んだ。
ボケ倒す涼子と、冷めた毒舌を吐きながらも律儀に付き合う優里。いいコンビだな、と環は心の中で苦笑した。
「私も演奏、観たかったよー」
涼子がたまごサンドを頬張りながらボヤく。
「学祭に出るから、その時に観れるよ」
環は、父・洸平が作った海苔弁当の唐揚げを口にした。
ご飯と海苔が二層になった、通称「のりだんだん」。茶色の唐揚げに、黄色の炒り卵、彩りのブロッコリー。洸平は仕事でどんなに遅くなっても、環の弁当だけは手を抜かない。普段のだらしなさと、ギターの腕、そしてこの弁当の完成度。そのギャップが彼の持ち味だ。ちなみに、四方田家では炒り卵のことを「ホロホロ」と呼ぶ。祖父がそう言っていたらしい。
「学祭まで二か月もあるじゃん。それにライブも、ドーナツと一緒で一期一会だよ」
涼子の言葉に、環は選考会のステージを思い出していた。あんなに熱い演奏は初めてだった。二度と同じ演奏はできないだろう。けれど、次はもっと――もっと上手くやりたい。環が優里を見やると、彼女も同じような、どこか充実した表情をしていた。
「音楽も、一期一会か……」
環がポツリと呟くが、涼子はすでに次の話題へ飛んでいた。
「そうだ、森沢さんと一緒にお出かけしたい! 森沢さん、中書島なんでしょ? 大手筋を抜けたところにあるたい焼き、食べに行こうよ。そのあとイオンで買い物!」
鼻を鳴らしながら「完璧なスケジュール」を自画自賛する涼子。
「瑞稀、バイトしてるから忙しいんやない? 家のこともあるしなぁ」
優里が紙パックの牛乳にストローを差しながら釘を刺す。
「そんなぁ……」
「でも、あそこのたこ焼きはうちも食べたいし。ダメもとで聞いてみましょか?」
優里は涼子のテンションを弄んで楽しんでいる。
「あ、たまちゃん笑った! 久しぶりに見た」
「いや、うちだって笑うわ」
「だってたまちゃん、いつも眉間にしわ寄せてるじゃん。こーんな感じで」
涼子が人差し指を眉間に当てて、不機嫌な時の環の真似をした。
「うち、そんな顔せえへんで」
「いや、いつもこうだから」
ケタケタと笑う涼子。
優里が今日のお弁当の画像と一緒に、瑞稀へメッセージを送った。
「いいなあ、私も森沢さんとLINEしたい! ズルいー!」
話が一周したところで、瑞稀から「行こう!」という返信が届いた。と、共に、優里のお弁当への辛辣なコメントが添えてあった。
『おにぎりに牛乳って変じゃない???』
優里の今日のお弁当は、シャケのおにぎりと紫蘇のおにぎり、卵焼き、照り焼き、サラダに、なぜか紙パックの牛乳が写っていた。
『おにぎりの海苔が牛乳と合わさって絶妙なハーモニーを奏でるんよ。瑞稀も試したらええ』
優里がよくわからないメッセージを送った。
『まあ、ええわ』
瑞稀から呆れたような返信が食べかけのコンビニおにぎりの写真が届き、何度かのやり取りを経て、明日の放課後、遊びに行くことが決定した。
涼子が感激の雄叫びを上げると同時に、予鈴のチャイムが鳴る。
環は、あのお店に行くなら「あんこ」は確定として、もう一つは「あんバター」か「カスタード」か、それともしょっぱいたこ焼きと合わせるべきか……そんな平和な悩みで頭をいっぱいにしていた。




