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青いウサギはそこにいる  作者: 鈴木志稀
普通のエクスパート
36/50

普通のエクスパート②

「私も森沢もりさわさんと仲良くなりたい!」

 お昼休み。教室で昼食を広げている最中、たまき優里ゆうりのクラスメイト、鈴井すずい涼子りょうこが唐突に叫んだ。

「そもそも、私が声かけたのがきっかけじゃん。二人だけ仲良くなってズルいよー」

 文句を言いながらも、涼子りょうこはもくもくと惣菜パンを頬張っている。今日のお昼はウインナードーナツとたまごサンドのようだ。

「食べるか怒るか、どっちかにしてくれへんかな」

 優里ゆうりが、シャケのおにぎりを口に運びながら冷静に突っ込む。

「だってさ、私がいなかったら二人とも学祭出れなかったんだよ? あの時のドーナツの恨みは一生忘れないからね」

「次の日行ったやんな、ミスド」

 たまきが呆れ顔でフォローを入れる。

「ドーナツは一期一会。今日のこのウインナードーナツのようにね!」

「意味がわかりませんなぁ」

 優里ゆうりは澄ました顔で、お弁当箱のプチトマトを摘んだ。

 ボケ倒す涼子りょうこと、冷めた毒舌を吐きながらも律儀に付き合う優里ゆうり。いいコンビだな、とたまきは心の中で苦笑した。

「私も演奏、観たかったよー」

 涼子りょうこがたまごサンドを頬張りながらボヤく。

「学祭に出るから、その時に観れるよ」

 たまきは、父・洸平こうへいが作った海苔弁当の唐揚げを口にした。

 ご飯と海苔が二層になった、通称「のりだんだん」。茶色の唐揚げに、黄色の炒り卵、彩りのブロッコリー。洸平こうへいは仕事でどんなに遅くなっても、たまきの弁当だけは手を抜かない。普段のだらしなさと、ギターの腕、そしてこの弁当の完成度。そのギャップが彼の持ち味だ。ちなみに、四方田よもだ家では炒り卵のことを「ホロホロ」と呼ぶ。祖父がそう言っていたらしい。

「学祭まで二か月もあるじゃん。それにライブも、ドーナツと一緒で一期一会だよ」

 涼子りょうこの言葉に、たまきは選考会のステージを思い出していた。あんなに熱い演奏は初めてだった。二度と同じ演奏はできないだろう。けれど、次はもっと――もっと上手くやりたい。たまき優里ゆうりを見やると、彼女も同じような、どこか充実した表情をしていた。

「音楽も、一期一会か……」

 たまきがポツリと呟くが、涼子りょうこはすでに次の話題へ飛んでいた。

「そうだ、森沢もりさわさんと一緒にお出かけしたい! 森沢もりさわさん、中書島なんでしょ? 大手筋を抜けたところにあるたい焼き、食べに行こうよ。そのあとイオンで買い物!」

 鼻を鳴らしながら「完璧なスケジュール」を自画自賛する涼子りょうこ

瑞稀みずき、バイトしてるから忙しいんやない? 家のこともあるしなぁ」

 優里ゆうりが紙パックの牛乳にストローを差しながら釘を刺す。

「そんなぁ……」

「でも、あそこのたこ焼きはうちも食べたいし。ダメもとで聞いてみましょか?」

 優里ゆうり涼子りょうこのテンションを弄んで楽しんでいる。

「あ、たまちゃん笑った! 久しぶりに見た」

「いや、うちだって笑うわ」

「だってたまちゃん、いつも眉間にしわ寄せてるじゃん。こーんな感じで」

 涼子りょうこが人差し指を眉間に当てて、不機嫌な時のたまきの真似をした。

「うち、そんな顔せえへんで」

「いや、いつもこうだから」

 ケタケタと笑う涼子りょうこ

 優里ゆうりが今日のお弁当の画像と一緒に、瑞稀みずきへメッセージを送った。

「いいなあ、私も森沢もりさわさんとLINEしたい! ズルいー!」

 話が一周したところで、瑞稀みずきから「行こう!」という返信が届いた。と、共に、優里のお弁当への辛辣なコメントが添えてあった。

『おにぎりに牛乳って変じゃない???』

 優里の今日のお弁当は、シャケのおにぎりと紫蘇のおにぎり、卵焼き、照り焼き、サラダに、なぜか紙パックの牛乳が写っていた。

『おにぎりの海苔が牛乳と合わさって絶妙なハーモニーを奏でるんよ。瑞稀も試したらええ』

 優里がよくわからないメッセージを送った。

『まあ、ええわ』

瑞稀から呆れたような返信が食べかけのコンビニおにぎりの写真が届き、何度かのやり取りを経て、明日の放課後、遊びに行くことが決定した。

 涼子りょうこが感激の雄叫びを上げると同時に、予鈴のチャイムが鳴る。

 たまきは、あのお店に行くなら「あんこ」は確定として、もう一つは「あんバター」か「カスタード」か、それともしょっぱいたこ焼きと合わせるべきか……そんな平和な悩みで頭をいっぱいにしていた。

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