表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青いウサギはそこにいる  作者: 鈴木志稀
ヴァン・ヘイレンとライダーキック
1/29

ヴァン・ヘイレンとライダーキック①

 京都府立紅葉館伏見高等学校の軽音楽部には毎年5月の4週に新入生が組んだバンドのお披露目会がある。新入生同士で組むバンドがメインだが、サポートで上級生が入っているバンドもある。その中で四方田よもだたまきと幼馴染の大西おおにし優里ゆうりはギターとドラムのユニットで出場していた。演奏する曲は環がギターを始めるキッカケになったヴァン・ヘイレンの『Eruption』。環のグリスサウンドが会場である体育館に響く。マイナーのペンタトニックスケールをチョーキングやアームを使って音を揺らし曲が始まる。そこに静かに優里のドラムが入っていく。環がギターを大きく歪ませたところでドラムが大きくリズムを奏でる。一瞬の空白の後に環はハミングバードで腕を小刻みに回転させながらスケールを上下させる速弾きから指板を指で叩くタッピングへと演奏を変えていく。優里は環に合わせながら所々アクセントになるようにドラムを叩く。体育館に集まっている生徒たちの一部からため息が漏れる。と同時に、これなんなのという雰囲気でいる生徒も何人かいた。

 『Eruption』は演奏する人間によって間を作る事が出来る。環は昔Youtubeで見たヴァン・ヘイレンのように、タッピングの手を止めて間を作った。本来はアーティストが観客の反応を伺い、それに対して観客が反応を一体になって返し、その反応に返す演奏をするコール&レスポンスの間合いだが、環はタメの意味で入れていた。その時、「なんや、ええかっこしいやんな」と、会場のステージ近くの男子生徒が聞こえるように呟いた。

 会場にいた生徒がイヤな空気を察してざわつく。優里も不安そうな顔を環に向ける。しかし環は気にせず次のフレーズを弾き始める。と、そこに「あー、耳障りやなー」と、先程の生徒が続けてヤジを飛ばす。

 環はその生徒を一瞥するが、そのまま演奏を続けようと弦を鳴らす。しかしその男子生徒はヤジをやめようとはしなかった。無視する環に向かって「自分で上手いとか思うてんのかこのチビ」と叫ぶ。

 145センチと小柄な環は、昔から背が小さいのがコンプレックスだった。そのヤジにカチンときた環は思い切りピックを振り下ろし大きく弦をかき鳴らすと、後方にあるアンプに近付く。その瞬間体育館全体にキーンとハウリングの音が響く。

 なんだなんだとざわつく観客に動じずに環はマイクを取った。

「文句あるんなら聞きますけど?」

 環の視線の先にはいるのはヤジを飛ばした生徒、軽音部員副部長で2年生の平井正志がいた。

「はぁ? 正直な感想やんけ」

「やかましいわ、ギター弾くんに関係あるんか⁉︎」

「チビのくせにカッコつけて弾いてんから言っただけや! そんなんに反応すんなや、ガキが」

 興奮して上級生に向かって行こうとする環をいなそうとする優里。エキサイトしている副部長の平井も数人の友人らに抑えられている。

「だいたいなぁ、先輩に向かってその態度はなんやねん」

 一触即発な状況の中、心配そうに間にいた優里に環がギターを押し付けるように渡す。次の瞬間、ステージ上から助走をつけた環は平井目掛けて宙を舞う。

 環の身体は弧を描き、その上級生に向けて蹴りを放つ。見事なライダーキックが炸裂し、体育館の中に驚きの声が上がる。

 慌てて駆け寄る教師たちの声や心配そうな友人の顔がちらつく。


 その日から環はロック様と呼ばれるようになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ